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縺れあう糸
#11
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要さんはホッとしたように、微笑みを浮かべたかと思うと、私の身体をギュッと腕に閉じ込めて。
「やっぱり、美菜には敵わないな」
よく分からないことを呟いたあとで。
「ありがとう、美菜」
そう言ったきり、まるで事切れるようにして、そのまま意識を失ってしまった要さん。
意識のない状態で私の身体にしなだれてきた所為で、私は要さんの身体を支えきれず、要さんはゴロンと私の真横で、うつ伏せになって倒れ込んでしまっている。
突然のことに、あわてふためいた私が、倒れ込んでしまった要さんの身体を何度揺すっても、何の反応も返さない要さん。
「えっ!?ちょっ、要さんっ!?要さんっ!?ヤダヤダ、死んじゃやだー!」
益々焦って、気が動転してしまった私は、仕舞いには、要さんの身体を必死で揺すりながら大きな声で泣き叫んでいたのだった。
そしてすぐに、キッチンで夕飯の支度をしてくれていただろう夏目さんが騒ぎを聞き付け、トングを片手に駆けつけてくれ、その結果。
「そんなに泣かなくても大丈夫だよ、美菜ちゃん。要、寝落ちしてるだけのようだから」
「……へ!?寝落ち!?」
「ほら、気持ちよさげに寝息たててるし」
まさか、そんなオチが待っていたとは思わなくて。まだドキドキと落ち着きのない胸の鼓動に手をあてつつ、要さんの様子を窺ってみれば。
確かにスヤスヤと穏やかな寝息をたてていて。夏目さんのいう通り、要さんは気持ちよさげに眠っているようだ。
それで、やっと安堵することができた私は、「……良かったぁ」と、思わず声を漏らして、その場でペタンとヘタリ込んでしまった。
そんな私の頭を優しくポンポンとしてくれた夏目さんは、何かを思い出したようにフッと笑みを零して、話し始めた。
「今朝さ、コイツ、えらく早い時間に起きてきて、真っ青な顔して、『美菜に嫌われたかもしれない』って言ってきて、ずっと落ち込んでてさぁ。美菜ちゃんが出掛けてからも、『美菜が怒ってるかもしれない。許してくれなかったらどうしよう』ってずっと言ってたんだ。
午後からは、急遽社長に代役頼まれて、お得意様の代議士の、お喋り好きな奥様の相手ずっとさせられてたんだけど……。そこにきて、美菜ちゃんが木村と一緒に歩いてるとこ見ちゃって。昨日のこともあって、精神的に相当参ってたんだと思うよ。
だから、あんなに怒っちゃって。けど、やっと美菜ちゃんに許してもらえて、ホッとしたんだろうな。子供かよ?って感じだけどさぁ……。
まぁ、でも、それだけ美菜ちゃんのことを大事に想ってるってことだから。美菜ちゃんは、隼くんに何言われても、ドーンと構えてればいいからさぁ」
夏目さんは、昨日から色々あった私のことを元気付けてくれているのか、いつもの明るい口調で、最後には冗談めかしてそう言うと。
「はい!」
やっと平静を取り戻した私の返事を聞き届けてから、寝落ちしてしまった要さんへと視線を向けて。
「美菜ちゃん、俺、寝室にコイツ運ぶからさ。ドア、開けてくんない? あ、これも頼める?」
「あぁ、はい!」
私に持っていたトングを託すと、要さんの身体を背負うようにして起こして、肩を組むようにして支えつつ、寝室へと歩き始めた。
それでも要さんは、起きる気配がなく。夏目さんの言うように、相当、お疲れのご様子だ。
――さすが、優秀な秘書として要さんのことを長い間支えてきた夏目さん、要さんのことをよく分かってるんだなぁ……。
なんて、感心していたら、不意に今朝の二人のやり取りが浮かんできて。忘れかけてた筈の疑惑と不安とがムクムクと顔を出してきた。
それと同じタイミングで、辿り着いた寝室のベッドへ要さんの身体を横たえさせた夏目さん。今度は着替えさせようと、スーツの上着を脱がせようとし始めた夏目さんの姿が目に飛び込んできて。
――ヤダ、触れられたくない。
そんなことを思ってしまった私は咄嗟に、
「あっ、私がやりますっ!」
思いの外大きな声と伸ばした手とで、夏目さんの動きを制してしまうのだった。
夏目さんは、一瞬驚いて肩をビクッとさせたけれど、その隣で要さんの上着に手を伸ばして、自分の方へ引っ張るようにして掴んでいる私をみやると。
「やっぱりな。そうじゃないかとは思ってたんだよなぁ」
と、独りごちた夏目さんに、
「美菜ちゃん。今朝、俺と要の会話、聞いてたんじゃない? それで、要に嘘ついて出掛けたんじゃないの? 違う?」
「……」
ズバリ言い当てられてしまった私は、ぐうの音も出ない状況へと追い込まれてしまった。
「やっぱり、美菜には敵わないな」
よく分からないことを呟いたあとで。
「ありがとう、美菜」
そう言ったきり、まるで事切れるようにして、そのまま意識を失ってしまった要さん。
意識のない状態で私の身体にしなだれてきた所為で、私は要さんの身体を支えきれず、要さんはゴロンと私の真横で、うつ伏せになって倒れ込んでしまっている。
突然のことに、あわてふためいた私が、倒れ込んでしまった要さんの身体を何度揺すっても、何の反応も返さない要さん。
「えっ!?ちょっ、要さんっ!?要さんっ!?ヤダヤダ、死んじゃやだー!」
益々焦って、気が動転してしまった私は、仕舞いには、要さんの身体を必死で揺すりながら大きな声で泣き叫んでいたのだった。
そしてすぐに、キッチンで夕飯の支度をしてくれていただろう夏目さんが騒ぎを聞き付け、トングを片手に駆けつけてくれ、その結果。
「そんなに泣かなくても大丈夫だよ、美菜ちゃん。要、寝落ちしてるだけのようだから」
「……へ!?寝落ち!?」
「ほら、気持ちよさげに寝息たててるし」
まさか、そんなオチが待っていたとは思わなくて。まだドキドキと落ち着きのない胸の鼓動に手をあてつつ、要さんの様子を窺ってみれば。
確かにスヤスヤと穏やかな寝息をたてていて。夏目さんのいう通り、要さんは気持ちよさげに眠っているようだ。
それで、やっと安堵することができた私は、「……良かったぁ」と、思わず声を漏らして、その場でペタンとヘタリ込んでしまった。
そんな私の頭を優しくポンポンとしてくれた夏目さんは、何かを思い出したようにフッと笑みを零して、話し始めた。
「今朝さ、コイツ、えらく早い時間に起きてきて、真っ青な顔して、『美菜に嫌われたかもしれない』って言ってきて、ずっと落ち込んでてさぁ。美菜ちゃんが出掛けてからも、『美菜が怒ってるかもしれない。許してくれなかったらどうしよう』ってずっと言ってたんだ。
午後からは、急遽社長に代役頼まれて、お得意様の代議士の、お喋り好きな奥様の相手ずっとさせられてたんだけど……。そこにきて、美菜ちゃんが木村と一緒に歩いてるとこ見ちゃって。昨日のこともあって、精神的に相当参ってたんだと思うよ。
だから、あんなに怒っちゃって。けど、やっと美菜ちゃんに許してもらえて、ホッとしたんだろうな。子供かよ?って感じだけどさぁ……。
まぁ、でも、それだけ美菜ちゃんのことを大事に想ってるってことだから。美菜ちゃんは、隼くんに何言われても、ドーンと構えてればいいからさぁ」
夏目さんは、昨日から色々あった私のことを元気付けてくれているのか、いつもの明るい口調で、最後には冗談めかしてそう言うと。
「はい!」
やっと平静を取り戻した私の返事を聞き届けてから、寝落ちしてしまった要さんへと視線を向けて。
「美菜ちゃん、俺、寝室にコイツ運ぶからさ。ドア、開けてくんない? あ、これも頼める?」
「あぁ、はい!」
私に持っていたトングを託すと、要さんの身体を背負うようにして起こして、肩を組むようにして支えつつ、寝室へと歩き始めた。
それでも要さんは、起きる気配がなく。夏目さんの言うように、相当、お疲れのご様子だ。
――さすが、優秀な秘書として要さんのことを長い間支えてきた夏目さん、要さんのことをよく分かってるんだなぁ……。
なんて、感心していたら、不意に今朝の二人のやり取りが浮かんできて。忘れかけてた筈の疑惑と不安とがムクムクと顔を出してきた。
それと同じタイミングで、辿り着いた寝室のベッドへ要さんの身体を横たえさせた夏目さん。今度は着替えさせようと、スーツの上着を脱がせようとし始めた夏目さんの姿が目に飛び込んできて。
――ヤダ、触れられたくない。
そんなことを思ってしまった私は咄嗟に、
「あっ、私がやりますっ!」
思いの外大きな声と伸ばした手とで、夏目さんの動きを制してしまうのだった。
夏目さんは、一瞬驚いて肩をビクッとさせたけれど、その隣で要さんの上着に手を伸ばして、自分の方へ引っ張るようにして掴んでいる私をみやると。
「やっぱりな。そうじゃないかとは思ってたんだよなぁ」
と、独りごちた夏目さんに、
「美菜ちゃん。今朝、俺と要の会話、聞いてたんじゃない? それで、要に嘘ついて出掛けたんじゃないの? 違う?」
「……」
ズバリ言い当てられてしまった私は、ぐうの音も出ない状況へと追い込まれてしまった。
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