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それぞれの思惑~前編~
#17
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いつものようにトレードマークの八重歯を覗かせて優しい笑顔を浮かべた木村先輩が、
「美菜ちゃん、ごめんね? 俺、なんか勘違いして、余計なことしちゃったみたいだね?
もう休憩時間終わっちゃうし……。俺、仕事に戻るね? じゃぁ、仕事終わったらいつもの場所で待ってて?」優しく声を掛けてくれて。
それに私が、「あ、いえ、とんでもない」と「はい、分かりました」と続けて返した言葉を聞いてから、ベンチに置いたままだった買い物袋にゴミをまとめると、入り口のドアへと向けて駆けて行ってしまった。
出入り口で私たちの動向を見守るようにして立っている夏目さんのところまで行くと、何故か正面で向き合うようにして立ち止まって深々と頭を下げている木村先輩。
「さっきは出過ぎたことを言ってしまい、すみませんでした」
「いや。分かってもらえて良かった」
二人の会話を聞きつつ、なんとか事なきを得たようでホッと胸を撫で下ろしていると。
「……けど、俺、納得した訳じゃありませんから。失礼します」
頭を上げた木村先輩が夏目さんを見据えると、言い逃げるようにして声を放つと、もう一度ペコリと軽く頭を下げてから、今度こそ振り返ることなく屋上から出て行ってしまった。
屋上から出ていく時の木村先輩の背中を見ていると、なんだかやるせない釈然としない気持ちが込み上げてきた。
確かに、他部署である木村先輩は、目上でもある夏目さんに対して出過ぎたことを言ってしまったのかも知れない。
けれど、もとはといえば、泣いてしまった私のことを心配してのことだった訳で。
夏目さんは知らなかったとはいえ、後輩思いの優しい木村先輩に対して、あんな言い方をしなくても良かったんじゃないだろうか……。
依然、立ち尽くして色々と考えを巡らしていた私は、いつの間にはすぐそばまで来ていた夏目さんに「美菜ちゃん」と呼ばれて「なんですか?」自分でも驚いてしまうほどの素っ気ない冷たい声を返してしまっていて。
私の声を聞いた夏目さんにも当然そう聞こえていたようで、「……もしかして、怒ってる?」ちょっと遠慮気味にやんわりとお伺いを立ててくるんだけど。
それがまた無性に腹立たしく感じてしまって。
「そりゃ、怒りますよ! 木村先輩は私のことを心配して、ちょっと出過ぎたこと言っちゃったかもしれないですけど……。そんなの聞いてたら分かるじゃないですか。それなのに、あんな言い方しなくても良かったんじゃないですか?」
気付いた時には、夏目さんに怒りの矛先を向けてしまった後だった。
「美菜ちゃん、ごめんね? 俺、なんか勘違いして、余計なことしちゃったみたいだね?
もう休憩時間終わっちゃうし……。俺、仕事に戻るね? じゃぁ、仕事終わったらいつもの場所で待ってて?」優しく声を掛けてくれて。
それに私が、「あ、いえ、とんでもない」と「はい、分かりました」と続けて返した言葉を聞いてから、ベンチに置いたままだった買い物袋にゴミをまとめると、入り口のドアへと向けて駆けて行ってしまった。
出入り口で私たちの動向を見守るようにして立っている夏目さんのところまで行くと、何故か正面で向き合うようにして立ち止まって深々と頭を下げている木村先輩。
「さっきは出過ぎたことを言ってしまい、すみませんでした」
「いや。分かってもらえて良かった」
二人の会話を聞きつつ、なんとか事なきを得たようでホッと胸を撫で下ろしていると。
「……けど、俺、納得した訳じゃありませんから。失礼します」
頭を上げた木村先輩が夏目さんを見据えると、言い逃げるようにして声を放つと、もう一度ペコリと軽く頭を下げてから、今度こそ振り返ることなく屋上から出て行ってしまった。
屋上から出ていく時の木村先輩の背中を見ていると、なんだかやるせない釈然としない気持ちが込み上げてきた。
確かに、他部署である木村先輩は、目上でもある夏目さんに対して出過ぎたことを言ってしまったのかも知れない。
けれど、もとはといえば、泣いてしまった私のことを心配してのことだった訳で。
夏目さんは知らなかったとはいえ、後輩思いの優しい木村先輩に対して、あんな言い方をしなくても良かったんじゃないだろうか……。
依然、立ち尽くして色々と考えを巡らしていた私は、いつの間にはすぐそばまで来ていた夏目さんに「美菜ちゃん」と呼ばれて「なんですか?」自分でも驚いてしまうほどの素っ気ない冷たい声を返してしまっていて。
私の声を聞いた夏目さんにも当然そう聞こえていたようで、「……もしかして、怒ってる?」ちょっと遠慮気味にやんわりとお伺いを立ててくるんだけど。
それがまた無性に腹立たしく感じてしまって。
「そりゃ、怒りますよ! 木村先輩は私のことを心配して、ちょっと出過ぎたこと言っちゃったかもしれないですけど……。そんなの聞いてたら分かるじゃないですか。それなのに、あんな言い方しなくても良かったんじゃないですか?」
気付いた時には、夏目さんに怒りの矛先を向けてしまった後だった。
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