25 / 68
すべては互いの利益のために
②
しおりを挟む『……いえ、別に。推しに対して見返りなんか求めていないので、結構です』
憤慨した杏璃がツンとした冷ややかな口調でピシャリと言い放つと、彼はしばし思案するような素振りを見せた。
杏璃がしてやったりと思っていると、何かを閃いたという顔をした央輔がこちらにずいっと迫ってくるなり。
『〝推しに対して見返りなんか求めていない〟なんて言いながら、本当は、怖いんじゃないか? 俺のことを好きになりそうで』
勝ち誇ったようにそんなことを言ってきた。
――自意識過剰にもほどがある。
『そんなわけないじゃないですか。前にも言いましたけど――』
ムッとした杏璃が推しについて説こうとするも、央輔に先手をとられてしまう。
『〝推しは崇高な存在〟なんだろ?』
そればかりか、央輔はそう言いつつ尚もぐっと顔を寄せてくる。
『……そ、そうです』
杏璃がなんとかそう返したものの、シートに手をついた央輔によって覆い被さるように迫られては、どうしようもない。
推しと激似の麗しい顔を前に、ドキドキしすぎて息が苦しいほどである。
だというのに、不敵な笑みを浮かべた央輔が畳みかけてくる。
『だったら問題はないよな。これから、利害一致のソロ活婚を継続するにあたり、協力は不可避だ。お互い同等の見返りがないとフェアじゃないだろ?』
けれど、思考回路はうまく機能してくれない。
『……? 〝同等の見返り〟……ですか?』
首を傾げ聞き返すことしかできない杏璃は、央輔に退路を完全に塞がれたのである。
『ああ。俺は杏璃のおかげで美容外科医を辞めなくて済むし、擦り寄ってくる女からも、苦痛な縁談攻撃からも解放される。どう考えても俺のほうが利が大きいだろ。だから、遠慮する必要はない。俺を好きになりそうだって言うなら、話は別だがな。どうする?』
『……そ、そういうことなら』
『よし。それじゃあ、話もついたことだし、行くか? 遅くなるとご家族が心配する』
『あっ、はい』
杏璃はなんだかモヤモヤしつつも納得せざるを得なかった。
が、しかし、その一週間後、杏璃はそのことを猛烈に後悔することとなる。
なぜなら、推しであるアーサー王子のように振る舞うために、杏璃の推し活に同行したいと言い出したからである。
もちろん、即刻お断りした。
杏璃が知らなかっただけで、央輔はメディアで〝美容界の氷のプリンス〟と称され騒がれている身だ。
そんな央輔がイベントに行こうものなら、パニックになるのは目に見えている。
だが央輔は折れなかった。
『マスクして、PC用の眼鏡でもかけたら問題ないだろ。それに、これから妻になる杏璃の趣味について理解を深めるのは、夫として当然だろ。それぐらいしないと、叔父に勘ぐられるしな』
央輔は渋る杏璃をもっともらしい言葉で説き伏せたのである。
以来、続刊発売の記念イベントやコラボカフェなどなど、催しがあるたびに央輔も同行するようになった。
0
あなたにおすすめの小説
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
楓乃めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる