訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました

羽村 美海

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すべては互いの利益のために

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 はじめは、バレやしないかとハラハラドキドキし通しだったのだが、なんとかバレずに済んでいる。

 ということで、央輔との結婚式を一週間後に控えた今日も、コミックス発売記念のイベントに赴く杏璃に央輔が同行しているのだった。

 お目当てのイベントが開催されている書店内は、小中学生から五十代ぐらいまでの大勢の女性らでひしめき合っている。

 それもそのはず、今日のイベントには、中の人――アニメでアーサー王子とアイリス役を演じている声優の出演が予定されているからだ。

 いつものように央輔と共に書店を訪れた杏璃は、さっきまで車内でふたりきりだという緊張感に苛まれていたのも忘れ、すっかりはしゃいでしまっていた。

「わぁ~! 凄い盛況ですね~! アニメもいま目が離せない展開だし。あ~、もう来週が待ち遠しい~!」

 これもいつものことだ。

 央輔と休日を共に過ごすようになって一ヶ月ほどまでは、推しと同じ相貌の央輔と一緒にいることにまったく慣れずにいた。

 央輔のことをどうしても意識してしまうからだ。これまで異性に免疫がなかったのだから無理もないだろう。

 けれど、杏璃のソロ活と称した推し活に央輔が同行するようになってから二ヶ月が経った今では、至近距離を除けば、妙に意識することもなくなっていた。

 おそらく、央輔が変装しているからだろう。

 推しと激似の麗しいご尊顔を拝めないのは非常に残念だが、変装を解けばいつでも拝める。

 そのことを知っているのは、杏璃と央輔だけ。そう思うと、無性に嬉しくなる。

 優越感がそうさせるのだろう。

(推しとそっくりな央輔さんのご尊顔を独り占めできるなんて、なんという贅沢……! きっと前世で徳を積んだからに違いない。ありがとう……前世の私)

 そんなわけで、今では、央輔からの揶揄いにも軽口を返せるほどになっていた。

「来週って、俺たちの挙式だろ。アニメに現を抜かすのはいいが、寝過ごして待ちぼうけなんて御免だからな」
「もう、心配しなくても、録画予約するから大丈夫ですよ」
「……『待ちきれなくてリアルで観ちゃって、寝不足です。少し時間を遅らせてください』ってメール送ってきたのは誰だ?」
「やだなぁ、いつのこと言ってるんですか? もう忘れちゃいました。あっ、それより、早く並ばないと限定グッズが売り切れちゃう」
「ああ、それなら、知り合いに頼んであとで送ってもらう手筈になっているから、安心しろ」

 変装モードの央輔と行動を共にするようになってわかったことがある。

 それは、会話からもわかるように、央輔が律儀な性格であるということだ。

 央輔はいつも先回りして、協力者である杏璃のために動いてくれていた。

 今だってそうだ。

 杏璃が盛り上がりを見せる場の雰囲気に興奮してはしゃいでいるうちに、コミックスの新刊を購入してくれているのだ。

 しかも、観賞用と保存用の二冊買いである。

 時折、杏璃が推しに対する愛がどれほどのものかを熱く語っても、呆気にとられはするものの馬鹿にされたことなど一度もない。

 それは、これまで推し活をしていることを周囲に言えずにいた杏璃にとって、結構な衝撃だった。

 これも、互いの利益のためだからというのは理解している。

 そうだとしても、推しについて熱く語れる相手ができたことが、どうにも嬉しかった。

 そんなこともあって、央輔と過ごす時間は意外にも心地いいものとなっている。

 杏璃は、それが嬉しくもあり、怖くもあった。

 これまでは、アーサー王子のことで頭がいっぱいだったのに、気づけば央輔のことばかり考えるようになってしまっている。

 これには覚えがあった。

 アーサー王子の妻であるアイリスが夫を想う心情によく似ているのだ。

 ちょうどアニメの展開がそういう場面のせいで、感化されているだけなのだと思う。

(……けど、もし、央輔さんを好きになっているからだとしたら……)

 ――そんなはずはない。これはきっと感化されているだけ。

 杏璃は、毎回そこまで考えては慌てて打ち消すという、そんなことを繰り返していた。

 とにもかくにもそういうわけで、央輔にあたかも本物の婚約者のように扱われている杏璃の心はそわそわしていたのだ。
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