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#87 王子様からの贈り物 ⑶
しおりを挟む朝からはしゃぎ通しだった私は、案の定、帰りの車中で転た寝をしてしまうという大失態を犯してしまうのだった。
車が揺れる微かな振動がゆりかごのように心地よくて、程よい疲労感との相乗効果で、いつしか寝入ってしまってたらしい。
「……ん? ああーッ!? 私ってば、いつの間にッ!」
不意に目を覚ました私が慌てて起き上がろうとするも、転た寝していた場所がなんと創さんの膝の上だったために、それは叶わなかった。
「疲れただろうからこのままじっとしてろ。マンションに着いたら俺が運んでやるから。いいな?」
「////……ッ!?」
否、正確には、飛び起きようと思えばいくらでもできたのだけれど、寝起きで食らってしまった、創さんの蕩けるような笑顔の威力が凄まじすぎて、できなかったのだ。
あたかも石にでもされてしまったかのように、カッチーンと硬直してしまっている私のことを膝枕してくれている創さんは、相変わらず蕩けるように甘やかな笑顔を綻ばせつつ、私の額やら頭を優しく撫でてくれている。
胸はドキドキするし頭もクラクラとしてきて、どうにかなってしまいそうだ。
けれどそれは、創さんの極上の笑顔と膝枕の効果だけが原因ではなかった。
どういうことかというと……。
水族館をあとにしてから、ウインドーショッピングしたりしているうちにすっかり日も暮れていて、小洒落たイタリアンのレストランで夕食も済ませているので、あとはもう帰るだけ。
創さんとの記念すべき初デートだし、おそらく今夜は――。
そこまで思い至った私の脳裏には、創さんと想いが通じあったあの夜のあれこれが映像となって鮮明に浮かんでいたのだった。
あの日は土曜日で今日が火曜日だから、まだほんの三日ほどしか経っていないため、それはもうくっきりハッキリと。
因みに、あの日以来、”そういうこと”はしていない。
だから、そろそろそういうことがまたあるんじゃないだろうか。
そんな緊張感に見舞われている間に、車はいつの間にやらマンションの駐車場へと到着してしまっていて。
「明日もいつもの時間に頼む」
「はい。畏まりました。それでは失礼いたします」
「あぁ、世話になった。気をつけてな」
極度の緊張感に見舞われてもはや微動だにできずに居る私のことをひょいっと難なくお姫様抱っこしている創さんは、鮫島さんと言葉を交わすと、スタスタと歩き出してしまうのだった。
――いよいよなんだ。
そう思いつつ創さんの腕の中で身構えていたのだけれど。
「どうした? やけに静かだな? もしかして、このあとのことを案じてるのか?」
「////……ッ!?」
それをあっさり見破られてしまい、真っ赤になって狼狽えることしかできないで居る私に向けて。
「ハハッ。菜々子は分かりやすいな。顔に全部書いてあるぞ?」
創さんが尚も追い打ちをかけてきた。
その言葉に、うっかり者の私は思わず顔に手を当てて確認するというおバカっぷりを披露してしまっている。
そんな私のことをやっぱり蕩けるような笑顔を湛えたイケメンフェイスで見つめつつ。
「ハハッ、冗談を真に受けるな。あーあー……。菜々子と一緒だと本当に楽しくて時間が経つのもあっという間だな~」
軽いツッコミをお見舞いしてから、なにやら感慨深げに独り言ちるように呟くと。
今度は、気持ちを切り替えるようにして、
「さてと、帰ったらさっさと風呂に入って寝るぞ」
そう言ってくるなり、
「……あっ、はいッ!」
私の返事を聞き終えないうちに、創さんは、さも何もなかったかのようにスタスタと部屋に向けて歩き出してしまったのだった。
ついさっきまで、あんなにテンパっていたクセに。
――なんだ。何もないのか。
創さんの腕の中で揺られながら、私はがっかりしてしまっていたのだった。
そんな私の心の中には……。
やっぱりこれまで色んな女性とそういうことをしてきたのだろう創さんにとったら、私みたいな処女では、物足りなかったんだろうなぁ。
……もう飽きられちゃったのかなぁ。
いやいや、そんなことはないよね。今だって、私と一緒だと楽しくてあっという間に時間が過ぎるって言ってくれてたんだもん。
――愛梨さんが言ってくれたように、創さんのことを信じないと。
いつしか不安が芽生えていて、でもそれを愛梨さんの言葉のお陰ですぐに打ち消すことのできた私は、気持ちを切り替えることができたのだった。
翌日の二日目のデートでは、昼間は映画館で初めてのカップルシートで創さんとゆっくり寛ぎながら流行の映画を鑑賞して、夜は創さんの提案により、都会の夜景を優雅に眺めながら美味しいディナーを堪能するという、なんとも贅沢なナイトクルージングを楽しんだ。
その翌日の三日目のデートでは、ちょっと遠出をすると言うからどこに行くかと思えば、なんとチャーターしたヘリに乗って、都心から富士山の麓までの空中ドライブを楽しみつつ、辿り着いた綺麗な湖の畔にある素敵なコテージでは、しばし都会の喧騒を忘れて、ゆったりのんびりと過ごしたりもした。
王子様然とした創さんと夢のようなひと時を過ごしているうちに、一週間なんてあっという間に過ぎ去っていて、とうとう休日の最終日である夜を迎えてしまっている。
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