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episoudo:16
#9 ~直樹side~
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こんな風にして、幸せな新婚生活を送っていた俺たち夫婦の元へ、待ちに待った天使が訪れる日が、とうとうやってきたのだった。
その日は運の良いことに俺が休みの日で、昼食も済ませダイニングソファで二人のんびりと寛いでいた時だった。
勿論、準備だってちゃんとしてあったし。
イメージトレーニングだって、こっそりしていたりもして、もうすぐこの日が来るって、分かってはいたものの……。
「直樹……なんか、お腹が、痛くなってきちゃったみたい」
そんなことを言われても、男の俺には、その痛みがどれくらいのものかなんて分かる筈もなくて……。
いざその時が来てしまったら頭が真っ白になって、どうしたらいいのかもよく分からなくなってしまい。
ただただ痛がる愛のことを気遣ってやることしかできなくて……。
「……と、とりあえず……落ち着いて。まずは、病院、病院に……電話だな? えーとスマホ……スマホ、あれ? 持ってるし。電話番号は、えーと確か……ここに」
こんな感じでプチパニックに近い状態だった俺に、
「……えっ!? ちょっと直樹、待って待って。まだそんな間隔になってないから、大丈夫。直樹こそ、落ち着いて。ね?」
……なんて、陣痛が始まってしまったらしい愛に、そんなことを言われてしまう始末だった。
陣痛の間隔が狭まってくるにつれて、テンパってしまってた俺なんかよりも余裕があった愛にも、だんだん余裕が感じられなくなってきた。
産婦人科の個室で、陣痛の間隔やらお腹の子供の心音やらを看てもらってて、まだ分娩室に行くまでには至ってはいないものの……。
その間も、ずっと幾度となく襲ってくる痛みに耐えていて、そのたびに、苦しそうに顔を歪ませる愛。
俺は、愛の手を握ってやってるだけで、それ以外なんにもしてやれず、ただただ成り行きを見守ってることしかできなくて……。
「……直樹ぃ」
そんな俺の所在を確認するようにして、ベッドの傍で付き添ってる俺の腕に縋るようにして手を伸ばしてくる愛。
「愛、どうした?」
そんな愛の手をギュッと自分の方へ引き寄せて優しく問いかければ……。
「……直樹。私、幸せだよ?」
愛は俺の声を聞いた途端に、そう言ってホッと安堵したように、とっても嬉しそうに微笑んでくる。
「あぁ、俺も」
そんなことしか答えることのできない俺に、
「ううん。直樹よりずっと幸せだよ? だって、大好きな直樹の赤ちゃんを産めるのは私だけだもん」
そんな可愛いことを言ってくるもんだから、俺は思わず愛のことを抱き締めていて。
そんな俺の腕の中でフフッて思い出したように笑った愛がまた話し始めた。
「私、直樹に内緒にしてたことがあるの」
「内緒ってなんだよ?」
聞こえてきた『内緒』って言葉にムッとしてしまい、つい怒ったような口調で返してしまった俺に、愛からは、思いもしなかった言葉が戻ってくることになる。
「ホントは就職してすぐに、直樹に逢った時、一目惚れしちゃったの。
でも、直樹には、好きな人がいるって日下先輩に聞いてたから。私だけ、意識しちゃってるのも嫌で、上司でしかない直樹のこと、好きだって認めちゃうのも怖くて……。だって、直樹のこと知るたびに、ドンドン好きになっちゃうんだもん。振り向いてもらえないって分かってるのに……。
そんな自分に、いっつも苛立ってしょうがなかった。それを直樹に当たって、ツンケンしっちゃってて、そんな自分にも、また苛立ってばっかりで……。だから、直樹に好きになってもらえて、結婚までしてもらえて、すっごく幸せ」
「……バーカ。こんな時に、そんな嬉しいこと言われたら、感動して泣いちゃうだろ? でも俺は、きっと子供の時に愛に逢った時からずっと好きだったんだと思う。だから俺の方が先。俺の方が勝ちだな?」
初めて聞かされたことに、驚くと同時に、嬉しすぎて泣いてしまいそうになった俺は、軽口を叩くような言い方しかできなくて……。
「フフッ……私も。嬉しすぎて泣いちゃいそう。でも、こんな時じゃないと、恥ずかしくて言えないんだもん。それに、ちゃんと知ってて欲しいの。
私がどれくらい幸せか、どれくらい直樹のことを好きかって……。ねぇ? 分かってもらえた?
……もし、直樹が私に愛想尽かして、私と離婚したいって言っても、絶対、離婚なんてしてあげないんだから。覚悟してね?」
「バーカ、する訳ねーだろ? ずっと死ぬまで離してなんかやらねーから。愛こそ覚悟しとけよ?」
「うん……ありがとう。直樹。私に、赤ちゃんをプレゼントしてくれて、ありがとう」
「はぁ!? それは俺のセリフだろ?」
やっといつもの調子に戻った愛と話している間に、どうやら陣痛の方が本格的になってきたようで。
「もう、そんなのどっちでもいいじゃない。
……あっ、また、痛くなってきちゃった……」
「……えっ!? 愛、大丈夫かっ?! ちょっとっ! 誰かっ! すみませーんっ! 早く、なんとかしてやってくださーいっ!!」
また、苦痛に顔を歪め始めた愛が心配で、慌てた俺は、大きな声で助けを呼んだのだが……。
「はーい、すぐ行きまーす!」
俺が大声で呼んだせいで、何事かと思い、急いで駆け付けてくれたであろう助産師さん。
「……ご主人。なんの問題もなさそうですし、とっても順調ですから、安心してください。
泣かなくても大丈夫ですよ? そろそろ、分娩室行きますので。ご主人、血が、ダメなんでしたよね? あっちの控室でまってましょうか?」
「……はい、すみません。
よろしくお願いします」
泣いてしまってる俺なんかよりもよっぽど頼りになりそうな助産師さんにそう言われ、泣く泣く愛から離れたのだった。
そんな俺は、この後、思いがけない人物との再会を果たすことになる。
その日は運の良いことに俺が休みの日で、昼食も済ませダイニングソファで二人のんびりと寛いでいた時だった。
勿論、準備だってちゃんとしてあったし。
イメージトレーニングだって、こっそりしていたりもして、もうすぐこの日が来るって、分かってはいたものの……。
「直樹……なんか、お腹が、痛くなってきちゃったみたい」
そんなことを言われても、男の俺には、その痛みがどれくらいのものかなんて分かる筈もなくて……。
いざその時が来てしまったら頭が真っ白になって、どうしたらいいのかもよく分からなくなってしまい。
ただただ痛がる愛のことを気遣ってやることしかできなくて……。
「……と、とりあえず……落ち着いて。まずは、病院、病院に……電話だな? えーとスマホ……スマホ、あれ? 持ってるし。電話番号は、えーと確か……ここに」
こんな感じでプチパニックに近い状態だった俺に、
「……えっ!? ちょっと直樹、待って待って。まだそんな間隔になってないから、大丈夫。直樹こそ、落ち着いて。ね?」
……なんて、陣痛が始まってしまったらしい愛に、そんなことを言われてしまう始末だった。
陣痛の間隔が狭まってくるにつれて、テンパってしまってた俺なんかよりも余裕があった愛にも、だんだん余裕が感じられなくなってきた。
産婦人科の個室で、陣痛の間隔やらお腹の子供の心音やらを看てもらってて、まだ分娩室に行くまでには至ってはいないものの……。
その間も、ずっと幾度となく襲ってくる痛みに耐えていて、そのたびに、苦しそうに顔を歪ませる愛。
俺は、愛の手を握ってやってるだけで、それ以外なんにもしてやれず、ただただ成り行きを見守ってることしかできなくて……。
「……直樹ぃ」
そんな俺の所在を確認するようにして、ベッドの傍で付き添ってる俺の腕に縋るようにして手を伸ばしてくる愛。
「愛、どうした?」
そんな愛の手をギュッと自分の方へ引き寄せて優しく問いかければ……。
「……直樹。私、幸せだよ?」
愛は俺の声を聞いた途端に、そう言ってホッと安堵したように、とっても嬉しそうに微笑んでくる。
「あぁ、俺も」
そんなことしか答えることのできない俺に、
「ううん。直樹よりずっと幸せだよ? だって、大好きな直樹の赤ちゃんを産めるのは私だけだもん」
そんな可愛いことを言ってくるもんだから、俺は思わず愛のことを抱き締めていて。
そんな俺の腕の中でフフッて思い出したように笑った愛がまた話し始めた。
「私、直樹に内緒にしてたことがあるの」
「内緒ってなんだよ?」
聞こえてきた『内緒』って言葉にムッとしてしまい、つい怒ったような口調で返してしまった俺に、愛からは、思いもしなかった言葉が戻ってくることになる。
「ホントは就職してすぐに、直樹に逢った時、一目惚れしちゃったの。
でも、直樹には、好きな人がいるって日下先輩に聞いてたから。私だけ、意識しちゃってるのも嫌で、上司でしかない直樹のこと、好きだって認めちゃうのも怖くて……。だって、直樹のこと知るたびに、ドンドン好きになっちゃうんだもん。振り向いてもらえないって分かってるのに……。
そんな自分に、いっつも苛立ってしょうがなかった。それを直樹に当たって、ツンケンしっちゃってて、そんな自分にも、また苛立ってばっかりで……。だから、直樹に好きになってもらえて、結婚までしてもらえて、すっごく幸せ」
「……バーカ。こんな時に、そんな嬉しいこと言われたら、感動して泣いちゃうだろ? でも俺は、きっと子供の時に愛に逢った時からずっと好きだったんだと思う。だから俺の方が先。俺の方が勝ちだな?」
初めて聞かされたことに、驚くと同時に、嬉しすぎて泣いてしまいそうになった俺は、軽口を叩くような言い方しかできなくて……。
「フフッ……私も。嬉しすぎて泣いちゃいそう。でも、こんな時じゃないと、恥ずかしくて言えないんだもん。それに、ちゃんと知ってて欲しいの。
私がどれくらい幸せか、どれくらい直樹のことを好きかって……。ねぇ? 分かってもらえた?
……もし、直樹が私に愛想尽かして、私と離婚したいって言っても、絶対、離婚なんてしてあげないんだから。覚悟してね?」
「バーカ、する訳ねーだろ? ずっと死ぬまで離してなんかやらねーから。愛こそ覚悟しとけよ?」
「うん……ありがとう。直樹。私に、赤ちゃんをプレゼントしてくれて、ありがとう」
「はぁ!? それは俺のセリフだろ?」
やっといつもの調子に戻った愛と話している間に、どうやら陣痛の方が本格的になってきたようで。
「もう、そんなのどっちでもいいじゃない。
……あっ、また、痛くなってきちゃった……」
「……えっ!? 愛、大丈夫かっ?! ちょっとっ! 誰かっ! すみませーんっ! 早く、なんとかしてやってくださーいっ!!」
また、苦痛に顔を歪め始めた愛が心配で、慌てた俺は、大きな声で助けを呼んだのだが……。
「はーい、すぐ行きまーす!」
俺が大声で呼んだせいで、何事かと思い、急いで駆け付けてくれたであろう助産師さん。
「……ご主人。なんの問題もなさそうですし、とっても順調ですから、安心してください。
泣かなくても大丈夫ですよ? そろそろ、分娩室行きますので。ご主人、血が、ダメなんでしたよね? あっちの控室でまってましょうか?」
「……はい、すみません。
よろしくお願いします」
泣いてしまってる俺なんかよりもよっぽど頼りになりそうな助産師さんにそう言われ、泣く泣く愛から離れたのだった。
そんな俺は、この後、思いがけない人物との再会を果たすことになる。
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