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#15 思いがけない言葉
しおりを挟む翌朝になって、前日の朝と何ら変わらない、ちょこんと跳ねた寝癖頭に、色違いの青いチェックのパジャマ姿でダイニングに現れた桜小路さん。
「おはようございますっ!」
「あー。今日もやかましいぞ」
これまた昨日同様の、寝起きのせいか、一段と無愛想で不遜な口調だったけれど。
あくびをした直後だったのか、寝ぼけ眼をウルウルさせている様は、もはや可愛らしいを通り越して、憎たらしいくらいだ。
――やっぱりイケメンは最強だな。羨ましい限りだ。いやいや、そんなことより、特に落ち込んでる風でもないし、良かった良かった。
昨夜、桜小路さんの幼い頃の話を聞いたばかりだったから、寂しがってないか心配だったけれど。
もうすぐ二十七歳になるそうだし、さすがは桜小路グループの御曹司、どうやら杞憂だったようだ。
ほどなくして、姿を現した菱沼さんを交えての朝食も終えて、すっかり身支度も終えた桜小路さんと菱沼さんを玄関ホールで元気よくお見送りしていた時のこと。
「いってらっしゃいませぇ!」
「お前はメイド喫茶の店員か」
「創様、こんなチビのメイドはいないでしょうがねぇ」
「フンッ、まぁな」
……ふたりして言いたい放題言ってくれちゃって。じゃぁ、なんて言えばいいわけ?
ムッとした私がふたりの背中めがけて内心で悪態をついていたところ、エレベーターへと向かって歩き始めた菱沼さんと一緒に行くもんだと思いきや。
なぜだか急に振り返り、こちらに引き返してきた桜小路さん。
何か忘れ物でもしたのかとキョトンとしていると、
「確か『帝都ホテル』には、春限定で提供されるブランマンジェがあったな?」
唐突にそんなことを問いかけられた。
「……あぁ、はい」
そういえば、今日何を作るかの指示がまだだったんだっけ、と思いつつ答えたところ。
「今日はそれを作ってくれ。それが美味かったら、この前、期待してないと言ったのを撤回してやる」
これぞ傲慢な御曹司、を絵に描いたような桜小路さんから、安定の無愛想で不遜な口調だし、条件付きではあったが、そんなものもどうでもよくなってしまうくらいの、信じがたい言葉が返された。
……てことは、『……まぁ、別に、スイーツなんて誰が作っても同じだろうし。俺は、端《はな》から期待なんてしていなかったがな』
――あの言葉を撤回してくれるってこと!?
吃驚した私が大きく見開いた眼で遙か高いところにある長身の桜小路さんの顔を見つめ返せば、
「分かったらさっさと仕事しろ」
ぴしゃりと言い放ち、まるで私の視線から逃げるようにして、クルリとこちらに背中を向けて、菱沼さんに続いてスタスタと歩き始めてしまった桜小路さん。
面と向かって『美味しかった』と言われた訳じゃないが、少しはパティシエールとしての腕を認めてもらえた気がして、その嬉しさに舞い上がってしまった私は、大はしゃぎで部屋の掃除に取りかかったのだった。
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