14 / 58
選択②
しおりを挟む
門番へミカイルと話がしたいと伝えれば、彼らは何を確認することもなく中へ入れてくれる。事前に約束をしていたわけでもないのに、こんなにもスムーズに入れるのは、やはりミカイルが予め手を回していたからなんだろう。
現に、僕が庭を見ながら石畳を歩いていると、彼はすぐ玄関を開けてこちらまでやってきていた。
「ユハ、いらっしゃい。……来てくれたんだね」
安心したようにミカイルが微笑む。
「……ああ。もしかして待ってたのか?」
「……うん、あはは……バレてた?……僕が行っても良かったんだけど、やっぱりユハから会いに来てほしくてね」
「……分かってるとは思うけど、ミカに聞きたいことがあって今日は来たんだ」
「そうだよね。ここじゃ落ち着かないから、僕の部屋へ行こうか」
促されるまま、ミカイルについていく。彼は、つい先日別れた時のような様子のおかしいところもなく、極めて普段通りの姿を見せていた。
メイドが飲み物を用意して部屋を出ていく。
話を切り出す前に喉を潤そうとカップを持ち上げて飲めば、それは僕がいつも家で嗜んでいる一番好きなお茶だった。
「……これ、」
「ふふ、気づいた?ユハが好きだと思って用意したんだよ」
「そうなんだ……」
僕がミカイルの家へ来る保証もないのに、彼の思わぬ気遣いに胸が温かくなる。
カップを置いて一息つくと、知らず知らずの内に感じていた緊張もほどけて消えていった。
「……あのさ、父さんから聞いたんだ。僕が学園へ行けるように、ミカが僕を特待生へ推薦してくれるって」
「うん。それで、ユハはどうするか決めた?」
「……いいや、まだ決めてない」
首を横に振って答える。僕は静かに深呼吸をして、これまで考えてきたことを吐露した。
「僕は確かに学園へ行きたいと思っているけど、何もミカを利用してまで行きたいとは考えていないんだ。……ただ、父さんからはそうじゃないっていうのは聞いてる。僕の努力のおかげなんじゃないかって。もしもそれが本当なら、ミカの期待に応えたいし、僕だって一緒に行きたいよ。
……でも、これは父さんから間接的に聞いた話だから、ミカの真意が僕には分からなかった。だから、今日は改めて聞かせてほしい。ミカはどうして、僕を推薦しようと思ってくれたんだ?」
じっと目の前のミカイルを見つめる。彼の、本当の気持ちを知りたかった。
「……そっか、ユハはそう思ったんだね」
ミカイルは一言そう言うと、酷く嬉しそうに唇を緩ませた。
「ユハは手紙でたくさん勉強を頑張ってるって書いてくれたでしょ。僕に置いていかれたくないからって。実はね、……それを見て、僕もこの一年間一緒に頑張りたいと思えたんだよ」
「……そうだったのか?」
「うん。僕は少しでもユハの力になれるのならそうしたかった。ユハを応援したかったんだ。……だからイーグラント卿には今回、この話をさせてもらった。ユハは決して僕を利用してるわけじゃないし、そんなに責任を感じる必要はないんだよ。それに、結局は僕が勝手に言い出したことだしね」
「…………」
「他に何か気になることはある?それならなんでも言って。全部正直に答えるから」
「じゃあ……、どうして僕にも話をしてくれなかったんだ?父さんにだけ話して、僕に言わなかったのはなんでだよ」
「それは………」
「……?そんなに言いづらいことなのか?」
「……いや、少し恥ずかしい理由なんだけど……」
ミカイルは視線を逸らし、迷う素振りを見せていた。
しかし、一呼吸すると決心したように僕を見た。
「このことは絶対にユハの意思で決めてほしかったから。多分僕は、もし目の前でユハにこの話をして断られたら、無理矢理にでも頷いてくれるようにどんな手でも使うと思うんだ。でも、そんなことしたらユハは絶対に嫌がるでしょ?嫌がるユハを、渋々受け入れさせて、一緒に学園へ行ってもうまくやっていけないのは目に見えてる。……だから僕の見てないところで、ユハには決めて欲しかった」
カップの縁をそっと撫でながら、ミカイルは目を伏せる。
かなり意外な理由ではあったが、確かにミカイルには多少強引なところがあるため、そう言われるとその有り様が簡単に想像できてしまった。もしもその状況が実際にあったなら、きっと僕はいつものように言いくるめられて、渋々頷いていたに違いない。
しかしミカイルは初め言い淀んでいたにも関わらず、ちゃんと本心を伝えてくれた。それは彼が本当に真剣に考えてくれているからだと思うし、結果的に誠実さもいっそう感じることができた。
「なるほどな……。でも最終的には結論を出さないでここに来た訳だけど、ミカにとっては想定外だったってことか」
「確かに驚きはしたけど、……それ以上にユハが、僕の気持ちを知りたいって思ってくれたことの方が嬉しかったよ」
「……そんなことが嬉しいのか?」
「うん……、僕にとっては特別なんだ」
「へえ……?────まあ、とりあえずお前の気持ちはよく分かったよ。その上で答えたいんだけど……、ちなみに、ここで僕が断ったらミカはどうするんだ?無理やり頷かせるのか?」
「えっ!?……………こ、断るの?」
悲壮感を漂わせたミカイルが、小さな声でそう呟く。
僕はただ少しだけ意地悪をしてやろうと思っただけなのに、思いの外ダメージをくらっている様子がおかしくて、つい笑い声を上げてしまった。
「あはは!ごめんごめん、冗談だって……!僕も一緒に行くことにする。というか、行かせてください、が正しいか……?」
「……~っ!ほ、ほんとに!?嘘じゃないよね……!?」
「なんでここで嘘なんかつくんだよ。本当に本気だ」
「……っ良かったぁ……!」
ミカイルは瞳を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
よっぽど緊張していたのか、まるで大量の花が咲き誇ったかのような、そんな弾け飛ぶ笑顔だった。
本来は僕が喜ぶべきなのに、ミカイルの方がこんなに喜ぶなんて。お礼に何か僕にしてあげられることはないだろうか、ふとそんな考えが頭を過った。
「あのさ……ミカ。何か僕にしてほしいことはないか?」
「え…?急にどうしたの?」
「学園に行けること、本当に感謝してるんだ。だから僕も、何かで返せたらと思ってさ」
「……そんなこと気にしなくてもいいのに。……でもそれって、僕の言うことを聞いてくれるってこと?」
「あっ、もちろん僕に出来る範囲のことだけだからな!」
慌てて言葉を付け足す。
ミカイルのことだから、また無理難題を押し付けられてもおかしくはない。いくらお礼がしたいからといって、それだけは絶対に避けねばならないことだった。
「じゃ、じゃあ……」
随分と長い間考えて、ミカイルが意を決したような面持ちで顔を上げる。
「────僕だけを、見て欲しい」
「……ん?」
突拍子もなさすぎる言葉に、首をかしげる。
ミカイルも、自分が言ったことに対して何故か驚いたように目を見開いていた。
「あっ、ち、ちがっ!いや、違うわけじゃないんだけど……!……え、えっと…つまり、僕以外に友達は作らないでほしいし、仲良くもしてほしくないっていう意味で、変な意味はないから……!」
「ああ、なるほど……?そうすると、前にした約束とほとんど同じじゃないか?ほら、去年僕達が離ればなれになる時にミカが言ってたよな」
「うん、そうだね……」
以前と同じことを言っているはずなのに、何故かミカイルは恥ずかしそうに顔を赤くする。最初の突拍子もない言葉もそうだが、妙に挙動不審だ。
だがしかし、今の僕にはこの願いを叶えてあげられそうにないことの方が重要だった。
学園には、当たり前だがミカイル以外にも沢山の生徒がいる。もしそこへ通うことになったら、これまで身近な人としか関わってこなかった僕でも、いろんな人と接する良い機会になるだろうし、そうなれば当然、友達が欲しいと思っていた。
しかし、ミカイルは友達を作らないで欲しいと言う。残念ながら、それだけは簡単に頷ける話ではなかった。
「…………ユハ?」
「ああ、ごめん。その……、僕にとって、一番の友達はミカだ。それは…変わらないと思う。でも、それだけじゃ駄目なのか?」
「……それって、他の友達が欲しいってこと?」
「そういうことになる……。なあ、前はそんなに疑問に思わなかったけど、逆になんでミカはそんなに友達を作らせたくないんだよ。交流が広がるのは良いことだろ?」
「……………………」
その瞬間、ミカイルの顔が恐ろしいものを見るかのように強ばった。
僕は何かいけないことでも言ってしまっただろうか。まさかそんな顔をされるとは思わず、困惑が隠せない。
「………………こういうこと言うのは、変?」
「変、っていうか…僕には分からない考えだから、どうしてなんだろうと思って……」
「と、友達に、自分以外の仲の良い人ができるのは、嫌じゃない……?」
「ああ……、それならまあ、分かるかも……」
「っそうでしょ……?それと、同じだよ」
ずっと動揺したように言葉を詰まらせながらこちらを伺ってくるミカイルを見て、言われてみれば、彼のその気持ちも分かるような気がした。
もしミカイルに僕以上の友達が出来たとしたらどうだろう。それは絶対に寂しいと思う。
ただ、だからといって友達を作らないというのはやっぱり違うんじゃないか?
「なるほどな。ミカイルの気持ちは分かった。でも……さっきも言った通り、僕の一番の友達はミカだよ。だからそんなに不安になる必要はないと思う」
「…………じゃあ僕を……ユハの特別にしてよ」
緊張が伝わりそうなほどの眼差しが僕をさしていた。吐き出すように呟かれたその声に、ミカイルの本気が伝わる。
「特別?」
「な、なんでもいいから。ユハにとって、僕だけが当てはまるっていう何かが欲しい」
「うーん……それなら、親友は?」
「それは恋人よりも大切?」
「こ、恋人!?急に何言い出すんだ!」
「いいから教えて」
気付けば先程までの動揺は消え失せ、はっきりと言葉を放つ、いつものミカイルがそこにいた。
「……恋人よりも大切かどうかなんて、実際に比べる人がいないから分からない」
「じゃあこれから先も作らないで。そうしたら、僕だけがユハの特別だよね?」
「……それはそう…だな?」
「うん。それを守ってくれるなら、百歩譲って友達を作ってもいいよ」
そう言って、ミカイルは満足したように笑う。
いまいち納得しきれない部分はあるものの、とりあえずミカイルは僕の親友、という位置付けであれば良いのだろうか。それなら至極簡単な話だ。
それとさりげなく恋人を作ることは禁止されたのだが、別に恋愛をしに学園へ行くわけでもない。だからこれもさしあたって問題にはならないだろう。
このくらいの約束でミカイルへのお礼になるのなら、安すぎるくらいのものであった。
現に、僕が庭を見ながら石畳を歩いていると、彼はすぐ玄関を開けてこちらまでやってきていた。
「ユハ、いらっしゃい。……来てくれたんだね」
安心したようにミカイルが微笑む。
「……ああ。もしかして待ってたのか?」
「……うん、あはは……バレてた?……僕が行っても良かったんだけど、やっぱりユハから会いに来てほしくてね」
「……分かってるとは思うけど、ミカに聞きたいことがあって今日は来たんだ」
「そうだよね。ここじゃ落ち着かないから、僕の部屋へ行こうか」
促されるまま、ミカイルについていく。彼は、つい先日別れた時のような様子のおかしいところもなく、極めて普段通りの姿を見せていた。
メイドが飲み物を用意して部屋を出ていく。
話を切り出す前に喉を潤そうとカップを持ち上げて飲めば、それは僕がいつも家で嗜んでいる一番好きなお茶だった。
「……これ、」
「ふふ、気づいた?ユハが好きだと思って用意したんだよ」
「そうなんだ……」
僕がミカイルの家へ来る保証もないのに、彼の思わぬ気遣いに胸が温かくなる。
カップを置いて一息つくと、知らず知らずの内に感じていた緊張もほどけて消えていった。
「……あのさ、父さんから聞いたんだ。僕が学園へ行けるように、ミカが僕を特待生へ推薦してくれるって」
「うん。それで、ユハはどうするか決めた?」
「……いいや、まだ決めてない」
首を横に振って答える。僕は静かに深呼吸をして、これまで考えてきたことを吐露した。
「僕は確かに学園へ行きたいと思っているけど、何もミカを利用してまで行きたいとは考えていないんだ。……ただ、父さんからはそうじゃないっていうのは聞いてる。僕の努力のおかげなんじゃないかって。もしもそれが本当なら、ミカの期待に応えたいし、僕だって一緒に行きたいよ。
……でも、これは父さんから間接的に聞いた話だから、ミカの真意が僕には分からなかった。だから、今日は改めて聞かせてほしい。ミカはどうして、僕を推薦しようと思ってくれたんだ?」
じっと目の前のミカイルを見つめる。彼の、本当の気持ちを知りたかった。
「……そっか、ユハはそう思ったんだね」
ミカイルは一言そう言うと、酷く嬉しそうに唇を緩ませた。
「ユハは手紙でたくさん勉強を頑張ってるって書いてくれたでしょ。僕に置いていかれたくないからって。実はね、……それを見て、僕もこの一年間一緒に頑張りたいと思えたんだよ」
「……そうだったのか?」
「うん。僕は少しでもユハの力になれるのならそうしたかった。ユハを応援したかったんだ。……だからイーグラント卿には今回、この話をさせてもらった。ユハは決して僕を利用してるわけじゃないし、そんなに責任を感じる必要はないんだよ。それに、結局は僕が勝手に言い出したことだしね」
「…………」
「他に何か気になることはある?それならなんでも言って。全部正直に答えるから」
「じゃあ……、どうして僕にも話をしてくれなかったんだ?父さんにだけ話して、僕に言わなかったのはなんでだよ」
「それは………」
「……?そんなに言いづらいことなのか?」
「……いや、少し恥ずかしい理由なんだけど……」
ミカイルは視線を逸らし、迷う素振りを見せていた。
しかし、一呼吸すると決心したように僕を見た。
「このことは絶対にユハの意思で決めてほしかったから。多分僕は、もし目の前でユハにこの話をして断られたら、無理矢理にでも頷いてくれるようにどんな手でも使うと思うんだ。でも、そんなことしたらユハは絶対に嫌がるでしょ?嫌がるユハを、渋々受け入れさせて、一緒に学園へ行ってもうまくやっていけないのは目に見えてる。……だから僕の見てないところで、ユハには決めて欲しかった」
カップの縁をそっと撫でながら、ミカイルは目を伏せる。
かなり意外な理由ではあったが、確かにミカイルには多少強引なところがあるため、そう言われるとその有り様が簡単に想像できてしまった。もしもその状況が実際にあったなら、きっと僕はいつものように言いくるめられて、渋々頷いていたに違いない。
しかしミカイルは初め言い淀んでいたにも関わらず、ちゃんと本心を伝えてくれた。それは彼が本当に真剣に考えてくれているからだと思うし、結果的に誠実さもいっそう感じることができた。
「なるほどな……。でも最終的には結論を出さないでここに来た訳だけど、ミカにとっては想定外だったってことか」
「確かに驚きはしたけど、……それ以上にユハが、僕の気持ちを知りたいって思ってくれたことの方が嬉しかったよ」
「……そんなことが嬉しいのか?」
「うん……、僕にとっては特別なんだ」
「へえ……?────まあ、とりあえずお前の気持ちはよく分かったよ。その上で答えたいんだけど……、ちなみに、ここで僕が断ったらミカはどうするんだ?無理やり頷かせるのか?」
「えっ!?……………こ、断るの?」
悲壮感を漂わせたミカイルが、小さな声でそう呟く。
僕はただ少しだけ意地悪をしてやろうと思っただけなのに、思いの外ダメージをくらっている様子がおかしくて、つい笑い声を上げてしまった。
「あはは!ごめんごめん、冗談だって……!僕も一緒に行くことにする。というか、行かせてください、が正しいか……?」
「……~っ!ほ、ほんとに!?嘘じゃないよね……!?」
「なんでここで嘘なんかつくんだよ。本当に本気だ」
「……っ良かったぁ……!」
ミカイルは瞳を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
よっぽど緊張していたのか、まるで大量の花が咲き誇ったかのような、そんな弾け飛ぶ笑顔だった。
本来は僕が喜ぶべきなのに、ミカイルの方がこんなに喜ぶなんて。お礼に何か僕にしてあげられることはないだろうか、ふとそんな考えが頭を過った。
「あのさ……ミカ。何か僕にしてほしいことはないか?」
「え…?急にどうしたの?」
「学園に行けること、本当に感謝してるんだ。だから僕も、何かで返せたらと思ってさ」
「……そんなこと気にしなくてもいいのに。……でもそれって、僕の言うことを聞いてくれるってこと?」
「あっ、もちろん僕に出来る範囲のことだけだからな!」
慌てて言葉を付け足す。
ミカイルのことだから、また無理難題を押し付けられてもおかしくはない。いくらお礼がしたいからといって、それだけは絶対に避けねばならないことだった。
「じゃ、じゃあ……」
随分と長い間考えて、ミカイルが意を決したような面持ちで顔を上げる。
「────僕だけを、見て欲しい」
「……ん?」
突拍子もなさすぎる言葉に、首をかしげる。
ミカイルも、自分が言ったことに対して何故か驚いたように目を見開いていた。
「あっ、ち、ちがっ!いや、違うわけじゃないんだけど……!……え、えっと…つまり、僕以外に友達は作らないでほしいし、仲良くもしてほしくないっていう意味で、変な意味はないから……!」
「ああ、なるほど……?そうすると、前にした約束とほとんど同じじゃないか?ほら、去年僕達が離ればなれになる時にミカが言ってたよな」
「うん、そうだね……」
以前と同じことを言っているはずなのに、何故かミカイルは恥ずかしそうに顔を赤くする。最初の突拍子もない言葉もそうだが、妙に挙動不審だ。
だがしかし、今の僕にはこの願いを叶えてあげられそうにないことの方が重要だった。
学園には、当たり前だがミカイル以外にも沢山の生徒がいる。もしそこへ通うことになったら、これまで身近な人としか関わってこなかった僕でも、いろんな人と接する良い機会になるだろうし、そうなれば当然、友達が欲しいと思っていた。
しかし、ミカイルは友達を作らないで欲しいと言う。残念ながら、それだけは簡単に頷ける話ではなかった。
「…………ユハ?」
「ああ、ごめん。その……、僕にとって、一番の友達はミカだ。それは…変わらないと思う。でも、それだけじゃ駄目なのか?」
「……それって、他の友達が欲しいってこと?」
「そういうことになる……。なあ、前はそんなに疑問に思わなかったけど、逆になんでミカはそんなに友達を作らせたくないんだよ。交流が広がるのは良いことだろ?」
「……………………」
その瞬間、ミカイルの顔が恐ろしいものを見るかのように強ばった。
僕は何かいけないことでも言ってしまっただろうか。まさかそんな顔をされるとは思わず、困惑が隠せない。
「………………こういうこと言うのは、変?」
「変、っていうか…僕には分からない考えだから、どうしてなんだろうと思って……」
「と、友達に、自分以外の仲の良い人ができるのは、嫌じゃない……?」
「ああ……、それならまあ、分かるかも……」
「っそうでしょ……?それと、同じだよ」
ずっと動揺したように言葉を詰まらせながらこちらを伺ってくるミカイルを見て、言われてみれば、彼のその気持ちも分かるような気がした。
もしミカイルに僕以上の友達が出来たとしたらどうだろう。それは絶対に寂しいと思う。
ただ、だからといって友達を作らないというのはやっぱり違うんじゃないか?
「なるほどな。ミカイルの気持ちは分かった。でも……さっきも言った通り、僕の一番の友達はミカだよ。だからそんなに不安になる必要はないと思う」
「…………じゃあ僕を……ユハの特別にしてよ」
緊張が伝わりそうなほどの眼差しが僕をさしていた。吐き出すように呟かれたその声に、ミカイルの本気が伝わる。
「特別?」
「な、なんでもいいから。ユハにとって、僕だけが当てはまるっていう何かが欲しい」
「うーん……それなら、親友は?」
「それは恋人よりも大切?」
「こ、恋人!?急に何言い出すんだ!」
「いいから教えて」
気付けば先程までの動揺は消え失せ、はっきりと言葉を放つ、いつものミカイルがそこにいた。
「……恋人よりも大切かどうかなんて、実際に比べる人がいないから分からない」
「じゃあこれから先も作らないで。そうしたら、僕だけがユハの特別だよね?」
「……それはそう…だな?」
「うん。それを守ってくれるなら、百歩譲って友達を作ってもいいよ」
そう言って、ミカイルは満足したように笑う。
いまいち納得しきれない部分はあるものの、とりあえずミカイルは僕の親友、という位置付けであれば良いのだろうか。それなら至極簡単な話だ。
それとさりげなく恋人を作ることは禁止されたのだが、別に恋愛をしに学園へ行くわけでもない。だからこれもさしあたって問題にはならないだろう。
このくらいの約束でミカイルへのお礼になるのなら、安すぎるくらいのものであった。
155
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる