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第85話 魔族の復活
しおりを挟む「……あの檻の中にいたモンスターは、さらわれた子どもたちだったんだな……!」
言葉を吐き捨てるようにして、ユークは博士に怒鳴った。
だが博士は何も答えず、ただうっすらと笑みを浮かべながら施術を続けている。
「檻の中のモンスターって、どういう意味?」
アウリンが首をかしげ、ユークの横顔を見つめる。
その声には戸惑いがにじんでいた。
ユークは返事をしなかった。
視線を壁際へ移すと、並べられた檻のひとつに目を向ける。
そこには、人間の子どもたちに混ざって、モンスターの姿が収められた檻があった。
アウリンの目が大きく見開かれる。
檻の中にいたモンスターが、攫われた子供だったことを悟ったのだ。
「……なるほど。つまり、そういうことね」
その言葉には怒りとも悲しみともつかない、重い感情が込められていた。
彼女の目がふと何かに気づいたように揺れ、顔がこわばる。
「ねえ……? もし……召喚の魔法陣を刻まれたまま、その子供が十歳になったら……?」
その問いに、博士が楽しげな声色で応じた。
「もちろん、それも実験済みさ。魂に作用する魔法陣が刻まれていれば、神はすでに“ジョブ持ち”と判断するようでね。だから、新たなジョブは得られなかった。いやぁ、実に興味深いよ!」
にやりと浮かんだ笑顔には、どこか狂気じみた光が宿っていた。
「っ……!」
ユークは言葉を失い、アウリンは震える声で呟く。
「そんな……ひどい……」
それでも博士は表情を変えず、まるで講義をするかのように淡々と話し続けた。
口にするのは複雑な術式理論や、魂の構造についての専門用語ばかり。ユークにはその半分も理解できなかった。
だが、アウリンの目には明らかな動揺が浮かんでいる。彼女だけは、その意味を正しく受け取っているようだった。
やがて博士の手が動きを止め、わずかに口元を緩める。
「よしっ! 完成だ」
「おおっ……! ついに……!」
満足げなその声と同時に、信奉者の男が感極まったように歓声を上げた。
ユークはその光景を、まるで現実感のない別世界の出来事のように見つめていた。
(……まだ、俺の魔法の速度はバレてない。あの女の子を殺せば……魔族の復活は防げるかもしれない……)
脳裏に浮かぶ最悪の選択肢に、ユークの心は大きく揺れた。
だが、それを実行した瞬間、自分たちは殺される――そんな確信に近い恐怖があった。
(死にたくない……アウリンも、セリスも、アズリアさんも……誰も失いたくない……)
魔族の復活を止められるかもしれないという現実を前に。
ユークは、守るという選択を取った。
そのとき、博士が手を広げ、声を響かせた。
「では――術を発動する」
ユークの拳が、無意識に震える。
だが、体は動いてくれなかった。
「スキル強制発動」
博士の言葉と同時に、少女の体から淡い光が漏れ出した。
まばゆい輝きに包まれた肉体は、みるみるうちに変化していく。
まず、髪の色が淡い緑から、銀色へと変わっていた。
細くあどけなかった顔つきは、徐々に輪郭が引き締まり、切れ長の釣り目が妖艶な輝きを帯びた。少女らしい面影は消え、成熟した美女の顔立ちがそこにあった。
体つきも変化していく。平らだった胸元は、豊かに盛り上がり、くびれた腰や張りのある太ももが女の色香をまとう。服の上からでも、その変貌は明らかだった。
信奉者の男はその場にひざをつき、手を合わせながら、涙を流して言葉をつぶやいていた。
「なんという、美しさだ……」
やがて、光が収まる。
少女――いや、もはやそう呼ぶには相応しくないその存在が、ゆっくりと起き上がり瞼を開いた。
紅蓮のような深紅の瞳が、冷静に周囲を見渡す。
「ふふ……」
その唇に浮かんだ笑みを見た瞬間、ユークの胸に冷たいものが走った。
理由もわからない不快感が、背筋を這い上がっていく。
理解の及ばぬ何かが、確かに目の前で目覚めていた。
「大成功だ! これで私の理論は証明された! この子はもはや、完全な魔族そのものだ!」
博士は叫び、ふらつく彼女の体を受け止める。
「おっと、大丈夫かい? 無理もないさ。まだ肉体が、魔族の魂に馴染んでいないんだろう」
やさしげな仕草で、博士は彼女をそっと台の上に寝かせる。
傍らで信奉者の男は、なおも涙を流しながら何かを祈るようにつぶやいていた。
その横で、アウリンは固く口を結び、魔族と化した女を鋭い視線で睨んでいる。
信奉者の男は、意識を失った魔族の女を大切そうに抱え上げた。そのまま立ち去ろうとしたところで、博士が静かに声をかける。
「では、約束のものを忘れずに頼むよ」
そう言いながら、博士は懐から小さな魔道具を取り出す。ボタンを押すと、床に転移魔法陣が浮かび上がった。
「ええ、もちろんです。彼女が手に入った以上、あれはもう必要ありませんから」
信奉者の男は静かに微笑み、魔法陣の上に立つ。
「持っていくのは、例の拠点で構いませんね?」
「ああ、構わないよ。この場所はすでに敵に知られてしまった。もはや隠れ家としての価値はないからね」
博士が淡々と答えると、信奉者の男は一度だけうなずいた。
転移魔法が発動し、淡い光が二人を包み込む。そして、少女と男の姿は跡形もなく消えた。
残されたのは、博士、ユーク、アウリン、そしてカルミアの四人。
博士は軽く手を上げると、カルミアの方へと顔を向ける。
「さて、カルミアくん。僕は先に戻るよ。君は“あれ”を回収して、ダンジョンの出口から戻ってくれ」
博士が再び魔道具を取り出し、ボタンに指をかける。
『……ちっ、わかったよ』
カルミアは目を細め、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「ただ……カルミアくんが後をつけられたりしたら、面倒なことになるな」
博士は視線を伏せ、誰にともなく呟いた。
そして台座の隅に置かれた魔道具に手を伸ばし、何かの操作を始める。すぐに壁際の檻の錠が次々と外れ、鉄格子の扉が開いていった。
「今から、実験体となった彼らをすべてモンスターに変える」
博士は振り返り、ユークとアウリンに笑みを見せる。
「……なっ!?」
ユークが驚きの声を上げ、アウリンの目も大きく見開かれる。
「モンスターとなった状態で倒せば、彼らは人間の姿に戻る。そして、僕の描いた魔法陣も消滅する。……助けたければ、やってみるといい」
博士は懐からもうひとつの魔道具を取り出し、ためらうことなくボタンを押した。
檻の中の子供たちの身体が歪み、モンスターの姿へと変貌していく。
その様子を見届けながら、博士は楽しげに言葉を続ける。
「ハハハ、そうそう。もうひとつ。カルミアくんがこのダンジョンの核を回収すれば、ダンジョン全体の崩壊が始まる。完全に崩れ落ちれば、この中にあるものはすべて虚無へと消える。……助けたいなら、急ぐことだね」
その言葉を最後に、博士の身体は転移魔法の光に包まれ、完全にその場から姿を消した。
直後、ドラゴンの姿となったカルミアが、両手で握っていたユークとアウリンをそっと手放す。
二人の身体はそのまま落下し、床へと叩きつけられた。
「っ……いててっ……!」
ユークは顔をしかめながら手をつき、体勢を立て直す。
アウリンもほぼ同時に身を起こし、鋭い視線でカルミアを睨んだ。
カルミアは何も言わず、少女が横たえられていた台座へと足を運ぶ。そして、そこに設置されていた魔道具の数々を、次々と破壊していった。
すべてを砕き終えたあと、彼は視線を下げ、ユークに目を向ける。
『勘違いするなよ、雑魚が!』
吐き捨てるようにそう言うと、カルミアは部屋の奥にある扉へと向かって歩き出す。途中でその姿を人間のものに戻し、振り返ることもなく、静かにその場から姿を消した。
静寂が支配する空間に残されたのは、荒い呼吸を漏らす魔物たち――かつて人間だった子供たちだけだった。
ユークとアウリンは顔を見合わせる。
「……どうする?」
「決まってるでしょ。助けない理由なんて、どこにもないじゃない」
二人の視線はまっすぐ前を向いていた。そこに、迷いはなかった。
◆◆◆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ユーク(LV.25)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:子供たちを助けないと!
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アウリン(LV.26)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:時間との勝負ね!
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カルミア(LV.13)
性別:男
ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ
スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)
備考:博士の命令が生きていたせいで握りつぶすことは出来なかった。
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ヘリオ(LV.??)
性別:男
ジョブ:召喚師
スキル:??
備考:いやぁ! 楽しみだなぁ! これで僕の目的がようやく達成される!
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