【完結】執着系幼馴染みが、大好きな彼を手に入れるために叶えたい6つの願い事。

髙槻 壬黎

文字の大きさ
38 / 58

勉強会③

しおりを挟む
 しばらく各々で勉強をしていると、ジークが席を立った。
 リリアーナさんが声をかけたものの、何も言わず何処かへ行く。机の上はそのままだから、戻ってくるつもりはあるのだろう。
 それ以上誰かが声をかけることはなく、ジークは勉強スペースを出て行くと本棚のある方へ消えていった。

 それを見届けた僕は、ハインツに教えてもらっていたのを一旦中断させ、同様に席を立つ。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
「うん、じゃあ続きは戻ってからにするね」
「ああ」

 頷いて、席を離れる。心なしかミカイルの視線が背中に突き刺さっているような感じはしたが、振り返ることはしなかった。


***


 今回の僕のもう一つの目的。
 それは、ジークともう一度ちゃんと話すことだった。彼がついてくるのを良しとしたのもそのためだ。
 普段の教室で話しかけるには人目が多すぎて、余計な噂を立てられかねない。それにミカイルにはジークとの一件を内緒にしているから、彼には知られず話をする必要があった。
 だから、こうして僕はジークが一人になる時をずっと見計らっていた。出てくるタイミングが少し不自然だったかもしれないが、戻るのが遅くならなければいいだけの話。もし聞かれたとしても、今回は上手く誤魔化す自信があった。


***


 立ち並んだ本棚の隙間を、縫うようにして探す。
 それほど人はおらず、背の高いジークならばすぐに見つかりそうだ。僕もわりとすぐに出てきたから、そう遠くには行っていないだろう。

 しかし、予想に反してなかなか彼の姿は見当たらなかった。
 まさか、図書室の外に出ていったのだろうか。そうなれば、いよいよジークの居場所など分からない。遠くに行きすぎて戻るのが遅くなるのはまずいが、かといってこれでは呼んだ意味がない───と不安が渦巻いてきたところで、つきあたりにある壁を背にして、もたれかかるジークの姿が目に入った。
 ズボンのポケットに両手をつっこんで軽く俯いている彼は、普段の粗暴さをひそませ、物憂げな雰囲気を滲ませている。何か考え込んでいるのか、僕が来たことに気付いてはいなかった。

「こんなところにいたのか。おい、ジーク」
「あ? …………チッ、何しにきたんだよ」

 小声で呼べば、先程までのアンニュイな雰囲気は一気に消え失せ、いつも通りのジークに戻る。なんだか惜しい。ずっとさっきのような感じでいればいいのに。
 しかし、当たり前だがそれは叶わない願いだった。

「お前と話がしたくて探してたんだ」
「俺と……?」
「前にミカイルについていろいろ言われただろ。あの話、やっぱり僕には理解ができなかったし、納得できるものじゃなかった。だからもう一度、お前と話をする必要があると思ったんだ」
「……ああ、奇遇だな。俺もてめえに聞きてえことがあったんだよ」
「聞きたいこと? なんだ?」
「………お前、ミカイルに何した?」

 ジークは一瞬、言うかどうか悩む素振りを見せた後、そう問いかけた。
 相変わらず眉間に皺は寄っているが、珍しくこちらを睨み付けてはいない。真剣な目付きだった。

「何……って、なにが? それじゃあ抽象的すぎて何を答えればいいのか分からない。もっと具体的に言ってくれないか」
「…………チッ、……さっきのミカイル、様子が変だっただろ。まるで、てめえにワガママ言ってるみてえな……。普段のあいつだったら、他人を気遣う時だけしか自己主張なんてしねえのに」
「あれは────僕からしたらいつも通りのミカイルだ。あいつはいつだって僕に対しては強気だし、自分の主張が通らないと気が済まない。そういう奴なんだよ」
「それは……てめえのことが嫌いだからじゃ……」
「……あのさ、もういい加減ジークも薄々気づいてるんじゃないか?────自分が言ったことと実際見たこと、その二つに矛盾が発生してることに」

 言いながら、気分はまるで、真実を突き付ける名探偵かのようだった。

「そんなわけねえ……」

 しかし、ジークは自分の非を認めたくないらしい。自分の額に右手を当て、ぶつぶつと呟いている。
 けれどこんなところで僕も引くはずがなく、更に追加で言い放ってやる。

「お前は僕がミカイルにワガママを言って困らせてると思っていたみたいだけど、そんな事実は残念ながら一切ない。どうしてそんな勘違いをしたのか、ハインツに話は聞いたけど、ただのお前の思い込みでしかなかった。だからなんであれほどの憎悪を向けられるのか、僕にはやっぱり納得できないんだ。……なあ、この際だから他にも理由があるなら教えてほしい。僕だってただの勘違いで嫌われ続けるのは嫌なんだよ」
「……勘違い?……勘違いだと?……俺は確かに、ミカイルから困ってるって、うんざりしてるんだってそう聞いたんだよ。これが勘違いなわけねえ。あいつは確かに言ってた……言ってたんだ……」

 自信がないのか、ジークは何度も言い聞かせるように繰り返した。

「ああそうだ。手紙の件だって、ミカイルから聞いた。てめえが返事を書かねえと怒るからって……ミカイルの優しさにつけこんでたのは知ってんだ……」
「手紙?……僕は確かに手紙を出していたけど、返事が遅いと怒るのはミカイルほうだった────」
「はあ!? そんなわけねえだろ! あいつは確かに困った顔して、挙げ句の果てにはてめえを気遣うことまで言ってたんだ!」
「ちょっ、ここ、図書室だからそんな大きい声出すなって……!」

 ぎょっとして、咄嗟に周囲を見渡す。
 幸いにも辺りに人の気配は感じられず、ほっと一息ついたのも束の間。目の前のジークは収まらない怒りをそのままにして僕の肩を掴むと、本棚の壁へ、どんと勢いよく押し付けた。

「痛ったいな……!」
「てめえの戯れ言にはもううんざりだ」

 上から覗き込むジークの開ききった瞳孔。彼が激昂しているのがやすやすと分かった。

「どうせ今のミカイルの様子がおかしいのはてめえのせいなんだろ。ああ絶対にそうだ。それしかねえ……」
「はっ、……どこまでも僕の仕業に仕立て上げたいんだな。────分かった、そっちがそのつもりなら、よく見てみろよ。僕とミカイルのことをさ。これから定期的に勉強会を開くから、お前も来い。それで、どっちの言ってることが正しいか、ちゃんと見極めろ。お前も公爵家の人間として、物事を俯瞰的に捉えることくらいはできないといけないだろうからな」
「…………言ってろ、このクズ野郎が」

 そう吐き捨てたジークはぱっと手を離すと、この場を背にして歩いていった。

「逃げるなよ、ジーク」

 僕も一言だけ投げ掛ける。聞こえてはいるだろうが、ジークは振り返ることなくそのまま本棚の角を曲がると、姿を消した。



 ────結局、言いたいことは言えたものの誤解が解けることはなかった。
 なぜジークがあんなにも頑ななのか、僕には理解がしきれない。プライドが人一倍高いというのはあるだろうが、それにしてもだ。どうにも僕が悪くなるようになっている感じがあった。


***


 その後少し時間を置いて戻ってきた僕を待っていたのは、ミカイル、ハインツ、リリアーナさん。以上の三人だった。
 ジークの席はもぬけの殻で、机に広げてあった教科書類はなくなっている。
 三人の話によれば、ジークは戻ってきたかと思うとすぐに荷物をまとめて出ていってしまったらしい。その時の手つきがやけに荒々しく、不機嫌さも増していたせいで誰も何も問いかけなかったようだが、後から戻ってきた僕を見てミカイル達はどことなく心配そうな視線を送っていた。

「……ユハン、帰ってくるの遅かったけど、何かあった?」
「別に何もなかった。ただ、東館ってあんまり来ることないからさ、トイレの場所が分からなかったんだ。だからちょっと戻るのが遅くなった」
「───へえ。それならいいけど。……心配してたから、何もなくてよかったよ」

 目を細めてミカイルが微笑む。僕の言ったことを信じているのかいないのか、判断のしにくい表情だ。

「確かに、広いから少し分かりづらいところはあるわね、この学園。慣れてないと迷ってしまうのもよく分かるわ。────それはそうと、ユハンはジークに会わなかったみたいね。彼、出ていったときよりも何故か不機嫌になって戻ってきたから、何かあったんじゃないかって皆で心配してたのよ」
「ボクも、一緒に行ってあげた方が良かったんじゃないかって不安だったよ……」 

 困ったように眉を下げ、頬に手を添えているリリアーナさんと、そわそわと所在なく指を動かしているハインツ。

「心配かけてごめん。でも、本当にジークには会ってないから安心してほしい」

 僕は緊張で脈打つ鼓動を無視して、ノートを開いた。
 その言葉を聞いた二人は、何も疑っていないようで、ほっと一息つく。ミカイルだけでなく、彼らにも嘘をついてしまったことに心が痛んだ音がしたが、これは僕自身の問題だ。他の誰にも迷惑をかけたくなかった。


 それから閉館時間まで勉強をした僕達は、次の約束を決めると、寮へそれぞれ帰った。
 ミカイルには怒られるかもしれないと思ったが、彼は終始穏やかな笑みを絶やさず、次の予定を決めるときでさえ、文句の一つもあげなかった。僕にとってそれは喜ばしいことのはずなのに、時折見せる人形のような顔つきは僕の最も苦手とする彼の姿で、何を考えているのか分からない、真意の読めないミカイルが返って不気味に映っていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
 没落名士の長男ノアゼットは日々困窮していく家族を支えるべく上級学校への進学を断念して仕送りのために王都で働き出す。しかし賢くても後見の無いノアゼットが仕送り出来るほど稼げはしなかった。  そんな時に声を掛けてきた高級娼家のマダムの引き抜きで、男娼のノアとして働き出したノアゼット。研究肌のノアはたちまち人気の男娼に躍り出る。懇意にしてくれる太客がついて仕送りは十分過ぎるほどだ。  そんな中、母親の再婚で仕送りの要らなくなったノアは、一念発起して自分の人生を始めようと決意する。順風満帆に滑り出した自分の生活に満ち足りていた頃、ノアは再婚相手の元に居る家族の元に二度目の帰省をする事になった。 そこで巻き起こる自分の過去との引き合わせに動揺するノア。ノアと太客の男との秘密の関係がまた動き出すのか?

稀代の英雄に求婚された少年が、嫌われたくなくて逃げ出すけどすぐ捕まる話

こぶじ
BL
聡明な魔女だった祖母を亡くした後も、孤独な少年ハバトはひとり森の中で慎ましく暮らしていた。ある日、魔女を探し訪ねてきた美貌の青年セブの治療を、祖母に代わってハバトが引き受ける。優しさにあふれたセブにハバトは次第に心惹かれていくが、ハバトは“自分が男”だということをいつまでもセブに言えないままでいた。このままでも、セブのそばにいられるならばそれでいいと思っていたからだ。しかし、功を立て英雄と呼ばれるようになったセブに求婚され、ハバトは喜びからついその求婚を受け入れてしまう。冷静になったハバトは絶望した。 “きっと、求婚した相手が醜い男だとわかれば、自分はセブに酷く嫌われてしまうだろう” そう考えた臆病で世間知らずなハバトは、愛おしくて堪らない英雄から逃げることを決めた。 【堅物な美貌の英雄セブ×不憫で世間知らずな少年ハバト】 ※セブは普段堅物で実直攻めですが、本質は執着ヤンデレ攻めです。 ※受け攻め共に、徹頭徹尾一途です。 ※主要人物が死ぬことはありませんが、流血表現があります。 ※本番行為までは至りませんが、受けがモブに襲われる表現があります。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!

処理中です...