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#49 いざ、出陣!? ⑵
しおりを挟む昨夜はなかなか寝付けなくて、貫徹だと覚悟していたはずが、朝の目覚めは頗る快調だった。
心なしか、いつもより頭もすっきりとしているような気がする。
チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえてきそうな五月の季節に相応しい、とっても爽やかな朝。
目を覚ましたばかりの私は、まだ夢の中の桜小路さんの腕から抜け出して、「う~ん」なんて言いつつ、両腕を思いっきり広げていた。
その横で、寝起きの頗る悪い桜小路さんはモゾモゾと布団の中に潜り込んで、イモムシと化している。
今日の寝起きは、一段と悪そうだ。
いつもだったらさっさと寝ちゃってたはずなのに、昨夜は、ずっと寝ないで私のことを気にかけてくれていたせいだろう。
きっと、うっかり者の私が貫徹なんかして、ご当主との顔合わせの席で、何かをやらかすんじゃないかと気が気じゃなかったに違いない。
そういう裏があるからだっていうことは充分理解してはいるんだけど……。
どこかの国の王子様然とした桜小路さんに、あーやってよくからかわれたりもするけど、なんやかんや言いながらも、優しく気遣ってもらったら、やっぱり悪い気はしない。
だからって、桜小路さんにお礼なんか言った日には、『勘違いするな』って言われるのは目に見えてる。
だから面と向かっては言えないけど、胸の内でコッソリ感謝しつつ、依然イモムシ状態の桜小路さんの身体を布団ごとゆすって、起こしにかかった。
平日は特に何も言われてはいないからこんな風に起こすことはないが、休日は起こすようにと本人に命じられているからだ。
「桜小路さん。そろそろ起きないと、食後のコーヒーゆっくり飲めませんよ」
「……うっさい。もう起きてる。少し横になってるだけだッ!」
「じゃあ、先に行ってるんで起きてくださいね?」
「……あぁ」
休日の朝の恒例となってしまった寝起きの頗る悪い桜小路さんとのやりとりを経て、この日は始まった。
そうして只今の時刻は、約束の時間の十分前にはここ、田園調布の一等地に位置する、どこまで続いてるんだろうと思うくらい広範囲をグルッと取り囲む高い塀に覆われた桜小路家へと到着したから、おそらくちょうど約束の午前一〇時を少し回った頃だろうか。
退院した時と同じ、専属の運転手である鮫島さんが運転する黒塗りの国産高級車に揺られること数十分。
流石は天下の桜小路家。これ本当に一般の家ですかと思うくらい、重厚な門構えの、それはそれはオシャレで立派な西洋風の豪邸だった。
お陰で、私はさっきから緊張しっぱなしだ。
桜小路さんに手を引かれてここまでやってきた私は、まるで連行でもされてるように周囲から見えていたことだろう。
その後ろには、執事兼秘書の菱沼さんと、勿論カメ吉の姿をした愛梨さんも一緒だ。
そんな私たちを出迎えてくれた使用人の女性に案内された、これまただだっ広い応接室のアンティーク調のふわふわのソファで桜小路さんもとい、『創さん』と隣り合って寛ぎながら、ご当主の登場を今か今かと固唾を呑みつつ待っているところだ。
因みに菱沼さんは、私と桜小路さんの座っている中央に置かれた応接セットから少し離れた出入り口に近い場所で、空気と化して控えている。
そしてその手には、カメ吉専用の水槽が大事そうに抱えられていて。
【もう、何年ぶりかしら。これから創一郎さんに会えると思うと緊張しちゃうわぁ。あらヤダッ! どうしましょう。私ったらすっぴんだわぁ】
さっきから大はしゃぎの愛梨さんは自分が亀だというのも忘れ、キャッキャと騒いでるお陰で、ほんのちょっぴり緊張感が和らいできた。
少々余裕をかました私が調子に乗って。
『イヤイヤ、愛梨さん。化粧なんて必要ないですから』
心の中で、愛梨さんに突っ込んでいると、突如出入り口のドアがガチャリと音を立てた。
その瞬間、緊張感が一気に跳ね上がり、もうドキドキしすぎて口から心臓が飛び出してしまいそうだ。
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