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19 異変!③ ~四日目
しおりを挟む「ウィンドスラッシュ! くそっまた出てきやがった、切りがない!」
視界を遮るガスが立ち込める森を、ライアンの風魔法で吹き飛ばしながら戦っていた。
「ストームカッター!」
毒に犯され変異し凶暴化した魔物が、後から後から溢れてくる。
ポイズン・レッドアントを五十五匹、ポイズン・トレントを三十匹、ポイズン・ワイルドボアを二十頭、ポイズン・ジャイアントスネイクを十頭倒した後は数えるのを放棄した。
いくら事後に報告が必要でも、絶え間なく現れる敵と息つく間もなく戦っていてはカウントする余裕などない。
ライアンの横で複数のポイズン・レッドアントを蹂躙していたグレイスに声をかける。
「補給だ」
前衛で戦い続けるライアンとグレイスは、ポーション補給と息を整えるため、一旦後方に退く。
「マリサ嬢に感謝!」
声をあげた大剣持ちがライアンの前に躍り出るやいなや、ポイズン・レッドアント三匹を一挙に薙ぎ払った。
「女神に感謝!」
ペガサスに騎乗した長槍の騎士が後に続き、二匹のポイズン・レッドアントを串刺しにした。
「マリサ嬢に感謝! フローズンアロウズ!」
後衛の魔術師から魔法が炸裂した。
公爵領を護る魔術師、魔術騎士は、血縁者が多くを占めている。魔法を持たない者もいるが、その結束は固い。
中でも、ライアンの曾祖母、マリアの血を受け継ぐ魔術師、魔術騎士達は、光魔法こそないが、複数の魔法を操る者が大半を占めていた。
数は多くないが、水魔法と他の魔法の組み合わせにより、「浄化」魔法を習得する者もいる。だが、浄化には相当の魔力が必要になるため、範囲の広い毒と瘴気のガスの浄化をし続けるのは不可能に近い。
マリサから貰ったブロックイチゴをグレイスにやり、ライアンは魔力ポーションと体力ポーションをぐいぐいっと一気飲みした。
一時間もせぬ内に飲む、それぞれ三本目の魔力と体力ポーションの苦さには辟易していたが、皆の掛け声に改めて前を向く。
(そうだ、我々にはマリサ嬢という女神が付いている!)
ライアンは芽生えそうになった弱音を笑い飛ばして剣を握り直した。
マリサの光魔法のおかげで、この毒と瘴気を帯びたガスの立ちこめる中、喉や肺や皮膚や目を犯されることなく、通常通り戦えているのだ。
ライアンは剣を振り上げ先頭へと駆けていく。
森に進軍する途中、伝令で、ポイズンバッタの死骸の位地は把握済みだ。
マリサのおかげで魔術師達の浄化魔法は温存できているが、光魔法の効果は後僅かで切れるだろう。
「この先、南の領地との境まで一気に行くぞ!」
おうっ!!
皆から声が上がった。
森を抜け枯れ果てた農地に着くと、山となったポイズンバッタが見えてきた。死骸から発生した魔素が瘴気を生み出し、毒ガスを放ち続けている。
「マルチプル・ウインドアロウズ! よし、浄化魔法を中央へ! ついで、火魔法を叩き込め!」
わらわらと集まる魔物の群れに魔法の矢を雨と降らせて、ライアンが咆えた。
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