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#47 もやる気持ちを置き去りにして ⑵

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 どういう状況か詳しく説明すると、あたかもご主人様が自分の胸に飼い猫をのっけて、猫っかわいがりするときのような構図となってしまっている。

 突然の出来事に、驚くやら恥ずかしいやら、私はもうパニクってしまい。

 桜小路さんの上で手足をばたつかせ、まるで裏返ってしまった亀状態だ。

 それを桜小路さんは、他人事だと思って実に面白そうに。

「お前、カメ吉みたいだなぁ。いくら意識しすぎてるからって、そんなに暴れてると、興奮して余計寝られなくなるだろ」

 くっくと笑いながらそう言ってくるなり、私の身体を僅かに持ち上げ、自分の右肩に私の顔を埋めるようにして、しっかりと抱き寄せられ。

 のっけられた私の身体と桜小路さんの身体とが、さっきよりもピッタリと密着してしまったのだった。

 桜小路さんの身体と触れあっているところから、桜小路さんのあたたかなぬくもりと、トクントクンと心地よい心音とが身体に伝わってくる。

 あたかも身体の隅々にゆっくりと染み渡っていくように。

 恥ずかしくて堪らないはずなのに、どういうわけか、そんなことなどどうでもよくなってしまうくらいに、心地よくて、とっても安心できる。

 なんだか急に瞼が重くなってきて、とろんと微睡みかけているところに、桜小路さんの声が割り込んできて。

「どうした? 急に大人しくなって。抵抗しなくていいのか? あぁ、もしかして。こうやって俺に抱かれているのが心地よくて、眠くなってきたのか?」

  ハッとなった私は、慌てて反論を試みた。

「……ちっ、がいますからッ! もう、からかってないで離してくださいッ!」
「別にからかってるわけじゃない。お前の被害妄想だ。いいから早く寝ろ」
「イヤイヤ、絶対からかってますって」
「からかってないから、早く寝ろ」
「……じゃあ、なんで笑うの我慢してるんですかッ!」
「気のせいだ。いいから早く寝ろ」

 それなのに、桜小路さんは可笑しそうにくっくと笑いつつ、私が何を言ってもただ受け流すだけで、ちっとも取り合ってはくれないのだった。

 そんな感じで、しばし不毛な攻防を繰り広げていたのだが……。

  桜小路さんに、早く寝ろと何度言われても寝ようとしない私の頑なな態度に、とうとう焦れてしまったらしい、桜小路さんの毎朝恒例の不機嫌モードの低い声音が轟いた。

  「いいから早く寝ろッ!」

 一瞬、ビクッとしたものの、それよりも、ピッタリと密着しているお陰で、桜小路さんの身体のある部分の異変に気づいてしまったのだ。

 それに気づいた途端、薄れていた羞恥が蘇ってきてしまい。

 ピッキーンと身体を硬直させた私が、桜小路さんのある部分を避けるようにして腰を浮かせつつ、必死に抗議したのに……。

「こ、こんな状態で無理ですッ!」
「こんなのただの生理現象だろ? イチイチ気にするな。これくらいのことで恥ずかしがってたらセックスなんてできないぞ」
「////……ッ!?」

 桜小路さんときたら、全く悪びれることなく、しれしれっと私の羞恥を煽るようなことを言って、尚もからかってくる。

 恥ずかしいやら悔しいやら腹立たしいやら、ちょっとくらい文句を言ったところで収まりそうになかったけれど、今はそれどころじゃない。

 それもそのはず。これまで恋愛ごとに疎かった私の関心事といえば、思春期の頃からスイーツに関することばかりだった。

 男の人の、朝のそういう現象については、かろうじて聞きかじっていた程度で、それ以外はほとんど無知に等しいのだからしょうがない。

 だからただ単純に、疑問に思ってしまったことを口にしただけだったのに……。

「――セッの話は今は置いておくとして。そんなことより生理現象……って。朝だけじゃないんですか?」
「――はっ!? 朝だけ……って。お前、男がどういうときにこうなるかも知らないのか!?」

 私の言葉にえらく驚いた様子の桜小路さんが一瞬フリーズして、けれどすぐに私の質問に質問で返してきて。

 まるで、珍獣でも見るような目でマジマジと私の顔を凝視してくる。

「……な、なんですか? その、珍しい珍獣でも見つけたときのような反応は」

 いたたまれない気持ちになってきて、堪らず言い返してはみたものの。

「……プッ。お前、珍獣って。ハハッ、ハハハハハッ」

 心外なことに、私の言葉が壺にはまってしまったらしい桜小路さんは、もう堪らないって感じで、終いには豪快に笑い出してしまって、もう散々だ。

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