127 / 161
第125話 生き残った悪意
しおりを挟む黒焦げになったラルヴァの女王の死骸が、光となって消え始める。
戦いは、終わった。
しかし、ユークたちも限界まで疲弊していた。セリスは肩で荒く息を吐き、ヴィヴィアンは地面に座り込んだまま足をかばって動けない。ユークも頭痛がするのか、こめかみに手を当てていた。
そのとき――
「セリスっ! 避けて!!」
アウリンの叫びと同時に、背後から影が飛び出し、セリスの背を鋭く切り裂いた。
「――っ!」
セリスが呻き、膝をつく。肩から背中にかけて大きく裂けた傷口から血があふれ出し、彼女は手で必死にそれを押さえた。
「ふう……危機一髪だったぜ」
現れたのは、死んだはずの火傷の男だった。
「な……んで……」
アウリンが蒼白な顔でつぶやく。
男はアウリンのEXスキルが発動する直前、クイーンの体内に身を潜めていたのだ。そのため、クイーンは倒れたが、男だけは辛うじて生き延びた。
絶望が彼女たちを包む。ユーク、セリス、霊樹の精霊の三人でようやく戦えた相手に、今やヴィヴィアンは足を負傷し、セリスも重傷。さらに、精霊はアウリンのEXスキルに巻き込まれて消滅してしまっている。
男がじりじりとアウリンに近づく。その視線はいやらしく、彼女の身体を舐めるように這い、舌なめずりをしていた。
男の股間が膨らんでいることに気づいたアウリンは、男が何をしようとしているのかを悟る。頭の中で、自ら命を絶つという最悪の選択肢すらよぎる。
――だが、その時。
「アウリン、下がって」
ユークが男の前に立ちはだかった。
そして、静かに告げる。
「EXスキル、《リミット・ブレイカー》」
ユークを中心に漂っていた青いオーラが、ふっと消える。それと同時に、『リインフォース』の効果も消失。だが代わりに、ユークだけが深く濃い青のオーラに包まれていた。
「ユークっ……!」
ヴィヴィアンが驚きと不安をにじませた声を漏らす。
ユークのEXスキル『リミット・ブレイカー』。それは30秒間、自身の全能力を300%に引き上げる究極の自己強化スキル。ただし、その代償として、スキル終了後24時間はジョブが完全に停止する。
「ちっ、強化魔法が切れたか。ちょっと残念だな……」
男が軽口を叩くが、ユークは無言でその視線を射抜く。
セリスを傷つけ、仲間を――恋人を汚そうとしたこの男を、ユークは決して許せなかった。
魔法の詠唱を始めるユーク。その速さに、男は思わず目を見張る。
「あれは……まさか、ユークのEXスキル!?」
アウリンが息を呑む。
「《フレイムレーザー》!」
ユークが魔法を放つ。
男は咄嗟に全力で回避した。炎の閃光が男の頬をかすめ、地面に着弾して爆発を起こす。
(速すぎる……!)
男の背筋に冷たい汗が流れる。
「《ストーンウォール》!」
男の真横から突如石壁がせり上がり、その体を強かに叩きつけた。
「くそっ!」
セリスは肩の痛みをこらえながら、ユークの戦いぶりに目を奪われていた。先ほどまでの彼とは別人のような鋭さ。魔法の精度と速度は、まさに圧倒的。
ユークの怒りが、すべての魔法に乗り移ったかのようだった。
嵐のような攻撃が男を襲う。フレイムボルト、アイスボルト、ストーンウォール――視界を封じ、足を奪い、行動を制限する連携。
さらに、ユーク自身も前に出て戦った。熟練の手つきで鉄球を投げる。その身のこなしは尋常ではなく速い。近接戦闘を主としない魔法使いとしては異常とも言える動きだった。
そのうえで高速魔法と鉄球の連携が加わり、ユークの攻撃はより一層、厄介なものとなっていく。
残り、23秒。
(こいつ……何者だ!?)
男は信じられないという表情で、急激に強くなったユークを見つめる。
「あの動き……本当にユークなの……」
アウリンが呆然とつぶやく。普段の彼からは想像もつかないほど、激しい戦いぶりだった。
石壁が男の視界を塞ぐ。消えた瞬間、ユークが正面から『フレイムボルト』を撃ち込んだ。
「はっ、真正面からとは、バカが!」
男は『エアスラッシュ』を放ち、魔法を打ち消す。
だが、違和感。
(なぜこの魔法……? こんなときに、あえて遅い魔法を……)
疑問が形になるよりも早く、魔法に紛れていた黒い玉が飛び出した。
「……なッ!?」
咄嗟に防御態勢を取る男。その耳に、ユークのカウントが届く。
「……2、1」
――残り、15秒。
黒い玉が炸裂し、爆風が地面ごと吹き飛ばす。男の身体は空中を舞い、地面に叩きつけられた。
転がる男。その視界に、上空から巨大な石壁が迫る。
――残り、5秒。
「や、やめろぉぉぉぉ!!!!」
泣き叫び、命乞いする男。
だが石壁は、男の顔すれすれでぴたりと止まった。
「ダメっ……殺しちゃ……!」
アウリンが思わず叫ぶ。だが、ユークの表情は変わらない。
(……はっ、人も殺せねぇのか。お前らみたいな日和った奴らには……!)
男は安堵すると同時に、ユークを嘲笑する。殺す覚悟がないと、見下した。
だが次の瞬間――
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
鈍い音が響き、男は絶叫した。
ユークの『ストーンウォール』が、男の四肢を容赦なく砕いたのだ。
「……え……」
セリスは呆然と見つめた。人の手足を砕くユークの姿は、これまで一度も見たことがなかった。
その底知れぬ怒りを目の当たりにしながらも、自分を守ってくれたことへの感謝と、彼にここまでさせてしまったことへの後悔が胸にこみ上げる。
――残り、1秒。
「お前を殺すつもりはない」
ユークが吐き捨てるように言い放った。
「だが、お前から戦闘能力は奪わせてもらう」
男は絶叫しながら、痛みに耐えきれず意識を失った。
「……すごい。ユーク君、本当に……」
ヴィヴィアンは涙を浮かべ、彼の姿を見つめる。絶望の淵から仲間を救ってくれたその姿は、彼女にとっての希望だった。
「ユーク……」
アウリンは、ただその名を呼ぶしかできなかった。彼の強さ、そして仲間を思う気持ちに、胸を深く揺さぶられていた。
こうして――
本当の意味で、“霊樹の戦い”は終わりを迎える。
そして、ユークの『リミット・ブレイカー』も静かに効果を終えた。
たった30秒。
けれど、その時間は戦場の運命を覆すには、十分すぎるほどだった。
◆◆◆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ユーク(LV.28)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:皆を守れて本当に良かった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
セリス(LV.28)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:……あの時完全に油断してた。もっとちゃんとしないと……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アウリン(LV.29)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:これであの男から情報が引き出せるわね、いったい何を企んでいるのかしら……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ヴィヴィアン(LV.28)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:今度ばかりはもうダメかと思っちゃったわ……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
火傷痕の男(LV.??)
性別:男
ジョブ:??
スキル:??
EXスキル:≪エアスラッシュ≫
EXスキル:≪ビーストソウル≫
備考:白目をむいて泡をふいて気絶している。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
11
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい
黒城白爵
ファンタジー
ーーある日、平穏な世界は終わった。
そうとしか表現できないほどに世界にモンスターという異物が溢れ返り、平穏かつ醜い世界は崩壊した。
そんな世界を自称凡人な男がマイペースに生きる、これはそんな話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる