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第12弾 ショウほど素敵な商売はない

I'll try to consult(相談してみます)

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 バミーとバーバラが洗濯物を持って「じゃ、わたし達、レイチェルの病室に寄ってから帰るね」と言って出ていくと、特別室にはマーサとクララとアランだけになった。

「あっ、そうそう、そこの包み、取っておくれ」

 マーサが何か思い出してペチンと手を打ち、壁際の棚の上の風呂敷包みを指差す。

「これっすか?――わ、重たい」

 アランはどっしりと重い包みを応接セットのテーブルに置いた。

「お見合い写真なんだよ。あっちこっちから預かっちゃってさ。ほれ、タウンには年頃の器量良しがわんさかいるだろ?」

 風呂敷を開くと写真館の台紙付きの写真の入ったA4サイズの封筒が50部はある。

「ほれ、あんたの仲良しでとびっきりの器量良しがいたろ?白黒のドレスと紫のドレスの」

「ああ、チェルシーとスーザンね?」

「それそれ、あのコ達、お見合いするか訊いとくれよ。なにせ、相手はタウンの美女を期待してるんだから、あのくらいの器量じゃないとね、こっちだって『美男美女揃いだよ』と豪語した見栄もあるしさ」

「けど、あの2人は騎兵隊のヘンリーさんとハワードさんと付き合ってるんっすよ」

 アランが先輩のヘンリーとハワードに義理立てして口出しする。

「だって、まさか結婚する気はないだろ?騎兵隊なんて貧乏なんだから。ま、あんだけの器量良しで引く手あまたなのに何が悲しくて貧乏な騎兵隊キャストなんぞと付き合ってるのか分かんないけどさ」

 マーサは一笑に付して、

「ああ、あんたは老舗旅館のはゆま屋とホテルアラバハの坊ちゃんだから問題ないさ。でも、クララちゃんの親とはまだ顔も合わせてないんだろ?早いとこ挨拶くらいしないと、このコの父親はそりゃあ、やかましいんだから」

 そうアランに忠告した。

「――え?そうなんすか?」

 アランはアンパンマンのジャムおじさんのような見るからにパン屋さんらしいふっくらと優しげなお父さんを想像していたのだが、天然記念物乙女のクララの父親が厳しいのは当然かと認識を改める。

「そりゃあ、もう、このコに護身術を仕込んだのだって父親なんだからね」

 マーサが脅かすように言う。

「お父さんが護身術を?」

 アランの脳裏に武道の心得のある日本男児然とした昔気質むかしかたぎで厳格な父親像が浮かんだ。

 間違っても荒刃波のブラック・サニーと異名を取る金髪リーゼントのヤンキーなど一瞬たりとも浮かばなかった。



 一方、

「……」

 タウンのロビーのソファーではマーティがかしこまって座っていた。

「……」

 向かい側のソファーではマダム、サンドラ、タマラが頼もしげな笑みをたたえている。

 マーティはタウンへ戻るなりヘンリーとハワードに力強く勧められて、エマとの問題をこのバツイチ3人に相談することにしたのだ。


「なんか、結婚してからのエマちゃんは色々なことが違っていたんです」

 やおらマーティは重い口を開いた。

「そりゃあ、体重が20㎏も増えて別人のようだし」

 マダムは騎兵隊オーディションで見掛けたエマの姿を思い起こして嘆息する。

「体型だけじゃないんですっ」

 たとえば、マーティがいくら整理整頓して片付けても帰宅すると部屋はごちゃごちゃに散らかっている。

 エマは片付けられない女だったのだ。

 母親の陽子は弁解するように「うちのヒトは男のコが欲しかったものだからエマは小さい頃から男のコみたいにガサツに育っちゃったのよねぇ」などと言う。

 だが、マーティはずっとエマを細やかに気遣いのある女のコらしいタイプだと思っていたのだ。

 たしかに馬を乗り回して活発ではあるがガサツな素振りはなかった。

 両親のダンと陽子の躾で言葉使いと行儀作法はきちんとしていたせいかも知れないが。


「ははあ、マーティに好かれようとマーティ好みの女のコらしいタイプを演じていたって訳ね」

「まんまとマーティを騙して結婚したものだから安心して本性を現したのよ」

「騙したってのは言い過ぎよ~。マーティは結婚前はエマちゃんのパブリックな面しか見たことがなかったのが、結婚後に初めてプライベートな面を見てギャップが有り過ぎたってことよね~」

 マダム、サンドラ、タマラは遠慮のない意見を述べた。

「それにしても、女のコ同士の気の置けない友達としゃべっている時のエマちゃんの普段の様子とかで分からなかったの~?」

 タマラが何の気なしに訊ねる。

「――え?」

 マーティはハタと気付いた。

 自分達は結婚式も挙げていないので今までエマの友達など逢ったことも聞いたこともなかった。

 タウンのキャストの女のコ達、クララ、ミーナ、アニタ、スーザン、チェルシーのような仲良しの友達もいないということだろうか。

 思えばマーティが騎兵隊キャストになった時からエマは先住民キャストなどの憧れのマドンナでいつも崇拝者のような男達に囲まれてチヤホヤされていたのだ。

 にわかにマーティはエマ自身にちょっと問題があるのではという気がしてきた。

 今頃になって気付くとはホントに自分でも呆れるほどのボンクラだが。
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