嘘つき同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。【改稿版】

羽村 美海

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#2 不埒な攻防戦

#8

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 そして驚くことに、窪塚は高校三年生の頃に幼馴染みのことを好きだと自覚して以来、ずっと特定の彼女も作らずにいたのだとか。

 けれども、お兄さんと彼女が付き合うようになった医大生の頃、少々自棄になったこともあったようで。

 彼女のことを忘れるために、何人かの女性と身体だけの、いわゆるセフレのような関係を持っていたこともあったらしいのだが。

 そんなことをしたところで、忘れられなかったどころか、好きでもない相手との行為は虚しいだけだし、相手に好きだと言われたりして色々面倒になってきたため、最近ではそういう相手を作ってはいなかったらしいので、窪塚にとっては久方ぶりのことだったのだという。

 相当遊んでいるに違いないと踏んでいたのだが、どうやら、遊び呆けていた訳ではなかったらしい。

  失恋のことに関しては、冗談めかして話してたこともあり、窪塚がどれほどのダメージを受けてるかなんて、そんなことは分からないが。

 結構堪えていたらしいことは、説明してくれてた間、窪塚がふいにどこか悲しそうな表情をチラつかせていた様子から、窺い知ることができた。

 医大の頃よりずっと、『外科医になるべくして生まれてきた天才』だとか『脳外の貴公子』なんて、もてはやされてきた窪塚には、失恋や悩みなんてものは無縁だと思っていたのに。

 以外にも一途だったり、失恋したりと、人並みに想い悩むことがあったのだと分かり、見直したというか虚を突かれたというか。

 これまで私が窪塚に対して勝手に抱いてしまってた悪い印象のどれもこれもが、少なからず私が持ってしまってた偏見所以なのだということは分かった。

 だからって、まだ窪塚のことをよくは知らないので、全てがそうだとは断言できないし。

 ここに来る直前の、あの強引なキスの件もあるのだし、私にセフレを強要しようとしている件もあるので、それを全部水に流すことは当然できはしないが。

 少なくとも、チャラいなんて思ったことに関しては、改めてあげることにした。

 それから、この前の夜の行為に関しては、久方ぶりだったらしい窪塚とは違って、私にとっては初めてのことだった訳なのだが。

 記憶も定かじゃないし、二十七歳を目前にして処女だったのかと思われるのも嫌だし、なにより窪塚は気づいていないようなので、これ幸いと話は合わせておいた。

 それにしても、チャラいヤツだとばかり思ってたこの窪塚が、まさか、そんなに長い期間、プラトニックな恋愛に身をやつしていたなんて……。

 ――本当に人は見かけによらないものだなぁ。

 窪塚の説明を聞き終えて、暢気なことを考えている私の耳には、セフレの件でなにやら可笑しなことを仄めかす口ぶりの窪塚から、

「まぁ、そういう訳で、お互い他人には知られたくない秘密を共有してるってことで。これからは持ちつ持たれつ、よろしく頼むわ」

声が届くと同時に、依然組み敷かれてしまっている私の顎は、正面で固定するようにして手でしっかりと窪塚に捉えられてしまっている。

 そのため、自然とこちらをまじまじと見下ろしてくる窪塚の視線と私のそれとが、見つめ合うような格好となってしまっているものだから。

 あの強引なキスはもちろん、この前のあれこれまでもが次々に蘇ってくる。

 否が応でも、窪塚のことを意識してしまっている私の鼓動が早鐘を打ち鳴らしはじめてしまった。

 そりゃあ、当然だ。

 久方ぶりだった窪塚とは違い、致してしまったのが初めてで、こういうことに免疫がないのだから無理もない。

 ――しっかりしろ、自分。

 こんなことでイチイチ動揺してたら、窪塚に勘づかれてしまう。

 ええいとばかりに気持ちを奮い立たせて、窪塚めがけていつもの調子で言い返してやろうと思っていたのに。

 言い返すよりも先に、不意をつくようにして、窪塚から突拍子もない言葉が降らされた。

「この前もそうだったけどさぁ。藤堂の前でもそうだったのか?」

 けれども、言われたことの意図がまったく掴めない。

 羞恥よりもそっちの方が気にかかり、無意識に小首を傾げ、窪塚のことをキョトンと見つめ返すことしかできないでいる。

 そんな私に向けて、「はぁ」と毒気を抜かれたように力なく溜息を漏らした窪塚から、

「否、ほんとマジで、なんなんだよ? その反応」

そんな言葉を返されたところで、まったくもって、その意味が理解でいない。

 私はますます困惑状態だ。

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