【R18】ありえない恋。

羽村美海

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episoudo:8

#5*直樹side*

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 いつものように、勢い任せに大胆なことを言い放った愛はというと……。

 直後、ハッと我に返って、ありえないほどの羞恥に襲われてしまってるようで。

 透けるように白い滑らかな肌を、これでもかってくらいに、真っ赤に色づけたかと思えば、当然掘ることのできない穴の代わりとばかりに、俺の胸にすんごい勢いで飛び込んできた。

 その冷静さを失った、余裕のない一杯いっぱいの愛の姿が、なんとも形容しがたいくらいに

 ――愛おしくて可愛くって堪らない……。

 こんなに煽られてしまったら、俺、どうなるか知らねぇぞ?

 俺は、今一度、愛の身体を優しく包み込むようにしてフワリと抱きしめて、


「いや、全然ダメなんかじゃねぇよ……。お前に……好きな女に、そう思ってもらえて、スッゲー嬉しい。愛のお望み通り、これ以上にないってくらいに丁寧に優しく抱いてやるから、覚悟しろよな?」


これ以上にないってくらいに甘く優しい声で囁いた。

 それに、応えるようにして、愛は抱きついてる俺の胸に顔を擦り付けるように、もっと強くシッカリと縋るように抱きついてきた。

 そんな可愛い愛の反応に、今度こそ昂ぶる感情を抑えきれなくなった俺は、愛の身体を横抱きにして立ち上がり寝室へと向けて脚を進ませた。

 ――俺、こんなに真剣に、誰かを"愛おしい"とか"大事にしたい"って、こんなにも思ったことあったっけ?

 今まで、人並みに恋愛だってしてきたし、それなりに経験だって積んできたつもりだ。

 彼女ができるたびに、確かにいつも真剣だったし、俺なりに精一杯大事にしてきたつもりだ。

 けど、こんなにも自分を抑えきれないほど、誰かを好きになったことなんてなかった気がする。

 俺は、愛と付き合うようになって以来、愛のことを想うこの気持ちに気付かされるたびに、いつか愛を失ってしまうんじゃないかって不安に襲われる。

 寝室に向かうまでの間、柄にもなく物思いに耽ってしまってた俺は、知らず知らずのうちに愛を抱きしめる腕に力を込めていた。

 この先ずっと、愛と一緒に居られるようにと願いながら……。

 すると、そんな俺の想いに、まるで応えるようにして。

 偶然にも愛が俺の身体にしがみついてきた。

 ただそれだけで、単純で馬鹿な俺の心は満たされてゆく……。

 後は、これから始まる、愛との甘いひとときに身を焦がすだけ、とばかりに歩くスピードを早めた。

 寝室のドアを押し開けて、ベッドに向かって近づくも、その僅かな距離がもどかしい……。

 けれど、愛にガッツいてるなんて思われたくなくて、意識的に自然にと装って急く脚の速度を緩ませた。

 これじゃぁ、まるで、盛りのついたオス犬みたいじゃねぇかよ……。

 なんて、昂ぶる感情に占領されてしまってる俺の中の冷静な自分が、笑い飛ばしながらツッコミを入れるも。

 今はそんなものに構っているような、そんな余裕の欠片も持ちあわせちゃいない。

 やっとたどり着いた柔らかいベッドの上へと、愛に僅かな振動も与えないようにと慎重にそうっと優しく、愛おしい愛の身体をフワリと横たえた。

 すると、愛は恥ずかしそうにギュッと目を閉じてしまった。

 俺は、愛の紅く色づいたままの柔らかな頬を、この手でそっと優しく包み込んで。

しばし、愛おしい愛の顔を見つめてから、愛おしいその名を囁やけば……


「愛」


俺の愛おしい彼女が、綺麗な黒目がちな澄んだ瞳で、恥ずかしそうにしながらも、まっすぐ見つめ返してくる。

 俺は、高鳴っていく鼓動を、愛に悟られないようにと懸命に抑えつつ、


「好きなんて言葉じゃ言い表せないくらい、愛のこと愛してる」


なんて、柄にもないクサイ台詞を囁いていた。

 そうして、二人見つめ合うこと数秒……。

 愛は驚いたように、綺麗な瞳を大きく見開き瞼を何度か瞬《しばた》かせると。

 ジーッと俺のことを見つめたままでピクリとも動かなくなってしまった。

 シーンと静まり返ったこの沈黙に耐えられそうにない。

 今更ながらに、柄にもない俺のクサイ台詞を聞いた愛から、一体どんな反応が返ってくるのか――だんだん怖くなってきた……。

 そんな、情けない俺は、変わらず自分に向けられてる愛の視線から逃れるようにして、ゆっくり腰を屈ませベッドに片膝をつき近づくと、横たえた愛の身体を自分の腕へと閉じ込めた。

 けど、頭ん中が真っ白になってしまって、情けねぇことに、それからどうすれば良いかが解らない。

 この状況に、焦りだした俺の耳に流れ込んできたのは、


「……わ私もっ!主任のこと、好きっ!大好きっ!愛してるっ!」


恥ずかしそうに顔を真っ赤っかに染めた愛の口から、必死に捲し立てるようにして飛び出してきた言葉だった。

 気づけば俺は、頭で何かを考えるよりも先に、


「俺の方がもっとだ。愛に負けないくらい、愛してる」


愛に負けじとばかりに囁きながら、愛おしい愛の甘く柔らかなその唇を奪うようにしてくちづけた。

 こうして、俺達の甘いあまぁいひとときが始まったのだった。

 ……が、しかし。

 このまま愛との甘いひとときに、我を忘れて身を焦がす訳にはいかない。

 当の本人でさえも、恋愛になんて発展するなんてこと。

 そんなことある筈ない――ありえないとさえ思っていた。

 ただの上司と部下でしかなかった筈の俺達の恋が、当人たちの知らない間に芽生えて実るまでの過程が、紆余曲折であったように。

 そう簡単に事が運ぶなんて、そんな甘い考えを、あいにく俺は持ち合わせちゃいないからだ。

 こうして、愛の甘く柔らかな唇を深く味わいながらも、愛との甘いひとときを何にも邪魔されたりしないように、ゆっくり慎重にそのタイミングをうかがっている。

 意外とシタタカで嫉妬深い俺は、愛がキス以上のことを仕掛けない俺のことを不安に思っていたらしい……

 その間にも、俺は俺なりに、愛のトラウマを俺のこの手で、キレイサッパリ消し去って、俺との甘いひとときで完全に上書きするつもりでいたのだから――。

 そして、思っていた通り、いつもより深くて甘い俺のくちづけに、甘く悩ましげな吐息を零していた愛の身体が、いつぞやみたいにこわばり僅かに震え始めた。

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