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episoudo:5
#5 *松岡直樹side*
しおりを挟む「……せっかくの日曜に、なんでお前と映画なんて観なきゃいけねぇんだよ?」
「だってしょうがねぇじゃん。舞ちゃんが急に来れなくなったんだしさぁ……。この映画今日までだし、たまにはいいじゃん。直ちゃんも映画なんて久しぶりだろ?」
「……まぁな」
日曜の朝、急に部屋に押しかけて来た拓哉によって、叩き起こされてしまった可哀想な俺は、何故か映画館へと連れて来られている。
文句をタラタラ垂れ流していた俺は、映画館の中へ脚を踏み入れた瞬間。
相川と一緒に映画を観てるんであろう黒木のことが頭に浮かんできた。
それと同時に、チャラ男拓哉へ対しての疑惑までもが、次から次へと浮かんできてしまう。
まさか、黒木と相川がいるなんてことねぇだろうな……。
ただの疑惑かどうかをちゃんと確かめたくて。
隣に座った拓哉の首根っこを掴んで、ジーッと正面から見据えて尋問すると、
「お前、なんか企んでるんじゃねぇだろうな?」
「……ヘ? あぁ、それより、もうすぐ映画始まるだろ? 静かにしねぇと」
「……」
焦ったように、額にタラリと汗を滲ませたコイツのあからさまな態度に、疑惑は確かなものへと変わった。
――はぁ、余計なことしやがって……。
俺たちの何列か前のシートに黒木と相川らしきカップルの姿を偶然見つけてしまった可哀想な俺は、盛大な溜息を吐き出してシートに倒れこむように身を深く深く沈めたのだった。
ついこの前、黒木が今日のことを案じて泣きそうになってた表情が浮かんできてしまう。
胸がキュッと締め付けられて痛くて堪らない。
思い出したくなくて、何度もそれらを必死に振り払おうとしてみても、一向に消えてはくれなくて、
――辛くて堪らない……。
シートにダラリと力なく背を預けた俺は、そんな感情を無理やり押さえ込むようにして、ボソリと小さな声を吐き出した。
「……拓哉、お前どういうつもりなんだよ?」
ちょうどその時、上映間近で明るかった照明は落とされ、スクリーンに観客の視線が集まり始めて、あんなにやかましかった喧騒もそんなにも耳につかなくなっていた。
代わりに俺の頭ん中には、相川や黒木の言ってた言葉たちがリフレインし始めて。
オマケに、拓哉にまでとぼけた返事が返された。
「え!?何が?」
「とぼけんなっ! どういうつもりで、黒木と相川んとこに俺を連れてきたかって聞いてんだよっ? 黒木に振り向いても貰えない俺のことが、そんなに面白いのかよ? もう、頼むから、そっとしといてくれよっ!」
頭ん中がグチャグチャになって、収拾がつかなくなってしまった俺は、自分の気持ちを押さえつけることができずに、その何もかもを拓哉にぶちまけていた。
「……ええっ!? 直ちゃん、それって、黒木のこと、好きってことかよっ!?」
俺の言葉を聞いたチャラ男拓哉は、これでもかってくらいに目を大きく見開いて。
まるで、某大物お笑い芸人のようなリアクション。
今回、ここに俺を連れてきたのは、黒木に対しての俺の想いに気付いて故の仕業なのだと思っていた俺は、どうも、余計なことを言ってしまったようだった。
ハッと我に返った俺は、自分の胸のうちを自らバラしてしまったことへ対しての羞恥に耐えられなくて。
「……帰る」
未だ、目を大きく見開いて、驚きの表情を浮かべたまま隣のシートに座って、固まってしまってるチャラ男に一言だけ告げてから。
シートからガバッと身体を起こして、この場から一刻も早く立ち去ろうとして足を踏み出したところを、チャラ男によって阻まれてしまうこととなってしまった。
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