ゴリラ似の俺、異世界でハーレム生活するはずが神様の手違いで動物園に転生しました

六甲のぼる

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初めてのトイレに行きたくなった件について

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朝――。
光がゴリラ舎に差し込む。

だがその清々しさとは裏腹に、健人はある種の“臨界点”に立たされていた。

「……う、うう……マズい……腹が……!」

バナナを食べ続けた反動か、ついに“その時”が来た。

植松健人、24歳、童貞。
この状況に、あまりにも免疫がなかった。
「トイレ問題」
それは文明人としての最終防衛ラインであり、童貞にとって最後のプライドでもある。

「……俺、女の前でう●こなんてしたことねぇよ……!」

彼は震えた。羞恥の震えだった。

※しかも“女”とは、飼育員・佐々木あかりのことを指す。



ゴリラ舎の隅で、本物のゴリラがプスッと済ませる。
ナチュラルに。堂々と。まるで“当たり前”のことのように。

「お前ら、そういうとこだけ自然体かよ……!」

そして、健人の耳元にふと蘇る神様の声。



【脳内回想】

神様(アロハ)「出すもん出してスッキリしたら、世界変わるぜ? ケンティ~♪」
健人「その軽さで言うなよ……こっちは魂のトイレなんだよ……!」



(……よし、ここしかない)

健人は意を決して、檻の陰、木の裏手へ移動。
羞恥にまみれながらも、覚悟を決めかけた――

その時だった。

「ケンちゃん? どうしたの? 顔、真っ赤……」

佐々木の声。
気配に気づかれていた――!!

(やばい!! こっちは人生最大のデリケートタイム中なんだぞ!!)

「……ウホウホ(近寄るな……!これは見られちゃいけないやつだ……!)」

だが佐々木は、そっと近づいてくる。
バケツとホースを手に。

「大丈夫だよ。私、慣れてるから。そういうの、ぜんっぜん平気」

(え、やだ、優しすぎない!? え、女の子ってそんな寛容だったっけ!? ていうか近い!いやでも嬉しい……いやちょっと興奮してる俺やばくない!?)

そして――

「……ほら。やっちゃいな?」

佐々木の一言。
それは、まるで新たな扉をノックする合図だった。

「やっちゃいな」
「やっちゃいな」
「やっちゃいな……?」

リフレインするその言葉に、健人の何かが弾けた。

「ウホォォォ……!(あああああ!!!!!)」

出た。全てが解き放たれた。
羞恥、快感、解放、そして――

目の前にいる佐々木の顔が、やけに慈愛に満ちて見えた。

(なんで……?今、俺……この人に見られてんのに……ドキドキしてる……?)



【脳内の健人】

健人(童貞ver)「やばいぞ……!これってつまり、見られるのがイヤじゃなかった……?」
健人(性癖覚醒ver)「フフ……ようこそ、こっち側へ」



終わったあと。健人はなぜか敬礼した。
まるで戦いを終えた兵士のように。

佐々木は少し首をかしげたあと、にっこりと笑った。

「ケンちゃん、ちゃんとできたね。えらいえらい」

その瞬間。

(あ、この人に褒められるの、……めっちゃ好きかもしれん)

何かが確かに芽吹いた。
それは恋なのか、それとももっと“危険な芽”なのか――今はまだわからない。



【記録ノート(佐々木筆)】

「ケンちゃん、初トイレ成功。
場所選びに5分、出すのに3分、終わった後の敬礼に1分。合計9分。
なんか……終わったあと、目が潤んでた?気のせい?」



夕暮れ。
夕陽に照らされながら、健人は空を見上げる。

「ウホ……(あかりさん……ありがとう。なんか、俺、今日ちょっと変になったかもしれない)」

風が吹き、彼の鼻をかすかにくすぐる。

それはきっと、初めての“開花”の香りだった。

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