115 / 161
第113話 絵本の中の冒険者
しおりを挟むいま、ユークたちがいるのは、霊樹の根が幾重にも絡まり合って形成された小部屋だった。
唯一の入り口は『ストーンウォール』によって作り出された石壁で厳重に封鎖されている。
「……よし、行こう」
ユークが短く声を発した。
「でも、どっちに行けばいいの?」
セリスが周囲を見回しながら尋ねる。
たしかに、あたりは根に囲まれていて、通れるような道は見当たらない。
「えーっと……ラピスさん?」
困った様子で、ユークが視線をラピスに向けた。
「あっ、はい。ここを登っていきます」
ラピスが指差した先には、巨大な根の一部が緩やかな傾斜を描いていた。
「デコボコしてて歩きにくそう……」
アウリンが顔をしかめる。
「足場が悪い上に、ここでも戦闘があるので……なかなか大変なんです」
ラピスが苦笑いを浮かべた。
「ここのモンスターって?」
ユークが先を見ながら問いかける。
「通常はキラーマンティスっていうモンスターが出るんですけど――」
「でも、今は普通じゃないものね」
ヴィヴィアンが周囲に視線を走らせながら、静かに呟く。
「行ってみればわかると思う」
セリスが淡々と言った。
「そうだね。じゃあ、進もう」
ユークが再び歩き出す。
「――あ、そうだ!」
ラピスが思い出したように立ち止まり、ポーチから小さな球体を取り出す。
「危ない……忘れるところでした」
カチリと音を立てて、映像記録用の魔道具が起動した。
「……ねえ、さっきのラルヴァの群れ、撮ってた?」
アウリンが鋭い声で問いかける。
「えっ……?」
ラピスが目を丸くした。
「ちょっと! 撮ってなかったの!? あんな異常、すごく重要な証拠になるのに!」
アウリンが声を荒げる。
「ま、まあまあ。今からでも撮ればいいし……」
ユークが慌ててフォローに回った。
「そうよ。過ぎたことを責めても仕方ないわ」
ヴィヴィアンが落ち着いた声で言う。
「はぁ……仕方ないわね」
アウリンは二人に説得され、渋々ながらも口を閉じた。
「さ、行こうっ!」
セリスの明るい声に促され、一行は太い根の斜面を慎重に登っていく。
途中、ユークが周囲を見渡しながら驚きの声を漏らした。
「すごいな……こんな太い根っこ、初めて見たよ」
「はい。葉っぱも、とっても大きいんですよ」
ラピスがうなずく。
「前に、空から落ちてきたことがあって……」
「へえ~」
「すご~い」
ユークとセリスが、同時に興味津々な声を上げた。
――そのとき。
「前方、敵っ!」
鋭い声を響かせ、セリスが叫ぶ。
緩んでいた空気が一瞬で張りつめ、ユークたちの表情が引き締まった。先ほどまで無邪気だったセリスの瞳が、戦士のそれへと変わる。
その気迫に、隣にいたラピスが思わず驚きで足を止めてしまった。
先行するセリスに続いて駆け出すと、一気に視界が開ける。
そこには、穴だらけで無残に潰されたキラーマンティスの残骸。そして、その周囲を囲むように、赤黒い異形――ラルヴァが四体、蠢いていた。
赤黒く脈打つ胴体。地面を這う無数の人間の腕。背から突き出た首なしの人型。その体には、ぎょろりと光る眼球が複数埋め込まれている。
「ラルヴァだ!」
ユークの叫びと同時に、戦闘が始まった。
肉のうねりとともにラルヴァたちが突進してくる。棘付きの触手が地を砕き、轟くように迫る。
「任せて!」
ヴィヴィアンが一歩前に出て盾を構えた。
その直後、触手を振りかざしてきたラルヴァの一体が、彼女の盾に激突する。
鈍い衝撃音が響き、ラルヴァの動きが一瞬止まった。
「『スラストランス』!」
セリスの魔槍が光をまとい、まっすぐにラルヴァの身体を貫く。
大きく体をえぐられたラルヴァは、その場に崩れ落ち、動かなくなった。
一体、撃破。
「通さないわよ!」
ヴィヴィアンがすぐさまもう一体のラルヴァを抑えにかかる。
「やあああああっ!」
セリスが魔槍を振るい、さらに一体を巧みに翻弄する。
残る一体は――
「《フレイムアロー》!」
アウリンの炎の矢が、背後から放たれる。ラルヴァの背に突き刺さった炎が弾けた。
「《フレイムボルト》!」
ユークの魔法が続けざまに傷口を広げる。
「セリス!」
アウリンが声を上げた。
「うんっ!」
応じたセリスが跳び戻り、傷を負ったラルヴァを魔槍で薙ぎ払う。その胴体が真っ二つに裂け、体液を撒きながら崩れ落ちる。
二体目、撃破。
「は、速っ……」
ラピスがぽつりと呟いた。
だが、セリスが離れたことで、抑えていたラルヴァがフリーになってしまう。
その瞬間――
「《アイスボルト》!」
ユークの氷の魔法がラルヴァを地面に縫いとめた。
「《フレイムアロー》!」
アウリンの炎の矢が、誘導なしで一直線に突き刺さる。
「《アイスボルト》!」
「《フレイムアロー》!」
火と氷の連撃。凍り、爆ぜ、砕けたラルヴァが崩れ落ちる。
三体目、撃破。
最後の一体が、盾を構えるヴィヴィアンに飛びかかる。
「どきなさい!」
ヴィヴィアンの盾が勢いよく叩きつけられ、一瞬ラルヴァの動きが止まる。
「終わりっ!」
セリスが跳び上がり、触手をかいくぐりながら、槍がラルヴァを真っ二つに裂く。
四体目、撃破。
「す、すご……」
ラピスは記録用の魔道具を抱えたまま、ぽかんと口を開けていた。
「戦おうとしてたのに……出番、なかった……」
ラピスの仲間、シシャスが小さく呟く。
そのすぐ後ろで、双剣を鞘に収めた細身の女性が肩をすくめた。
「まあ、出遅れたアタシたちが悪いってことでしょ」
落ち着いた声の主は、ラピスたちのもう一人の仲間――ニキスだった。短く切りそろえられた黒髪が、風に揺れている。
隣では、小柄な少女がじっとセリスを見つめていた。
「……すごい。私も、あんなふうに敵を叩き割ってみたい……」
呟いたのは、パーティー最年少のシェナ。腰まである白い髪を揺らしながら、大きな戦斧をぎゅっと握りしめている。
そんな彼女らに、ユークが苦笑しながら振り返った。
「ラピスさん、怪我はない?」
「は、はいっ! ぜ、全然平気です! というか、みなさん強すぎて……!」
「まあ、一度戦ってるからね」
ユークが言う。
「あの時は、強さもよく分からなかったから、色々試しながらだったけど、今回はそうじゃ無いもの」
アウリンが、光へと還りつつあるラルヴァの残骸に目をやる。
その傍らで、セリスが転がっていた魔石を拾い上げた。
「これって、持って帰るの?」
手のひらに乗せられた魔石は、血のようなどす黒い光を放っている。
ユークはそれを見て、一瞬顔をしかめる。だが、すぐに小さく頷いた。
「うん……できれば持ち帰りたくないけど、ギルドに報告しなきゃ」
その様子を見つめながら、ラピスがぽつりと呟く。
「……本当に、すごいです。まるで……絵本の中に出てくる冒険者みたい」
誰かが、その言葉に照れくさそうに笑った。
◆◆◆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ユーク(LV.28)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:このくらいの数なら余裕かな。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
セリス(LV.28)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:私の武器が槍で本当に良かった……あんなの、あまり近づきたくないし。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アウリン(LV.29)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:大きくて足も遅い敵は、狙いやすくて助かるわね。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ヴィヴィアン(LV.28)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:敵が多いと、一度に全部足止めできないから大変だわ~
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ラピス(LV.30)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪テラーバースト≫
備考:私のほうがレベル高いのに、何かする前に終わっちゃった……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
12
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい
黒城白爵
ファンタジー
ーーある日、平穏な世界は終わった。
そうとしか表現できないほどに世界にモンスターという異物が溢れ返り、平穏かつ醜い世界は崩壊した。
そんな世界を自称凡人な男がマイペースに生きる、これはそんな話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる