嘘つき同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。【改稿版】

羽村 美海

文字の大きさ
58 / 109
#6 不埒な純愛 

#13

しおりを挟む
 思い通りにいかない現実を突きつけられ、さっきまであんなに幸せな心地でいたのが嘘だったかのように、熱を帯びていた心が急激に冷えていく。

 それらと比例するかのように、背後から受け入れたままの窪塚自身までシュンと僅かに勢いを失ったように元気をなくしてしまっている。

 なんだか、『本当に抱きたいのはお前じゃない』そう言われているようで、自分のことが惨めに思えてきて、余計に虚しい気持ちになってくる。

 目頭がじんと熱くなってきた。このままでは本格的に泣いてしまう。

 泣いてしまったら、すぐには止まらないだろう。

 そんなことになったら、窪塚に不審に思われる。この想いに勘づかれてしまうかもしれない。

 ーーそれだけはなんとしても阻止しないと。

 これ以上にないくらいに虚勢を張り巡らして、私は至って冷静に声を放った。

 これからも窪塚のセフレとして、窪塚の傍に居続けるために。

「……なによそれ、どういう意味よ。私が泣いちゃダメってこと?」
「否、別に、そういう意味じゃねーよ」
「もーいい。アンタの意見なんて別にどっちでもいいからっ。そんなことより、何よ、ただ性的な涙流しただけでイチイチ謝られても困るんだけどッ」
「……性的な涙って。そんな感じじゃなかっただろう?」

 こっちがこんなにも必死になってなんでもない風を装おうとしてるっていうのに……。

 私のことを抱き込んでいる腕を解いた窪塚は、私の表情から何かを汲み取ろうと、いつになく真剣な眼差しでじっと見据えてくる。

 その顔がこれまで見たこともないような真剣なものだったために、胸がザワザワと騒いでちっとも落ち着かない。

 今にも心の中を見透かされてしまいそうで、背筋に嫌な汗が滲んでくる。

 ーーな、何よ。

 私のことなんかただのセフレとしか思ってないクセに。そんなことでイチイチ突っ込んでこないでよ。

 いつもいつもこっちの意見なんて無視するクセに。そんな些細なことにイチイチ気づいてんじゃないわよ。

 ーーこっちの気も知らないで。

 もうこうなったら勢いでカバーするしかない。

 ーー実力行使あるのみだ。

 自分に不利なこの状況から脱するべく、私のことを追い詰めてくる窪塚の手をピシャリと手で払いのけ。

「ちょっと、窪塚。いつまで私のこと待たせる気なの? 本人の私がなんでもないって言ってんだから、さっさと続けなさいよッ! それとも、私の泣き顔見て萎えたとでも言うの?」

 私の突飛な言動に、鳩が豆鉄砲でも食らったときのような表情をしてしまっている窪塚に向けて勢い任せに言い放つと。

 ハッとした窪塚が根負けしたように、「はぁ」と短く息をついてから、

「わーったよ。続ければいいんだろ。俺が何か言ったところで聞く耳なんて持たねーもんな」

 心底呆れ果ててでもいるのか、どこか投げやりでそんなことを言ってきたかと思えば。

 窪塚は繋がりあったまま器用に、横向きだった私の身体を仰向けにして、そのまま身体の上に覆い被さるようにして私のことを組み敷いてきた。

「その前に萎えたかどうか、触って確かめてみるか?」
「……?」

 唐突にそんなことを訊ねられても意味が掴めず、キョトンとしていると。

「おいおい、何ポカンとしてんだよ。ついさっき自分が言ってたこともう忘れたのか?」
「////ーーッ!?」

 再度窪塚の声が降ってきたことにより、問われた意味をようやく察することとなった私の顔から全身が瞬く間に熱を帯びていく。

 それもそのはず。今も受け入れたままなのだから、手で触って確かめるまでもなく、窪塚自身が萎えていないことは明白だった。

 一瞬にして形勢逆転。

 どうやら窪塚は、もうすっかりといつもの情事限定のドSっぷりを取り戻してしまったようだ。

 そしていつもの調子を取り戻した窪塚に組み敷かれてしまっている私は、私で。

 いつものドSっぷりを取り戻してしまった窪塚に、雄を思わせるような欲情の熱を孕んだギラギラとした強い眼差しで見下ろされているだけで、下腹部の奥をズクンと疼かせてしまっている。

 悔しいから認めたくはないが、やっぱり私は、正真正銘のM気質であるらしい。 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...