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美容外科医であるために
④
しおりを挟む「杏璃ちゃん、可愛いお嬢さんだったじゃないか。今時あんな素直で純粋そうな子、いないぞ。代議士の傲慢な娘よりよっぽどいいと思うけどなぁ。央輔もそう思ったから、わざわざ部屋まで取って、介抱してあげたんだろう?」
「……医者として、当然のことをしたまでですよ」
少々動揺したものの、央輔は至って冷静に答えた。だが、まだまだ気が抜けない。
相手は洋輔だ。
央輔の様子から何かを察したかもしれない。
これ以上痛くもない腹を探られないためにも、央輔は細心の注意をはらい無表情を貫き通す。
「ふ~ん。〝医者として〟ねぇ。俺としては、もっと美容外科医として、お嬢様方の心に寄り添ってもらいたいんだけどなぁ……」
「……寄り添っているつもりですが」
「つもりじゃ困る。患者であるお嬢様方の心に寄り添うためには、女心を理解する必要がある。けど央輔には、それが足りないんだよなぁ。それを補うためにも、杏璃ちゃんと結婚しろ」
……だったはずが、もっともらしい言葉を並べ立てた洋輔から思いもよらない命令を下され、とうとう無表情を崩してしまう。
「――はッ⁉」
口からも、間抜けな声を漏らしていた。
その隙を突くようにして、洋輔は突拍子もないことを口にする。
「杏璃ちゃんの推しが、あの氷のプリンスなんて、奇跡だと思わないか? 見合いの日にドタキャンされた者同士、居合わせたのも何かの巡り合わせだとしか思えないし」
「……奇跡って。柄にもないことを」
「いや、これは運命に違いない。その証拠に、杏璃ちゃんは、お前にゾッコンのようだったし」
いつもの軽口で柄にもない言葉を連発する洋輔には呆れたが。自分を通して推しを見ている杏璃を思い出した途端、胸にモヤモヤとした何かが蠢く気配がして。
央輔は意図せず眉間に皺を寄せ、険のある低い声を放っていた。
「……推しとやらに似てるっていう、〝この顔に〟ですけどね」
その様子から、何かを察したらしい洋輔がここぞとばかりに畳みかけてくる。
「不服そうじゃないか。だったら、央輔自身を好きになってもらえばいいだろう」
洋輔に指摘されて初めて自身の失言に気づくも、後の祭りである。
「……いや、別にそういう意味じゃ」
洋輔は、央輔に反論の余地を与えることなく、ここぞとばかりに経営者としての権力を振るう。
「嫌なら、クリニックは辞めてもらう。今は、氷のプリンスに似てるって、もてはやされているが。いくら腕と顔が良くても愛想がないんじゃ、いずれ患者は寄りつかなくなる。てことで、縁談は進めておくからな。話は以上。気をつけて帰れよ」
「……」
それどころか、すっかり経営者の顔に戻った洋輔に、的確にグサグサと痛いところを突かれ、業務命令を行使されてしまっては、央輔に打つ手などない。
なぜなら、洋輔の言葉は、央輔の父である現当主の意向でもあるからだ。
かくして央輔は、美容外科医であるため、ひいてはクリニックの繁栄のために、杏璃との縁談を進められることと相成ったのである。
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