魔女は微笑みながら涙する

Cecil

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実はサレンが最強?

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帰り道雫が不貞腐れている。
「誰も助けてくれないなんて、マジ酷いし」
「し、雫さん大丈夫なの?」
 祈から事情を聞いた可憐が心配そうに見つめている。
「可憐は、優しいなぁ。でも本当に大人しくなっちゃったね」
「今までの私がおかしかったんです。きっとこっちが本来の私なんです」
 どっちが本来の可憐なのかはわからないが、元は優しい女の子だったのだろうと、雫は可憐を抱きしめる。
「わ、わわ私には祈がいますから、不倫は駄目です!」
「不倫って、結婚してないし、それ言うなら浮気だし」
「う、浮気なんてふしだらな事いけましぇんから!」
 今までの可憐の行為を考えると、あり得ない発言なのだが、今は祈一人だけを愛しているのだから、それでいいよねと一葉は自分も早く沙霧と恋仲になりたいと、そう願ってしまう。

沙霧とキスはしたけれど、あれからキスもしてないし、何より告白すら出来ていない。
 こんな自分なんかがと、どうしても消極的になってしまう。
 告白して、もし沙霧から断られたら、彼女は自分に興味はあると話していたが、愛してるとは言っていない。
 その事が、どうしても気になって前に進めずに、一歩を踏み出せずにいる。
 楽しく会話をしていたら、すぐに家に着いてしまって、一葉は頭を切り替える。
 今日はサレンの事を聞けるので、凄く楽しみだ。
 普段は温厚で、母性に溢れて自分の面倒を見てくれて、でも仕事となると冷酷無比であり容赦しない。
 そんなサレンと言う女の子を知れる。
 自分の事を殆ど話さないから、とても貴重である。

早速サレンについて、話しを聞く事にする。  あの沙霧すらも、サレンとは戦いたくないと言うのだから、サレンはどれ程の実力の持ち主なのか、そしてどんな女の子なのか昔から付き合いのある沙霧と雫以外は、興味津々である。

月波サレン。
 彼女の母親の片方は外国の魔女である。
 この日本以外にも魔女は、各国に存在しているが、数で言えば少ない。
 何故なら一時期は妖と呼ばれる存在は、世界中に現れて、人間を捕食して人間を震え上がらせていたが、ある時を境に日本以外には現れなくなったので、日本以外に住む魔女の役目は、人間が再び争いを戦争をしないかの監視が主な仕事である。
 その為に必然的に魔女は、この日本に集まっている。

サレンの母親は、そんな生活に嫌気がさして、魔女本来の仕事である妖退治をしたいと、家族の反対を押し切って、日本を訪れた。
 日本に現れる妖は、祖国に現れる妖の数倍も強かった。
 何度もピンチに陥った。
 死を覚悟した事もあったのだが、その時にもう一人のサレンの母親に、月波家の魔女に命を救われた。
「母は、恩義を感じてもう一人の母に仕える様になったって、そう言ってましたわ」
 それから二人が恋に落ちるまでに、時間は掛からなかった。

祖国に戻らないと決めて、日本で暮らして行くと決めて、結婚を申し出た。
 この時彼女のお腹には、既にサレンがいた事もあり二人は結婚して、サレンを出産。
 サレンが産まれてからも、彼女達は妖退治をしていた。
 サレンが、この娘が大きくなるまではと考えていた様で、幼いサレンに英才教育を施しては、沙霧の役に立つ様にと、本家の次期頭首になる沙霧をサポートしなさいと、サポート出来る魔女になりなさいと、何度も繰り返し言われていた。

「サレン様は、嫌じゃなかったんですか? 小さい頃から、修行の毎日で、私みたいな下級魔女ならわかりますけど、サレン様程の実力なら、毎日厳しい修行は必要ないかと」
 祈の疑問は最もである。
 力のない下級魔女なら、それこそ死にもの狂いで修行しなければ、妖との戦いで命を落とす可能性がある。
 だが、サレンの様に超級と呼ばれる魔女なら、妖との戦いで命を落とす確率はかなり低い。
「嫌ではありませんでしたよ。私の目標は母の様に立派な魔女になる事でしたから」
 そう笑顔で答える。

幼い頃から、サレンはその才能を遺憾なく発揮していた。
 同い年の沙霧や雫との訓練でも、先ず負ける事はなかった。
 自分よりも魔力の強い沙霧を相手にしても、常に冷静に状況を見極めて、的確な攻撃を加える。
 僅か七歳で戦争を終わらせた沙霧だが、当時はサレンに勝つ事は出来なかった。
 それ程にサレンは突出した存在だったのである。
「今もだけど、当時はサレンとの組み手が一番嫌だったわね。いくら戦略を変えても、すぐに対応してきて、いつも負けてたし何度泣かされたか」
「確かに、お嬢ですら敵わないんだから、私はいつもいつも、コテンパンにされてた記憶しかないよ」
 二人は苦笑しながら、サレンは本当に強くて敵わなかったと、味方で本当に良かったと笑い合っている。

超級と呼ばれる沙霧や雫ですら、サレンとは戦いたくないと言うのだから、サレンの実力はどれほどのものなのか、魔力を解放したばかりの一葉や、使い魔である響、そして下級魔女であるかごめ達には、想像する事すら難しかった。

普段温厚なサレンだが、任務となると冷酷であり残酷な一面を覗かせる。
 祈に対してもそうだったが、あれはまだまだ手心を加えている。
 妖相手となれば、一切の容赦はない。
 まだまだ妖退治の経験が少ない一葉は、そんなサレンの一面を知らない。
「サレンって、妖相手となったら容赦ないし、偶に怖いって思う位に人が変わるんだよね」
「そ、そうなんですか? でもこの前一緒に退治しに行きましたが、そんな感じしませんでしたけど」
 あああのレベルなら、ニコニコしながら相手にするし、人を喰らったかどうかで全然変わるよと、雫が教えてくれる。

残酷なサレンになるのか、それともニコニコといつものサレンのままなのかは、どうやら人間を喰らったか、そうじゃないかで変わる様だ。
「初めて、サレンを怖いと思ったのは確か十歳位だったわね」
「お嬢様、その話しは」
「仲間なんだから、ちゃんと話しておかないと、それにこの娘達なら聞いてもサレンを見る目が変わるとは思えないわよ」
 そう言う沙霧に、サレンは少しだけ不安そうにしている。

中々話出さないサレン。
「あ、あのサレン様。無理にお話しされなくても」
 祈は、そう言うが沙霧が駄目よと問答無用に祈の意見を切り捨てる。
 あのサレンさんが、渋る様な話しとはどんな内容なんだろうか?
「明日は休みなんだから、取り敢えずご飯食べて、お風呂入ってからでいいんじない」
 雫がパジャマパーティーでもしながらでと、助け船を出す。
「そうね。でも、話さないと駄目よ。隠し事をするなとは言わないわ。でも、あの話しをした上で、サレンを認める。サレンに付いて来てくれるのが、本当の仲間でしょ」
「お嬢様。少しだけ、少しだけ考えさせてください」
 考えさせて欲しいと言うと、サレンはそのまま部屋を出て行った。

サレンの背中を見つめながら、一体どんな話しなの?
 沙霧さんを怖がらせた程の事って、一体どんな事なの?
 一葉はサレンが大好きだ。
 雫も響もかごめも祈も、可憐だって今では大好きで大切な仲間だ。
 沙霧の事は、愛してるんだって、あのキスをした日に自覚した。

大好きだから、大切だから知りたい。
 知りたいけれど、知るのが怖い気持ちももちろんある。
 サレンと言う女の子のイメージが崩れてしまいそうで、自分の弱い心がそれを受け止め切れるのか?
「お嬢は厳しいな。確かに仲間には話した方がいいけど、あれは今でも忘れられないし従姉妹の私でも、正直サレンが怖いと思ってしまったし」
 従姉妹であり、沙霧同様に生まれた時から一緒にいる雫ですら、怖いと思った出来事って、どんな事なの?

「一つ言えるのは、最強なのはサレンなんじゃないかって事よ」
「せ、戦争を終わらせた沙霧さんよりも、さ、サレンさんは強いんですか?」
 それまで黙って聞いていた可憐が、驚きを隠せないと言った表情で、沙霧を見ている。
「そうね。本気で戦ったとして、勝てるかは半々ってとこね」
 七歳で戦争を終わらせた魔女。
 エリートで、常に最強と言われて来た魔女である沙霧。
 そんな沙霧ですら、勝てるかはわからないと言うのだから、サレンと言う魔女の底力はどれ程のものなのか。
 サレンは、どれだけの強さを秘めているのか、誰もが気になった瞬間だった。

あの日の事は忘れてはいない。
 あんな怯えたお嬢様と雫を見たのは、初めてで、でもどうしても自分を抑えられなくて……その日からサレンは、いつもニコニコと穏やかな笑みを浮かべる女の子になった。

もう誰からも恐ろしいなんて、恐ろしい魔女だなんて思われたくはなかった。

心根の優しい女の子である。
 頭脳明晰な女の子である。
 仲間思いで、本当に仲間を大切にする女の子である。
 そんなサレンにも悩みはある。
 あれから、七年経った今でも、その悩みは解決してはいない。

ずっと解決する事はないのかもしれない。
 例え解決しなくても、もう誰かの怯える顔なんて見たくない。
 大切な仲間が、自分を見て怯える姿なんて二度と見たくはない。

窓の外を見つめながら、私はただ皆んなの笑顔を守りたいだけ。
 その為には、時には残酷である必要もあると信じている。
 信じているけど、出来るなら見せたくなんてない。
 ずっと笑顔でいたい。
 大切な人が、大切な仲間が自分に怯えないでいて欲しい。

心優しき魔女は、過去を思い出して一人溜め息を吐きながら、窓の外を眺めていた。

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