魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

文字の大きさ
202 / 268
第七章「決闘炎上」

第201話 ティルフィング、参上!

しおりを挟む
 ”足喰み苔”による突進の封殺、炎の騎士ゴーレムたちの自壊、”溶鋼メルティ蛸樹パンタナス樹”による鋼のゴーレムの崩壊。

 これらの三つによりオーギュストの心を折ったと判断した双魔は昏倒させて決着をつけるために、青ざめた相手に狙いを定める。

 (…………これで終わりだな)

 しかし、意気消沈したように見えたオーギュストの様子が一変した。

 自信ありげな表情を浮かべて懐から何かを取り出し、頭上に掲げて見せた。

 その手に握られているのは金の短杖だった。注目すべきはその先端についた紅玉だ。

 それは、異様な存在感を放っていた。

 (あれは……なんだ?)

 ゾクリと背筋が冷たくなり強張った。嫌な予感がする。本能が警鐘を打ち鳴らす。

 「ハハハハハ!僕はまだ負けていない!目にものを見せてやる!我、神の御業を写しし者!汝、命を吹き込まれし者!我が魔力を糧に!その力を解放し我が敵を打倒さん!ハハハ……アッハッハッハ!エバの心臓は僕の物だ!誰にも渡さない!」

 乾いた高笑いを上げ、オーギュストが詠唱を叫んだ瞬間、紅玉が凄まじい光を放った。

 「きゃっ!?」

 離れて見ているイサベルの悲鳴が聞こえ、視線をそちらに送ったが、強烈な光に耐えられず、すぐに目を瞑ってしまう。

 「ッ!?熱っ!」

 視覚を封じられた直後、身体が感じ取ったのは、肌を焦がすような熱さだった。

 光に目をやられてすぐに視覚は回復しそうにない。咄嗟に後退しながら魔力を察知しようとする。

 「は!?」

 そして、すぐに巨大な魔力を感じ取る。しかもそれは徐々に大きく膨れ上がっていく。

 訳が分からず目を開く、幸い、想定より早く視覚が回復したようで、視界は鮮明だ。

 されど、その目に映った光景は常軌を逸していた。

 炎だ。巨大な炎熱の塊がそこにあった。その大きさは十メートルは下らない。

 炎塊はやがて、膨張を止めるとゆっくりと空へと上昇していった。

 その熱に当てられて公園の樹々が発火し、立っていた鉄柱が赤熱を帯びグニャリと曲がり、次の瞬間にはどろりと地面に溶け落ちた。

 「双魔君!!」
 「伏見くん!離れるんだ!すぐに!」

 イサベルとキリルの叫び声が聞こえた。視線をやると必死の面相でこちらを見ていた。

 何が起こっているのか理解が追いつかないが、あの炎塊から離れる判断は間違いではない。

 「……………………」

 双魔は今一度、炎塊を睨み、イサベルたちの方に逃げようとした。が、視界の端にペタンとその場に座り込み、ピクリとも動かないオーギュストの姿が入った。

 「…………」

 身に纏う服には既に火がつき、身体も焼けているにもかかわらず、オーギュストは炎塊を見上げるようにして一切動かない。

 「チッ!おい!」

 呼び掛けるが反応はない。

 「ったく、面倒な!」

 気に喰わないやからだが見捨てるわけにもいかない。双魔は手元に蔓を呼び出し、勢いのまま前方に伸ばしてオーギュストの身体に巻きつけると思いきり引っ張った。

 ティルフィングがいないため膂力は常人程度、軽々と大の大人の男を扱うには及ばない。そのため伸縮性のある蔦を呼び出した。

 オーギュストを絡めとり、伸び切った蔓はゴムのようにこちらに返ってくる。

 「伏見くん!そのままこちらへ!」

 振り返るとキリルの横に人型のゴーレムが構えていた。

 「っ!しっ!」

 双魔は迷わず蔓を引っ張る。炎の熱に耐えられなかったのか、蔓が焼き切れそのままオーギュストの身体は空中に投げ出されたが落下地点に滑らかな動きで滑り込んだゴーレムがしっかりと受け止めてくれたようだ。

 「”水よアクア”!」

 燃えている服を消火するためにイサベルが水の魔術を放ちゴーレムごと濡れ鼠になったわけだがオーギュストは目を覚まさない。

 「…………冗談だろ?」

 イサベルたちと合流した双魔が振り返るとさらに信じられない光景がそこにはあった。

 球体の炎塊、煌々と輝き、冬の空気を熱で蝕む小さな太陽のような存在。

 その球体から、ずるりと腕のような物が出てきた。右腕だ。続いて左腕が形作られ、右脚、左脚が地面につく。

 そして、胴、最後に頭が形成される。

 「「「…………」」」

 あまりに衝撃的な出来事に三人は絶句した。

 双魔の脳裏にはある言葉が蘇る。

 (…………『こわいこわい火』…………まさか、これのことなのか?)

 箱庭の巨樹の精が言っていたのはこれのことなのか。

 「……炎の……巨人…………」

 ポツリとイサベルが漏らす。

 そう、目の前の高さ三十メートルはあろう炎はまさに炎の巨人であった。

 足がついている場所を中心に円状に炎の輪が広がり公園を焼き尽していく。

 「不味い!ともかくここを離れよう!」
 「分かりました!ガビロール!」
 「あっ、えっ?きゃっ!?」

 キリルとオーギュストを抱えたゴーレムが走り出すのを見て、双魔もイサベルの手を取って走り出す。

 幸い、決闘のために人払いをしていたので周囲に人はいない、が突如現れた巨大な異形に市民が気づかないはずもなく、離れたあちらこちらから悲鳴が聞こえてくる。

 「もしもし、キリル=イブン=ガビロールだ!緊急事態だ!応援を頼む!」

 走りながらキリルは何処かに電話を掛けている。それを見て双魔もスマートフォンを取り出し、画面を見ずに操作して電話を掛ける。

 『もしもし!双魔!?』

 ワンコールなり終わる前に繋がる。双魔が電話を掛けて相手はアッシュだった。

 「アッシュ!今どこにいる!?」
 『今、宮殿の庭だよ!もしかして炎の巨人のこと!?』

 どうやらアッシュからも見えているらしい。声からも切羽詰まった様子が分かる

 「見えてるなら早い!宮廷騎士団と魔術団に連絡を!それとアイギスさんと町の人たちを守ってくれ!」

 『分かった!任せて!双魔は何処にいるの!?って…………あの巨人、こっちに向かって歩きはじめてない!?』

 「何っ!?」

 振り返ってみれば、確かに炎の巨人は双魔たちが走っている逆方向、すなわちブリタニア王国の王宮の方に足を向けて踏み出していた。

 『双魔!どうするの!?』
 「ちっ!とりあえずさっき言った通りにしてくれ!俺もティルフィングとそっちに向かう!」

 双魔は返事を聞く前に通話を切った。

 「キリルさん!」
 「なんだい!?伏見くん!」
 「どうやらアレは王宮に向かいそうです!自分はティルフィング、契約遺物と討伐に向かいます!キリルさんとイサベルは市民の避難誘導と消火活動に向かってもらえませんか?」

 双魔の話を聞いてキリルは足を止めた。

 真剣な表情でこちらを見てくる。

 「……分かった!宮廷と魔術協会、それとヴォーダン=ケントリス殿への連絡は済ませてある…………くれぐれも気をつけて欲しい!」

 双魔はその言葉に力強く頷く。そして、振り返ってイサベルを見た。

 「……双魔君」

 そこには、覚悟を決め凛然としたイサベルが立っていた。しかし、その紫紺の瞳は不安げに揺れていた。

 事態に気が昂っていたのか双魔はキリルの前にもかかわらず、握っていたイサベルの手を引いて、その華奢な身体を強く抱きしめた。

 「あっ…………」
 「大丈夫だ……アレはきっとどうにかする……ガビロール……いや、イサベルはキリルさんと街の被害を食い止めてくれ……」

 耳元で優しく語りかけ、背中に回した手を上下に動かしてイサベルが安心感を得られるようにする。

 「……任せてください……その代わり、無事に帰ってきてくださいね?」
 「ああ、勿論だ!」

 約束を交わすと二人は離れる。もう一度みた、イサベルの綺麗な瞳に不安は一切残っていなかった。

 「お願いします!」
 「……ああ、任せなさい!行くよ、ベル!川で水のゴーレムを作って消火にあてる!」
 「はい!お父様!」

 愛娘が目の前で男と抱き合っていることに複雑な念を覚えたのか、キリルは一瞬微妙な表情を浮かべていたがすぐに切り替え、イサベルと共にテムズ川の方へと走っていった。

 残った双魔はその場で立ち止まり、右手の聖呪印、ティルフィングとの契約の証へと魔力を集中させる。

 まだ一度もやったことはないが、遺物使いは聖呪印で常時、契約遺物と繋がっており、離れた場所にいても強く念じれば空間を超越して遺物は召喚に応じてくれるらしい。

 今は急を要する。アパートに帰っている余裕はない。

 「ティルフィングが契約者、伏見双魔の名において願い奉る!盟約に従い、我が傍らに馳せ参じたし!」

 高らかに叫ぶ。すると、右手の甲に刻まれた紅雪の聖呪印エンゲージが強く輝いた。

 先ほどの巨人とは違い優しい凍気を伴った輝きだ。

 「…………」

 双魔は紅の輝きから一切眼を逸らさず、瞑ることもなく目を見開いていた。

 そして、輝きが徐々に収まり、弾けて消えた。

 誰もいなかったはずの目の前には、一人の少女が立っていた。

 長く、夜闇を織ったように美しい黒髪の少女だ。閉じていた瞳をゆっくりと開く。

 左眼は紅、髪に隠れた右眼が一瞬、黄金の輝きを放つ。

 「…………我を呼んだか?ソーマ!」

 本当に現れた。目の前に立っているのは紛れもなく双魔の契約遺物、ティルフィングだった。

 にぱっとあどけない笑みを浮かべて双魔の顔を見上げている。そして、なぜかいつもの黒のワンピースの上からピンク色のフリルが可愛らしいエプロンをつけていた。髪は後ろで一本にまとめてある。

 が、今はそんなことを気にしている暇はない。

 「ああ……わざわざ、呼び出して悪いな……」
 「何を言う、我とソーマの仲ではないか?」

 ティルフィングは一歩前に出て双魔に抱き着くとすりすりと猫のように顔をこすりつけてきた。

 「…………」

 双魔は黙って、ティルフィングの頭を撫でてやる。

 そうしながら、ゆっくりとだが確実に前進する厄災へと目を向けた。

 「ティルフィング……行くぞ」
 「む?よくわからんが……我に任せておけ!」

 ティルフィングは再び双魔の顔を見上げると力強く頷くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

霊力ゼロの陰陽師見習い

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...