魔法少女は華麗に舞い散る

Cecil

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魔法少女になりますか?

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目を覚ますと、そこには私を捕食した筈のダークメアは居なかった。
「ここは? 天国なのかな?」

陽菜は、自分は死んでしまったんだと結局はダークメアに食べられて、人生を終えてしまったんだと、悲しい気持ちになる。

「生きたいですか?」
「誰!?」
 急に問いかけられて、陽菜は咄嗟に身構えつつ声のした方を振り返る。

ダークメアではない事はわかる。奴らは人間の言葉を話さない。
 キッヒッヒとか、ヘキャとか意味不明な音を発するだけである。

今聞こえたのは、ハッキリと人間の女性の声だと認識出来る。
 もしかして、私は魔法少女に助けられたの?
 そんな事を考えてしまう。

振り返ると、一人の美しい女性がこちらを見ていた。
 人間? 人間の女性? と一瞬思ったが人間にしては、神々しくて形容するなら目の前に居るのは、美の女神がである。

「朝比奈陽菜、貴女は生きたいですか? それともこのまま安らかに眠りたいですか?」
 女神様と思われる女性は、陽菜にそう質問をする。

「生きたい! 私は生きて恋愛したいし、お友達も作りたい! 聖さんとお友達になって……出来るなら彼女と結ばれたいです」
「そうですか、なら貴女は魔法少女になる覚悟はありますか?」
 魔法少女? 私が?

魔法少女になると言う事は、あの恐ろしい悪魔と戦わないといけないって、そう言う事ですよね?

「魔法少女になる覚悟があるのなら、もう一度貴女を現世に戻してあげます」
 魔法少女になるのなら、魔法少女になってあの恐ろしい悪魔と戦うのなら、私はもう一度家族の待っている。聖さんの居る世界に戻れる。

でも、あんな恐ろしい悪魔と戦うなんて、考えただけで、先程の光景をダークメアの恐ろしい姿を思い出して、陽菜は思わずお漏らしをすると、その場にへたり込んでしまう。

ダークメアには、沢山の形態があるが、一番多いのは人間の女性が、そのまま悪魔になった形態が最も多い。
 獣に近い形態のダークメア。
 ファンタジーの世界に居そうな形態のダークメアもいるが、殆どが人間の女性に近しい形態である。
 胸もあり、人間の女性の裸と何ら変わらないのだが、最も違うのは奴らには尻尾があり牙が、人間を捕食する為の牙が生えている事だった。

お漏らしをして、へたり込んでしまった陽菜に、女神様は気にした風もなく陽菜に近づくと、何処に仕舞っていたのだろうか、陽菜の洋服を脱がしていく。

普段ならキャァーーー! と叫び声でも上げていたのだろうが、今の陽菜はされるがままに脱がされて全裸にされてしまった。
 女神様は、ショーツだけを履かせると、もう一度魔法少女になりますか? と問い掛ける。

「あの、中途半端なんですけど」
「魔法少女になるのなら、その胸に魔法少女としての刻印を施す必要があります」
 そう説明すると、少しだけ気持ちが落ち着いて恥ずかしがる陽菜を余所に、女神様は真剣な眼差しを向けている。

半裸のまま陽菜は、どうすればいいのだろうかと再び悩み始める。

どの位の時間が経ったのだろうか?
 陽菜のいる場所には、時間の概念がないのか、辺りの景色は変わらない。
 悩み答えを出せない陽菜を、女神様はただじっと見つめていた。

「今日も平和だったね~」
 部屋に入るなり、制服を脱ぎ捨ててここあは下着姿になる。
「もうここあ! 少しは恥じらいなさいよ」
 ここあの視線を気にしながら、着替える聖に、女の子同士じゃんと裸も見せ合った仲じゃんと、ここあは気にした素振りを見せずに部屋着に着替える。
「そうだけどって、ここあまた成長したの?」
 ここあの胸の成長を、聖は見逃さない。
 胸が平均より小さいのが、聖の悩みなので、ここあの胸の成長が羨ましい。
「聖は、本当に大きさ気にするよね。胸なんて、授乳出来ればいいんだし、小さい胸が好きな女の子って、結構いるよ」
 だからどうして、女の子限定なのと野暮なツッコミは入れずに、自分の胸に手を当ててどうしたら成長するのかな? と考えてしまう。

「聖は、胸が大きくなりたいのかなにゃ?」
 ワキワキと手を怪しく動かしながら、下着姿のここあがにじり寄る。
「こ、ここあさん?」
 その妖しい瞳に、気圧されたのか聖はベッドに倒れ込んでしまう。
 それを見逃さなかったここあが、聖に馬乗りになると、優しく聖の胸に手を当てる。
「うちは、うちはね。聖は今のままでいいと思ってるんだよ」
「ここあ」
「うちらは、いつ死ぬかわからないでしょ。ダークメアとの戦いで、だから毎日をなるべく楽しく過ごしたい。うちは、聖と毎日楽しく過ごしたいんだよ」
「ここあ、ありがとう」
 ここあの言葉に胸が温かくなる。

聖の胸に手を当てながら、聖の顔に自分の顔を擦り付ける。
「ここあ、こちょばしいし」
「ねぇ、もしうちが聖に最初をあげたいって言ったら貰ってくれる?」
「えっ?」
「真剣な話。うちは、こんなんだから恋愛とかわからないし、でも聖は大好き。聖がいたから、今のうちがあるから、だから聖にならいいって思ってるんだよ」
 自分を見つめるここあの瞳に、その真剣な眼差しに嘘はなかった。
「考えておくわ。私もここあは大好きだから」
 本当に聖は優しいなと思いながら、ここあはそっと聖のおでこにキスをした。

どうしよう?
 生きたいけど、あんな恐ろしい悪魔と戦うのは怖い。
 恐怖で、ガタガタと身体が震えてきてしまう。
 でも、魔法少女にならないと生きられないのは確かだし……だって私は、あの悪魔に捕食されたんだから。

思い出すと、急激に吐き気を催して陽菜は必死に吐き気を堪える。
「大丈夫ですか?」
「うっ、うっ、はぁはぁ、だ、大丈夫です。ごめんなさい」
 女神様は、謝らなくてもいいんですよと優しく背中を摩ってくれる。

「私、怖いんです。生きたいのに、その為には魔法少女にならないといけないんだって事も、断ったら生きれない事もわかっているのに、どうしても怖くて」
 陽菜は、本音をぶち撒ける。
 ダークメアに襲われてしまえば、ほぼ死が待っている。
 運良く魔法少女に助けられた者もいるが、その後は精神に異常をきたして、病院送りになって、普通の生活には二度と戻れない。

「貴女の恐怖はわかります。一度襲われているのですから、ですが魔法少女になれる者は少ないのです」
 女神様は、魔法少女になれる少女は殆ど存在しないと、だからこそその素質がある陽菜を生き返らせてでも、魔法少女としてダークメアと戦って欲しいのだと、ダークメアが存在する限り人間に安寧の時は、安住の地は訪れないと言い切る。

「で、でもまた襲われたら、今度は確実に死ぬんですよ!」
 思わず陽菜は、大声を上げてしまう。
 そんな陽菜に、女神様は優しく答える。
「魔法少女になれば、ダークメアと戦う力が貴女を守ります。それに仲間もいますから」
 女神様は、どうしても私を魔法少女にしたいんだろうな。
 
女神様の言う事は、陽菜にも理解出来る。
 ダークメアがいる限りは、安寧なんて訪れはしない。
 今の生活は、魔法少女が頑張ってくれてるからあるのだ。
 陽菜は、人間の中でも珍しく魔法少女に感謝してる人間の1人だった。

「本当に、本当に死にませんか?」
 その事だけが気掛かりだった。
 折角生き返らせて貰っても、すぐに死んだのでは意味がない。
「絶対に死なないとは言いません。ですが、人間の少女よりは、遥かにその確率は下がります」
 女神様は、非力な人間の少女ではダークメアに遭遇すれば、待っているのは確実な死であるが、魔法少女になればダークメアと戦えるだけの力が与えられる。
 絶対はないが、格段に死ぬ可能性は減ると答えた。

女神様の返答を聞いて、陽菜は心を決めるしかなかった。
 ダークメアと戦うのは、正直怖い。
 また殺されてしまうのでは?
 そんな考えが、頭を過ってしまうが魔法少女としてでも、生き返る事が出来るのなら、二度と会えないと思っていた家族に会える。
 そして、聖とお友達になれるチャンスがある。

もう逃げて後悔なんてしたくない。
 例え魔法少女になってでも、もう一度自分の人生を歩みたい。
 女の子らしく、他の女の子とは恋愛対象は違うけど、それでも恋愛もエッチも経験して素敵な大人の女性になりたい。

「わかりました。私、魔法少女になります。私を魔法少女にしてください」
「本当にいいのですね? 」
 女神様は、最後に本当に後悔しませんね? と陽菜に尋ねる。
 陽菜は、力強く後悔なんてしない! と私は絶対に生き抜いて、素敵な人生を送ってやるんだからと、自分でも驚く程に力強く宣言していた。
「わかりました。今から貴女は魔法少女です」
 そう言うと、女神様は陽菜の胸に手を当てる。

胸が熱い。
 とても熱くて、自分の中に不思議な力が湧いてくるのがわかる。
 本当に魔法少女になったんだと、陽菜は自分の胸に刻まれた薄い刻印を見て、もう引き返せないと悟った。
「先ずは、弱いダークメアを相手にしながら戦いを学ぶといいでしょう」
「わかりました。でも、弱い強いって、どうしたらわかるんですか?」
 尤もな意見である。

女神様は、その刻印が教えてくれますと、危険な相手だと判断した場合は、刻印が熱くなりますと、弱い相手だと熱くはならないと、刻印の温度差で、先ずは判断してくださいと後は経験ですよと微笑む。

女神様は、無理はしないでねと最後に優しく微笑むと、陽菜の前から消えていた。
 そして、風景も元の街並みに戻っていた。
 自分がダークメアに襲われた場所を、自分が捕食されて死んだ場所を、陽菜は見つめながら、あれは全て夢だったのではないかと、そんな事を思いながら、自分の胸を見る。

胸に薄くだが刻まれた刻印が、全て事実であったと、音もなく伝えてくる。
 自分が襲われてしまったのも、死んだのか死に掛けだったのかは、それについては定かではないが、女神様に救われて、そして魔法少女になった。

明日からの事を考えると、買ったばかりの百合漫画の新刊を読む気にはならなかったが、折角買ったのでと、鞄に仕舞うと家へと歩き始めた。

朝比奈陽菜の魔法少女としての人生は、ダークメアに襲われた事で、その幕を開く事になった。

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