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episoudo:8
#1*直樹side*
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午後9時のオフィス。
残業をしている俺と黒木以外の社員は、工場で仕事をしている者以外、ここには誰もいない。
急ぎの仕事を済ませた俺は、いそいそと帰り支度を始めた黒木を後ろから腕に閉じ込めた。
「……ちょっ主任、ここ会社だからダメですってばぁ!!」
すると予想通りの抵抗をみせる黒木に、悪戯心が湧き上がってしまう俺は、
「誰も居ねぇし、ちゃんと仕事は済ませたんだから、ちょっとくらい……いいだろ?」
「あ、もう……ンンッ」
自分でも呆れてしまうくらい、黒木に溺れてしまっていると思う。
その証拠に。
いつもこうやって、抵抗する黒木の言葉には耳を貸さずに、その甘く柔らかな唇の感触を堪能してしまっている。
***
早いもので、俺と黒木が付き合うようになってから二ヶ月が過ぎてしまった。
会社での俺達は、
『主任と付き合ってるなんて知れると色々と仕事に支障が出るから嫌』
という生真面目な黒木の意向で。
表面上は付き合う前同様ただの上司と部下という関係を保っている。
……が、俺的には、別に社内恋愛を禁じてる訳でもねぇし。
態度はツンケンしてても見目に優れている黒木のことが心配だから、俺との関係を明るみにしておきたいというのが本音だ。
まぁ、けど、頑固なコイツが、そうやすやすと俺のいうことを聞くとも思えねぇから諦めてっけど……。
それでも、時々こうやって仕事の隙を見つけては、黒木にチョッカイを出してしまう俺のことを、『嫌だ!』と言いながらも、恥ずかしそうに頬を紅く染めて、受け入れてくれる黒木のことが可愛くて堪らない――。
それに、今夜は週末の金曜日。
日曜の夜までふたりの時間はたっぷりある。
というのも、俺達が付き合うようになって一月が経った頃から、週末になると黒木は俺の部屋で一緒に休日を過ごすようになったからだ。
けれど、未だ俺達は清らかな付き合いを続けている。
そのことに対して、黒木は俺に気兼ねしているようなのだが……。
俺としては、黒木のことを大事にしたいと思っているから、なんの支障もないし、ましてやなんの問題もない――。
まぁ、確かに、俺も至って健康な大人の男な訳だし、全くその気にならないなんてことはありえない。
でも、そんなことよりも、黒木の癒えかけている傷が開いてしまわないように、焦らずにじっくりと時間をかけてゆっくり上書きしてやりたい……。
なんて柄にもないことを真剣に思っていたりする。
けど、今までそう思っていた俺の心は、最近チャラ男に言われたある一言によってグラグラと揺れ動いている……。
どうしてかというと、俺が黒木にキス以上のことをしようとしないのは、
“きっと自分に女としての魅力がないからだ“
そうチャラ男の彼女であり黒木の友人でもある舞ちゃんに、ことあるごとに黒木が零しているというからだ。
***
現在の時刻は、もうすぐ午後10時30分になろうとしている。
あの後、黒木と一緒に退社し帰りに食事を済ませ自分の部屋に戻った俺は、先にシャワーも済ませ、黒木が風呂に入ってる間ソファーでくつろいでいた。
「……にん?」
「………へ?」
「ちょっと主任? さっきから何度も呼んでるのに……。なにボーっとしてんですか?」
チャラ男から言われたことを、一人の世界に入り込んで悶々と考えてしまってた俺は、いつのまにか風呂から出ていた黒木に、呼ばれていることにもすぐには気づけなかったようで。
黒木の声に驚いた俺が、裏返ったような変な声を返してしまい。
そんな俺に、黒木からは酷く呆れ返ったような声が返された。
どうも、機嫌を損ねてしまっているようで。
不機嫌そうに頬をプクッと膨らませていて、柔らかくて綺麗な唇もツンと尖らせてしまっている黒木。
そんな拗ねた表情でさえも、可愛いとしか思えない自分に自嘲の笑みが零れそうになるも。
これ以上、黒木の機嫌を損ねてしまわないようにと必死に堪えた。
そして、ソファーに座ってる俺の隣で拗ねてる黒木の身体を自分の方へと引き寄せ腕に閉じ込めた。
途端に、頬を赤く色づけて、俺に顔を見られないように恥ずかしそうに俯く黒木を、逃さないとばかりに、もっと強く自分の胸へと引き寄せた。
残業をしている俺と黒木以外の社員は、工場で仕事をしている者以外、ここには誰もいない。
急ぎの仕事を済ませた俺は、いそいそと帰り支度を始めた黒木を後ろから腕に閉じ込めた。
「……ちょっ主任、ここ会社だからダメですってばぁ!!」
すると予想通りの抵抗をみせる黒木に、悪戯心が湧き上がってしまう俺は、
「誰も居ねぇし、ちゃんと仕事は済ませたんだから、ちょっとくらい……いいだろ?」
「あ、もう……ンンッ」
自分でも呆れてしまうくらい、黒木に溺れてしまっていると思う。
その証拠に。
いつもこうやって、抵抗する黒木の言葉には耳を貸さずに、その甘く柔らかな唇の感触を堪能してしまっている。
***
早いもので、俺と黒木が付き合うようになってから二ヶ月が過ぎてしまった。
会社での俺達は、
『主任と付き合ってるなんて知れると色々と仕事に支障が出るから嫌』
という生真面目な黒木の意向で。
表面上は付き合う前同様ただの上司と部下という関係を保っている。
……が、俺的には、別に社内恋愛を禁じてる訳でもねぇし。
態度はツンケンしてても見目に優れている黒木のことが心配だから、俺との関係を明るみにしておきたいというのが本音だ。
まぁ、けど、頑固なコイツが、そうやすやすと俺のいうことを聞くとも思えねぇから諦めてっけど……。
それでも、時々こうやって仕事の隙を見つけては、黒木にチョッカイを出してしまう俺のことを、『嫌だ!』と言いながらも、恥ずかしそうに頬を紅く染めて、受け入れてくれる黒木のことが可愛くて堪らない――。
それに、今夜は週末の金曜日。
日曜の夜までふたりの時間はたっぷりある。
というのも、俺達が付き合うようになって一月が経った頃から、週末になると黒木は俺の部屋で一緒に休日を過ごすようになったからだ。
けれど、未だ俺達は清らかな付き合いを続けている。
そのことに対して、黒木は俺に気兼ねしているようなのだが……。
俺としては、黒木のことを大事にしたいと思っているから、なんの支障もないし、ましてやなんの問題もない――。
まぁ、確かに、俺も至って健康な大人の男な訳だし、全くその気にならないなんてことはありえない。
でも、そんなことよりも、黒木の癒えかけている傷が開いてしまわないように、焦らずにじっくりと時間をかけてゆっくり上書きしてやりたい……。
なんて柄にもないことを真剣に思っていたりする。
けど、今までそう思っていた俺の心は、最近チャラ男に言われたある一言によってグラグラと揺れ動いている……。
どうしてかというと、俺が黒木にキス以上のことをしようとしないのは、
“きっと自分に女としての魅力がないからだ“
そうチャラ男の彼女であり黒木の友人でもある舞ちゃんに、ことあるごとに黒木が零しているというからだ。
***
現在の時刻は、もうすぐ午後10時30分になろうとしている。
あの後、黒木と一緒に退社し帰りに食事を済ませ自分の部屋に戻った俺は、先にシャワーも済ませ、黒木が風呂に入ってる間ソファーでくつろいでいた。
「……にん?」
「………へ?」
「ちょっと主任? さっきから何度も呼んでるのに……。なにボーっとしてんですか?」
チャラ男から言われたことを、一人の世界に入り込んで悶々と考えてしまってた俺は、いつのまにか風呂から出ていた黒木に、呼ばれていることにもすぐには気づけなかったようで。
黒木の声に驚いた俺が、裏返ったような変な声を返してしまい。
そんな俺に、黒木からは酷く呆れ返ったような声が返された。
どうも、機嫌を損ねてしまっているようで。
不機嫌そうに頬をプクッと膨らませていて、柔らかくて綺麗な唇もツンと尖らせてしまっている黒木。
そんな拗ねた表情でさえも、可愛いとしか思えない自分に自嘲の笑みが零れそうになるも。
これ以上、黒木の機嫌を損ねてしまわないようにと必死に堪えた。
そして、ソファーに座ってる俺の隣で拗ねてる黒木の身体を自分の方へと引き寄せ腕に閉じ込めた。
途端に、頬を赤く色づけて、俺に顔を見られないように恥ずかしそうに俯く黒木を、逃さないとばかりに、もっと強く自分の胸へと引き寄せた。
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