21 / 58
二日目②
しおりを挟む
午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
あれから結局、小休憩になる度にミカイルが僕の元へ来るものだから、ハインツと話すことは一度も出来なかった。
ハインツも僕達の邪魔はできないのだろう。
僕は聞きたい気持ちがもどかしくてミカイルには来ないで欲しいと言ったが、嫌だの一点張りで僕の言うことは聞き入れてくれない。心配してくれているのは分かるが、彼が来ると余計に注目も浴びるので、出来ることならそっとしておいてほしかった。
お昼こそは、と思いご飯に誘おうと声をかける。
しかし彼にも当然他の友達はいるので、その人と一緒で良ければと言われてしまった。そうなると話もしづらいだろうから、泣く泣く僕は断るしかない。
そうしている間にもミカイルはやってきて、最終的には二人で食堂へ向かうこととなった。
食堂へ向かう途中、またもや僕は周囲の視線が突き刺さるのを感じる。
朝の登校の時に向けられたものと同じだ。気にしないようにはしていたが、あまりにも見られているようだからそうも言っていられない。
ミカイルは気にならないのかと思いそっと顔を盗み見るも、依然として気付いてないのか、ただ僕に微笑んでいるだけだった。
「うわ、人が多いな……」
久しぶりの食堂は、多くの生徒でごった返していた。いくら広い食堂と言えど、これでは席を確保するのも大変そうだ。
ミカイルからはぐれないよう体をくっつけて歩いていると、何故か目の前の道がどんどんと開けていく。
何が起こっているんだと思い周囲の生徒を見れば、彼らは皆一様にミカイルを見つめていた。どうやら、彼のために自然と端へ寄っているらしい。
僕はここにきて初めて、今まで感じていた視線の意味を理解した。
彼らの目は全て、ミカイルに向かっていたのだ。
少し気味が悪いほどの光景だが、納得はできる。
まるで天使と見紛うばかりの美貌に、すらっと長い手足、さらにはキラキラと光輝く彼のブロンドの髪は、見る者を釘付けにするには十分だった。
僕は幼い頃から見ているためにもう慣れてしまっていたが、彼は本来このような羨望の眼差しを受けるのに値する人物で、僕の手では到底届かない存在なのであった。
もしかすると、クラスで向けられたあの悪意のこもった視線は、僕が彼にふさわしくないと判断されたからではないか。そう、ふと思った。
現に、ミカイルが僕を幼馴染みだと紹介した瞬間に皆の目つきが変わったのを思い出す。
高貴なミカイルに冴えない僕が幼馴染みと言うだけで、彼に微笑まれ隣に立てるのだから、それに目くじらを立てて睨んでしまうのも頷ける話だ。
しかし、もし本当にそれが理由なのであれば、果たして悪いのは僕なんだろうか。僕がジークのような見目の良い人物であったなら、彼らは歓迎してくれたのか。
やっぱり、一度ハインツに話を聞いてみなければならない。そうすれば、これからの僕の立ち振舞いについて考えることができる────
ミカイルは空いている席を指差して教えてくれた。
もしかしたら彼のために空けられた席なのかもしれないが、僕もそこで食べることにして注文をした。
ミカイルが眉を下げて苦笑する。
「ここ、人が多いでしょ?だから僕はあんまり来たくなかったんだ」
「たしかにそうだな。でも、僕も流石に昼食まで作るのは無理だぞ」
「うん、そうだよね……」
以前にもお昼までは作れないと断ったのだが、まだ諦めきれていなかったらしい。
ミカイルはがっかりした様子で呟くと、切り替えるように瞬きをして話題を変えた。
「そういえば、ハインツと仲良くなったんだね」
「ああ。席が近いのもあって、いろいろと気にかけてくれるんだ。学級委員長だからというのもあるかもしれないな」
「へえ……」
「何だよその目は。友達は作ってもいいっていう話だっただろ」
「…そうだけど、あんまり仲良くしすぎないでね。僕が一番じゃないと困るから」
微笑んでいるはずなのに、瞳が笑っていないせいで責められているような気がする。寒くもないのにぞくりと背筋に冷たいものが走る。
温かいスープを頼んでおいて良かった。
別にこのために注文したわけではなかったが、結果的には僕の体を暖めてくれることになりそうで、数秒前の自分に感謝した。
そんな話をしていると、注文した料理が運ばれてくる。僕達は一度喋るのを止め、食事に集中することにした。
やっぱり食堂のご飯は舌を打つほど美味しく、僕もうっかり上達した気になっていたがそんなものはまだまだだった。
ミカイルがお昼だけでも許してくれて良かった。
そうでなければ、僕は勘違いしたまま自分の料理に胡座をかいてしまうところであった。
教室へ戻ると昼休憩が終わるギリギリの時間になっていた。ミカイルがまたね、と言って自分の席へ戻る。
僕も席につくと、ジークが前の扉から教室へ入ってくるのが見えた。
そういえば、今日はジークが一度も近づいてくることはなかった。昨日はあんなに怒っていたから小言の一つや二つは覚悟していたのに。
でもまあ、関わってこないならその方がいい。彼はプライドが高そうだから、強情な僕とはきっと相性が悪いことだろう。
あれから結局、小休憩になる度にミカイルが僕の元へ来るものだから、ハインツと話すことは一度も出来なかった。
ハインツも僕達の邪魔はできないのだろう。
僕は聞きたい気持ちがもどかしくてミカイルには来ないで欲しいと言ったが、嫌だの一点張りで僕の言うことは聞き入れてくれない。心配してくれているのは分かるが、彼が来ると余計に注目も浴びるので、出来ることならそっとしておいてほしかった。
お昼こそは、と思いご飯に誘おうと声をかける。
しかし彼にも当然他の友達はいるので、その人と一緒で良ければと言われてしまった。そうなると話もしづらいだろうから、泣く泣く僕は断るしかない。
そうしている間にもミカイルはやってきて、最終的には二人で食堂へ向かうこととなった。
食堂へ向かう途中、またもや僕は周囲の視線が突き刺さるのを感じる。
朝の登校の時に向けられたものと同じだ。気にしないようにはしていたが、あまりにも見られているようだからそうも言っていられない。
ミカイルは気にならないのかと思いそっと顔を盗み見るも、依然として気付いてないのか、ただ僕に微笑んでいるだけだった。
「うわ、人が多いな……」
久しぶりの食堂は、多くの生徒でごった返していた。いくら広い食堂と言えど、これでは席を確保するのも大変そうだ。
ミカイルからはぐれないよう体をくっつけて歩いていると、何故か目の前の道がどんどんと開けていく。
何が起こっているんだと思い周囲の生徒を見れば、彼らは皆一様にミカイルを見つめていた。どうやら、彼のために自然と端へ寄っているらしい。
僕はここにきて初めて、今まで感じていた視線の意味を理解した。
彼らの目は全て、ミカイルに向かっていたのだ。
少し気味が悪いほどの光景だが、納得はできる。
まるで天使と見紛うばかりの美貌に、すらっと長い手足、さらにはキラキラと光輝く彼のブロンドの髪は、見る者を釘付けにするには十分だった。
僕は幼い頃から見ているためにもう慣れてしまっていたが、彼は本来このような羨望の眼差しを受けるのに値する人物で、僕の手では到底届かない存在なのであった。
もしかすると、クラスで向けられたあの悪意のこもった視線は、僕が彼にふさわしくないと判断されたからではないか。そう、ふと思った。
現に、ミカイルが僕を幼馴染みだと紹介した瞬間に皆の目つきが変わったのを思い出す。
高貴なミカイルに冴えない僕が幼馴染みと言うだけで、彼に微笑まれ隣に立てるのだから、それに目くじらを立てて睨んでしまうのも頷ける話だ。
しかし、もし本当にそれが理由なのであれば、果たして悪いのは僕なんだろうか。僕がジークのような見目の良い人物であったなら、彼らは歓迎してくれたのか。
やっぱり、一度ハインツに話を聞いてみなければならない。そうすれば、これからの僕の立ち振舞いについて考えることができる────
ミカイルは空いている席を指差して教えてくれた。
もしかしたら彼のために空けられた席なのかもしれないが、僕もそこで食べることにして注文をした。
ミカイルが眉を下げて苦笑する。
「ここ、人が多いでしょ?だから僕はあんまり来たくなかったんだ」
「たしかにそうだな。でも、僕も流石に昼食まで作るのは無理だぞ」
「うん、そうだよね……」
以前にもお昼までは作れないと断ったのだが、まだ諦めきれていなかったらしい。
ミカイルはがっかりした様子で呟くと、切り替えるように瞬きをして話題を変えた。
「そういえば、ハインツと仲良くなったんだね」
「ああ。席が近いのもあって、いろいろと気にかけてくれるんだ。学級委員長だからというのもあるかもしれないな」
「へえ……」
「何だよその目は。友達は作ってもいいっていう話だっただろ」
「…そうだけど、あんまり仲良くしすぎないでね。僕が一番じゃないと困るから」
微笑んでいるはずなのに、瞳が笑っていないせいで責められているような気がする。寒くもないのにぞくりと背筋に冷たいものが走る。
温かいスープを頼んでおいて良かった。
別にこのために注文したわけではなかったが、結果的には僕の体を暖めてくれることになりそうで、数秒前の自分に感謝した。
そんな話をしていると、注文した料理が運ばれてくる。僕達は一度喋るのを止め、食事に集中することにした。
やっぱり食堂のご飯は舌を打つほど美味しく、僕もうっかり上達した気になっていたがそんなものはまだまだだった。
ミカイルがお昼だけでも許してくれて良かった。
そうでなければ、僕は勘違いしたまま自分の料理に胡座をかいてしまうところであった。
教室へ戻ると昼休憩が終わるギリギリの時間になっていた。ミカイルがまたね、と言って自分の席へ戻る。
僕も席につくと、ジークが前の扉から教室へ入ってくるのが見えた。
そういえば、今日はジークが一度も近づいてくることはなかった。昨日はあんなに怒っていたから小言の一つや二つは覚悟していたのに。
でもまあ、関わってこないならその方がいい。彼はプライドが高そうだから、強情な僕とはきっと相性が悪いことだろう。
157
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる