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変わりつつあるもの
③
そうして毎回、子どものように無邪気な表情で嬉しそうに「美味しい」と言って何でも残さず食べてくれる奏の姿に、気づけば和んでしまっている自分がいる。
少しずつ少しずつ何かが自分の中で変わりつつあるのを感じている今日この頃。
同居当初は一体どうなるだろうと不安しかなかった。けれど、公言通り、奏は穂乃香とは一定の距離をとり節度ある振る舞いを徹底してくれている。
おかげで奏との生活は、想像以上に快適なものとなっていた。
それもそのはず。これまでは節約生活を徹底してきたのに、大手総合電機メーカーである竹野内グループが手がけた最新式の調理器具からはじまり、ありとあらゆる多機能電化製品が勢揃いしているのだ。
それを毎日使い放題なのだから無理もない。
奏曰く、自社製品の品質向上のためには実際に使用するのが一番であるらしい。
確かにそうだとは思うが、あまりにも快適すぎて怖いほどだ。
それは電化製品に限ったことではない。高級そうな家具も誂えた代物のようだし、揃えられた日用品もどれもこれも一級品ばかり。
穂乃香に与えられた部屋にしたってそうだ。ホテルの客室のように無駄に広いし、ウォークインクローゼットはハイブランドの洋服や装飾品で埋め尽くされている。まるで店舗の陳列棚のよう。
「穂乃香に似合いそうなモノを見繕ってみたんだが、どうだろう? 気に入ってもらえるといいんだが」
「――ッ!?」
引っ越し当日、部屋に案内された穂乃香は、照れくさそうに話す奏の隣で驚きすぎてその場で固まってしまったほどだ。
それが今では、当たり前の光景となっているのだから、困ったものである。
だからといって、穂乃香にはそれを喜んで受け入れられるほどの図太い神経もなければ、着こなすほどの華やかさも持ち合わせちゃいない。
未だ手つかずのままで陳列されているという、宝の持ち腐れ状態である。
けれど大きな借りだってある上に外堀まで埋められてしまっているのだ。このままではなし崩し的に業務の一環としてのビジネス婚をすることになりかねない。
もしかしたら、柳本のサプライズも二人が仕組んだのかもしれない。
元婚約者との一件で男性不信になってしまった穂乃香は、奏との同居生活の中で自分の気持ちが少しずつ変化していくのを感じながらも、奏と柳本に対しての不信感を拭うことができないでいる。
(――和んでる場合じゃない。しっかりしなきゃ)
気持ちも新たに、すっかり忘れかけていた武装モードに切り替えた穂乃香は、余計なモノに惑わされないためにもより一層仕事に励むようになっていた。
そんなこんなで、奏との同居生活を始めてから早いもので二月近くが経過し、奏との生活にもすっかり慣れつつあった。
試用期間満了まで残すところ一週間。そんなタイミングでまたもや思わぬアクシデントに見舞われてしまうこととなる。
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