姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原守

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21 side レン 週末レイド 2

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「タゲ取りは戦士タンクの仕事だぁあああ!! っしゃオラァアアアアアアアアア!!!!」

 チヒロの最大コンボが発動する。

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!という爆発音と共に土煙が上がった。
 周囲にいたプレイヤー達は突然のことに驚きを隠せないでいる。

 幻影魔法の効果でパーティーを組んでいる人間以外は、その姿を『人である』という認識しかできなかった。
 だが、どこか見覚えのある深紅の大剣がボスの右腕へと振り下ろされた。


 トモヤが闇系魔法を詠唱し攻撃する。
 トモヤが回復魔法を詠唱し傷を癒す。

 そうしてボスのターゲットが移りそうになる度に、チヒロはスキルを回しターゲットを自分へと戻した。

 何度も何度も、何度でもだ。
 全力でトモヤを守る剣となり盾となる。

 レンはその間に生き残っているプレイヤー達を集め、作戦を伝えた。
 パーティーごとに連携を取って総攻撃を仕掛ける。
 各々が自己判断でボスに突っ込むには相手が強すぎるのだ。

 ここで<エクソダス>のレンという看板が最大限に発揮される。
 この時、レンに異を唱える者は誰もいなかった。

 レンが指示をし、各パーティーが位置に着いた。
 その時トモヤの叫び声がこだました。

「チヒロッ……! チヒローッ!!」

 トモヤは回復魔法を詠唱し、『人である』者の傷を癒した。

 ギョロリとボスの目玉がトモヤを捉える。

 ターゲットがトモヤに移った瞬間、レンは風を黒剣に纏わせ、その威力を使ってボスへと飛んだ。
 そのままボスの右足を捉え、腱を切る。

 そしてチヒロの無事を確認した。

「待たせたな」
「おっせーんだよ……バーカ!!」

 ギリギリ間に合った。そう言って良いだろう。
 予断を許さない状況ではあるが。

 チヒロの話によると物理攻撃よりも魔法攻撃がよりボスに効く。
 魔法剣士であるレンとボスの相性は良いらしい。

 念の為の保険だとチヒロが赤竜のピアスをレンに渡してきた。
 レンはチヒロに借りた赤竜のピアスをつけてみる。
 付与効果は炎系攻撃1.5倍。
 なるほど、確かにレンとの相性は抜群だ。

「じゃ、あと頼むわ」

 ポンとレンは背中を叩かれた。
 胸が震える。
 チヒロに仕事を任された。託された。
 こんなに嬉しい事は無い。

(俺は……全力で応えるッ……!)

 炎を纏った黒剣を構え一気に加速した。
 最大スキルをぶん回し、ありったけの力で叩きつける。
 主力のトモヤを守りながら、再編成パーティー全員で畳み掛けた。

 そうして何度か攻防を繰り返し、最後に赤竜の付与効果を乗せた黒炎の剣がボスにとどめを刺す。

「ギィグァアアアアアアアアアア!!!!」

 ボスが絶叫をあげると動かなくなった。
 大きな体はボロボロと崩れ落ち、崩れ落ちたところからサラサラと粒子に還った。
 風に乗った黒い粒は霧散する。

 灰色の森──討伐されたモンスター達の灰が幾重にも降り積もっていることから、この森はそう呼ばれている。


 ***


(……勝った)

 プレイヤー達の目の前に『討伐完了』の文字が浮かぶ。

 湧き上がるプレイヤー達。
 皆は<暁>のトモヤと<エクソダス>のレンを大いに讃えた。

 ハァハァと肩で息をしながら、レンはトモヤと共にチヒロの元へ向かう。
 チヒロは既に戦士から聖女へジョブチェンジしていた。幻影魔法も解けていた。

「おつかれさま~」
「チヒ……チロさんもね」

 周囲を見回し誰もいないことを確認すると、トモヤはタナカへと姿を変えた。

「トモ……タナカさんMP回復薬一本あったら貰えませんか? アレクさんを回復したいんですけど、いま無くて」
「……うん。どうぞ」
「…………」

 周囲の人々はまだレンやトモヤを賞賛している。

「トモヤ! ありがとう!」
「レン! 最高!」
「やっぱ<暁>だぜー!」
「<エクソダス>かっけー!」

 影の功労者であるチヒロの名前を讃える者はいない。

(分からないように、魔法をかけていたから当たり前ではあるが……)

 釈然としない気持ちが、拳を型どる。
 強くギュッと握りしめた時、アレクの元へ行こうとしていたチヒロがレンに近付いた。

 ちょいちょいと手招きされ、レンはチヒロに顔を近づける。
 するとレンにしか聞こえない声で一言。

「お疲れ。やるじゃん」

 そして「じゃあ、アレクさん連れてくる」と手を上げ、チヒロは去って行った。

「ッはは! ははははッ!」

 レンは右手で顔を覆うと笑いだした。
 モッサリ前髪で表情が分かりづらくなっているトモヤがこちらを見ている。
 きっと眉を顰めているんだろうが、そんな事はどうでもいい。

(チヒロに認められた……! 最高の気分だ)

 右手で髪をかきあげると、その指先にピアスが当たった。

 赤竜のピアスだ。

 レンの髪に隠れていた赤竜のピアスを見つけたトモヤが視線を送っている。

「……それ、どうしたの」
「……さぁ? 言っておくが、俺からじゃないぞ?」

 トモヤがキュッと下唇を噛む。

 いつも金魚のフンみたいにチヒロについてまわっているトモヤに、一太刀浴びせられたのは気分が良い。

「はぁ……きっと貸したんでしょ? 僕から返しておくよ?」
「自分で返すから結構だ」

 赤い瞳と碧い瞳が交差する。

 そんなやり取りの一幕があったことを知らないチヒロは、回復したアレクと共にレン達のところへ戻って来た。

 皆が経験値や報酬を受け取ると、パーティーを解散する。
 こうして週末レイドは幕を閉じた。


(……疲れたが、気分が良い)

 <エクソダス>のアジトに戻り、もう少しその余韻に浸ろうと思ったレンだったが、アジトの出入口では、にゃる美が仁王立ちで立ち塞がっていた。

「レンレンひっどーい☆にゃる美と約束してたのにー☆」

 にゃる美が約束した時間にいなかったのだから、文句を言われる筋合いは無い。

 そう思うレンだった。
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