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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
Urge to chase (追いかけたい衝動)
しおりを挟む「レイチェルは気まぐれなコだから」
「元々、アーサーのことなんかそれほど好きでもなかったのよ」
「仲の良いアリスもローラも結婚するから自分も結婚してみたくなっちゃったんじゃない?」
「ウエディングドレスとかに羨ましくなっちゃうのよね~」
「どうせ醒めるなら早いうちに醒めて良かったわよ」
カンカンの踊り子は病院から戻ったマダムとサンドラの報告を訊くや、みな口々に言った。
妙齢の美女ばかりが50人もいれば、さほど珍しくもないことなのだろう。
「アーサー、あっさり破局かぁ」
「やっぱり、結婚運のない仕事場なんだな」
ヘンリーとハワードは大袈裟に吐息してキャスト食堂の天井を仰いだ。
「だいたい人前でパフォーマンスして見せようってショウのキャストなんざ自分大好きのナルシストばっかしだろ?自惚れの自己チュー同士で上手くいきっこねえんだよ」
レッドストンは(それ見たことか)という口振りだ。
「マーティとエマちゃんも不協和音って感じだしな」
「そろそろヤバそうじゃん?」
「やっぱり、離婚率の高い仕事場なんだよ」
先住民キャストのブルマン、ブラッツ、グリリバも(俺達は最初から分かっていた)という顔をする。
「……」
アランは迷惑そうに顔をしかめた。
「これから結婚する気満々のヒトもいるんですから水を差すような発言は控えて下さい」
太田がアランの渋面に気付いて配慮する。
「ああ、クララちゃんはショウのキャストではないし、大丈夫よ」
「アラン、あなたが自分勝手なことをしなきゃいいのよ。何か問題があったら、わたし達に相談しなさい」
マダムとサンドラがそう請け合う。
「あ、相談ならわたしも乗るわよ~」
コスチューム担当のタマラもやってきた。
タマラも4月のリニューアルまでは毎日が残業だ。
「えええ?マダムもサンドラさんもタマラさんもバツイチですよね?」
アランは疑わしげに3人を見返す。
「ヒトは失敗から学ぶのよ」
「失敗は成功の母よ」
「そうよ~。反面教師よ~」
マダムもサンドラもタマラも良く言えば世話焼きで、悪く言えばお節介で他人の問題に首を突っ込みたい性分なのだ。
「そしたら、まず、マーティの相談に乗ってやって下さいよ」
「アイツ、エマちゃんの悪口なんか俺達に言える訳がないし、たぶん、どうしていいかも分かんないんすよ」
ヘンリーとハワードは夫婦仲のことなど自分達の手には負えないのでマダム達に相談したら解決の糸口が見つかるかも知れないと思った。
(ジョーさんはまだ病院なのかしら?)
クララは無性に気になっていた。
長年のストーカーの習い性か自分の見ていないところでジョーがどうしているのか気になって仕方ないのだ。
ジョーの彼女になりたい迷夢からは醒めたはずだったが長年の習慣を急には変えられない。
「わたし達、これから病院にマーサさんの洗濯物を取りに行くし」
「ついでにレイチェルの病室も覗いてくるよ」
バミーとバーバラがそう言って席を立ったので、
「あ、じゃ、わたしもマーサさんのお見舞いに行くわ」
クララはさっそく便乗した。
メラリーはトムやフレディと射撃の練習に行っているので、邪魔なメラリーがいない絶好のチャンスではないか。
「待って。俺も一緒に行くっ」
アランがすかさず後を追う。
幸か不幸かクララの考えそうなことなどアランにはエスパーのように分かってしまう。
クララがジョーのストーキングを続ける限り、自分も万難を排してストーキングに付き合うつもりだ。
愛でも恋でもなく、追いかけたいのは本能だ。
自分の中に流れる狩猟民族の血が騒ぐのだ。
オランダとイギリスとニュージーランドの先住民族マオリの血が。
アランは追いかけっこに野性の歓びを覚えていた。
ただ、ひたすらに追いかけたい。
たとえ不毛なことだとしても。
「マーサさんに頼まれたお菓子、買っていかなきゃ」
バミーとバーバラは駅前の『うまや』で和菓子の詰め合わせを買った。
「そんなに?」
クララは30個入りの詰め合わせを怪訝そうに見やる。
「うん。マーサさんの特別室、もうサロンと化してるんだ」
「おしゃべり仲間がいっぱい集まるんだよ」
マーサは入院した翌日には広い豪華な特別室に1人でいるのが退屈になり、病院内をウロチョロしては入院患者でも見舞い客でも知り合いになっていた。
「ほら、整形外科って手や足の骨折以外は元気なヒトばっかりで食べ物も自由だから、毎日、お茶会なんだよ」
「マーサさんってパワフルで片時もじっとしてられないヒトなんだよね」
バミーとバーバラは山田家の住み込みのお手伝いさんになって、毎日、病院に通っているうちに近所付き合いだけのクララよりもずっとマーサに詳しくなったようだ。
あらばは病院の5階の特別室に入ると、
「あれ、今日はあんた達まで?ついさっき、ジョーちゃんとマーティが顔を出して帰ったところだよ」
マーサが嬉しげに告げた。
(なんだ。すれ違いになっちゃったのね)
クララは当てが外れてガッカリする。
「あ、俺、お茶を淹れます」
アランがいそいそとキッチンに立った。
ホテルのバーテンダーだが美味しいお茶の淹れ方も知っているようだ。
「来月、キャストの契約更新の面接だろ?わたしゃ、3月の契約満了を待たずに辞めようと思ってるんだよ」
マーサはお茶を啜りながら意外なことを口にした。
「だって、骨折した左腕もリハビリして前と変わらずに器用に動くし、まだまだピンピンして元気なのに?」
クララはこれがその証拠とばかりにマーサが編んだレース編みのドイリーをピラッと広げる。
マーサはおしゃべり仲間の入院患者から編み図を借りてレース編みにハマっていた。
「もうタウンの地主だって知られちゃったから、キャスト食堂の調理場のみんなに気を遣わせると申し訳ないしねぇ」
雪の結晶のようなドイリーをかぎ針で編みながらマーサは吐息する。
この荒刃波の大地主で遊んで暮らせる身分なのに道楽で働いていると思われるのはイヤだった。
ゴードンが「マーサさんはタウンの影の大番長のような存在なのよ」と言ったことはマーサの耳にも入っていた。
メラリーがペラペラとしゃべったからだ。
「メラリーちゃんは1日置きくらいにお見舞いに来てくれるよ」
マーサはもうずいぶん前にメラリーにはキャスト食堂を辞めることを話したらしい。
「そうなのね」
クララは本当にメラリーはキャスト食堂の配膳台にマーサがいないのが寂しいのだろうと思った。
今月いっぱいで退院して来月には復帰するとばかり思っていたマーサがずっとこのままキャスト食堂からいなくなるなんてクララも考えてもみなかったのだ。
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