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友人として
②
しおりを挟む「……私はいいから」
当時の記憶が脳裏を掠めたせいで、気分ばかりか声までズンと沈んでしまった。
「なーに言ってんのよ! いつまでもそんなんじゃ、あっという間に老けて、おばあちゃんになっちゃうわよ」
意図せず可愛くない言葉が遥奈の口からポロリと零れていく。
「年取れば老けるのは当然だし」
「だから、若さを保つためにも恋しなきゃって言ってんの! 新しい恋で女性ホルモンの分泌が活発になったら、身も心も潤って、ついでに古傷も癒えて、一石二鳥よ。患者さんばっか癒してる場合じゃないんだからね」
京香の言わんとすることはわかる。
けれど、そう簡単にいかないのが人の心というものだ。だからこそ、心療内科医が必要なのである。
無理矢理どうこうしようとしたって、うまくはいかない。とはいえ、行動を起こさないままではいつまで経っても進めないままだ。
――わかってはいても、深く抉られた傷の再生には時間がかかる。
などと言い訳をしているうちに、五年もの年月が過ぎた。傷を癒すには充分な時間だったはずなのに、いまだ足踏み状態だ。
そんな事情もあり、彼氏いない歴五年目を更新中である。
遥奈は身長も一六〇センチと平均的で容姿も平凡だが、ふんわりと柔らかな雰囲気とおっとりした性格のせいか、昔から『癒し系』だと言われてきた。
患者からは『癒しの遥奈先生』と呼ばれているほど評判も良い。
スタッフからも『困ったときの遥奈先生』と呼ばれるほどには慕われている。
それは、頼られたり頼まれたりすると嫌とは言えず、何でも笑顔で引き受けてしてしまうからでもあったが……。何事にも真剣に取り組んできたからこそだ。
何より、心療内科医としての仕事に誇りを持っているし、やり甲斐だって感じている。
「……わかってるんだけどね。今は、仕事のことで手一杯かな。専門医試験まで二年もないし」
「専門医にならなくても問題ないんだし、そこまで拘らなくてもいい気もするけど……。院長に憧れて医師になった遥奈の夢だもんね。全力で応援するから頑張って」
確かに、心療内科専門医でなくとも、内科医であれば心療内科医にはなれる。だが、患者一人ひとりの心に寄り添うため日夜研鑽に励む院長を尊敬し目標としてきた遥奈にとって、心療内科専門医になるのは子どもの頃からの夢だった。嘘ではないが事実とは少し違う。
本当は、中学生の頃、校内で行われた弁論大会で、二年先輩だった零が読み上げた弁論文がきっかけだった。
内容は、『心身症』について語られていたっけ……
ふいに当時の記憶と淡い恋心まで想起しそうになって、遥奈は慌てて打ち消した。
――余計なことは考えない。今は恋なんかに現を抜かしている暇なんてないんだから!
むろん、遥奈にとって、恋は忌避したいものでしかないので、好都合である。
「うん、ありがとう」
「まぁ、無理強いはしないけどさ、気が変わったら言いなさいよね。遥奈に相応しいイイ男紹介してあげるから」
あれこれ言いつつも、最後にはこうして遥奈の気持ちを尊重してくれる。
「えっ、それはヤダ」
「ちょっと、『ヤダ』って何よッ! 即答だし」
気心の知れた京香のお陰で暗い雰囲気にならずにすんだ。
二人でわいわい騒いでいると休憩室に受付クラークの倉科が顔を覗かせた。
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