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20 side レン 週末レイド 1
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<土曜日 10:38>
(暇だ……)
レンは足を組み、ソファーに座ってぼんやりとしていた。
レンのいるこの場所は炎都フレアに隣接された『住宅地』の一角にある家である。
この住宅地はNPCのために用意されたものでは無く、プレイヤー達のために用意された場所だ。
プレイヤー達はゲーム内で貯めたお金を使い土地や家、家具を買うことが出来る。
各々が自分専用の家を建てたり、武器や防具を作る職人、いわゆる『クラフター』と呼ばれるプレイヤーは自分のお店を構えたり、チームを組んでいる者達は大型の家を建てチームのアジトにしたりと自由に出来る場所だ。
自由度の高いDFOの世界では、モンスター討伐だけではなく、こういった楽しみも盛り込まれていた。
チーム<エクソダス>
<エクソダス>は数百人のプレイヤーを抱えるDFO最大の大所帯チームである。
<エクソダス>は炎都の住宅一等地に大型の家を構え、そこをチームアジトとしていた。
クエストやイベント、ボス討伐、レイド、何をやるにも自分達のチーム内で人員を賄えるのは、大所帯のメリットとも言えよう。
「レンレンにお話があるから、明日10時半にアジトに来て欲しいにゃ☆」
にゃる美にそう言われ、レンは約束の時間にログインしたのだが、誘った当の本人はまだのようだ。
組んでいた足を入れ替える。
その時『ピコン』とフレチャの通知音が鳴った。
メッセージを開くと相手はチヒロだった。
名前を見て目を見開くレン。
半ば脅して無理矢理フレンドになった為、昨日の今日でメッセージを送ってくるとは思っていなかったようだ。
『俺、チヒロ。<エクソダス>にレベル50くらいでレイドに参加できる前衛職いないか? こっちの戦士が用事で参加出来なくなった。急ぎで悪いが、連絡もらえると助かる』
レイドパーティーへの誘いのメッセージだった。
『レベル50くらいでレイドに参加できる前衛職』
チヒロが指定した相手は、明らかにレンでは無い。
レンでは無いが、チヒロと遊べるゴールドチケットとも言えるその誘いを、誰かに渡すと思っていたのだろうか?
レンはアジトにいるメンバーに声を掛けることも無く、チヒロに返事を打つ。
『分かった。集合場所は?』
『水都アクアの酒場。一番奥のテーブルにいる。よろしく』
『すぐ行く』
返事を終えると、ソファーから立ち上がりアジトの外へ向かった。
「あれー? レンどっか行くの?」
「あれー? レンどこに行くの?」
<エクソダス>のセイヤとレツヤが声をかけてきた。
「ちょっとな。出掛けて来る」
「「いてら~」」
レンは水都アクアの酒場に向かう。
酒場に到着すると、カランコロンと音を鳴らし店内に入った。
「来たよ。チロ」
思わず笑みが零れるレン。
チヒロは「げっ」という顔してる。
きっとレンが来るなんて思ってもみなかったのだろう。
レンの登場に酒場がザワつく。
「…………」
レンがポツリと零した言葉は、酒場の騒音にかき消された。
***
チヒロとパーティーを組み、レイドに参加する。
長い事このゲームを遊んできたが、チヒロとパーティーを組んだことの無いレンは高揚した。興奮した。
目的地の森へ辿り着くまでの間、アレクとか言う男がレンに話しかけてきた。
何時もなら煩わしく思うその会話も、近くにチヒロがいるのであれば、レンは何とも思わなかった。
レイドが始まり、雑魚モンスターを狩り、大型モンスターを狩る。
チヒロは後衛で回復職の聖女ではあったが、ゲームの上手さは健在だった。
そして、超大型モンスターが現れた時「ふんふん~♪」と歌うチヒロの鼻歌が、うっすらとレンの耳に聞こえてきた。
チヒロ信者であれば誰でも知っている。
チヒロの癖だ。
(生で聴いたのは……初めてだな)
レンは自分のスキルセットを見直し、MP回復薬を飲む。
飲み終えて、ふーっと吐き出す息。
一気に飲みすぎたせいだろう。少し顔が火照った気がした。決して生鼻歌のせいでは……無い。多分。
そうしてパーティーメンバーと拳を突き合わせると、一斉に森の中を駆け出した。
***
(何かがおかしい……)
そう気がついたのはレンが先か、チヒロが先か。
戦闘不能になるプレイヤーの人数が多すぎる気がするとレンは感じていた。
レイドとはそもそも大人数で敵を狩る戦闘である。
いくら強敵なモンスターでも時間をかければ、それなりに倒せるものだった。
超大型モンスターボスが現れて一時間半。
その終着地点が見えてこない。
『ピロン』
レンの元へチャット通知が届く。
チヒロから戻ってこいとの連絡だった。レンはアレクに声をかけ、一度引いた。
その時、運悪くボスの爪がアレクを引っ掛けた。瀕死状態に陥ったアレクを抱え、一旦範囲攻撃外まで下がり、アレクを木の影に隠した。
「すみません……レンさん。俺もう……回復薬が ……」
「わかった。チロを連れてくる」
戻った時にアレクの事を伝え、チヒロに回復魔法をかけてもらおう。
そう思って、レンはチヒロの元へと向かった。
チヒロとタナカの元へ行くと、今回のレイドボスがバーサーク化していることを知らされた。
レンがどうするのかと問えば、チヒロは突然ジョブチェンジした。
小さな体に大きな剣を構えている。<戦士>だ。
チヒロが戦士で闘うと言う。
「レン。お前も魔法剣士で出ろ」
(まさか……戦士のチヒロと共闘する日が来るとは……)
レンはゴクリと生唾を飲んだ。
(これは夢では無いのか?)
レンは今残っているプレイヤー達を纏めあげ、指示をする事を頼まれた。
大所帯のチームリーダーであるレンはその役に適任だった。
一緒にパーティーを組んでいたタナカがジョブチェンジし、<暁>のトモヤと変わった。
チヒロが戦士になった事も想定外であったが、こちらも驚いた。
レンが他プレイヤー達を纏めあげる間、超大型モンスターはこの二人が引き受ける。
はっきり言って無茶だ。
思った言葉がレンの口から滑り落ちる。
「お前……その間、耐えれるのか?」
「俺を誰だと思ってんの?」
いくらトップランカーチーム<暁>の二人とはいえ、物には限度がある。
「……分かった。死ぬなよ」
その限度を超える前に、何としてでもパーティー編成を終わらせる。
レンは踵を返すと全速力で走った。
(暇だ……)
レンは足を組み、ソファーに座ってぼんやりとしていた。
レンのいるこの場所は炎都フレアに隣接された『住宅地』の一角にある家である。
この住宅地はNPCのために用意されたものでは無く、プレイヤー達のために用意された場所だ。
プレイヤー達はゲーム内で貯めたお金を使い土地や家、家具を買うことが出来る。
各々が自分専用の家を建てたり、武器や防具を作る職人、いわゆる『クラフター』と呼ばれるプレイヤーは自分のお店を構えたり、チームを組んでいる者達は大型の家を建てチームのアジトにしたりと自由に出来る場所だ。
自由度の高いDFOの世界では、モンスター討伐だけではなく、こういった楽しみも盛り込まれていた。
チーム<エクソダス>
<エクソダス>は数百人のプレイヤーを抱えるDFO最大の大所帯チームである。
<エクソダス>は炎都の住宅一等地に大型の家を構え、そこをチームアジトとしていた。
クエストやイベント、ボス討伐、レイド、何をやるにも自分達のチーム内で人員を賄えるのは、大所帯のメリットとも言えよう。
「レンレンにお話があるから、明日10時半にアジトに来て欲しいにゃ☆」
にゃる美にそう言われ、レンは約束の時間にログインしたのだが、誘った当の本人はまだのようだ。
組んでいた足を入れ替える。
その時『ピコン』とフレチャの通知音が鳴った。
メッセージを開くと相手はチヒロだった。
名前を見て目を見開くレン。
半ば脅して無理矢理フレンドになった為、昨日の今日でメッセージを送ってくるとは思っていなかったようだ。
『俺、チヒロ。<エクソダス>にレベル50くらいでレイドに参加できる前衛職いないか? こっちの戦士が用事で参加出来なくなった。急ぎで悪いが、連絡もらえると助かる』
レイドパーティーへの誘いのメッセージだった。
『レベル50くらいでレイドに参加できる前衛職』
チヒロが指定した相手は、明らかにレンでは無い。
レンでは無いが、チヒロと遊べるゴールドチケットとも言えるその誘いを、誰かに渡すと思っていたのだろうか?
レンはアジトにいるメンバーに声を掛けることも無く、チヒロに返事を打つ。
『分かった。集合場所は?』
『水都アクアの酒場。一番奥のテーブルにいる。よろしく』
『すぐ行く』
返事を終えると、ソファーから立ち上がりアジトの外へ向かった。
「あれー? レンどっか行くの?」
「あれー? レンどこに行くの?」
<エクソダス>のセイヤとレツヤが声をかけてきた。
「ちょっとな。出掛けて来る」
「「いてら~」」
レンは水都アクアの酒場に向かう。
酒場に到着すると、カランコロンと音を鳴らし店内に入った。
「来たよ。チロ」
思わず笑みが零れるレン。
チヒロは「げっ」という顔してる。
きっとレンが来るなんて思ってもみなかったのだろう。
レンの登場に酒場がザワつく。
「…………」
レンがポツリと零した言葉は、酒場の騒音にかき消された。
***
チヒロとパーティーを組み、レイドに参加する。
長い事このゲームを遊んできたが、チヒロとパーティーを組んだことの無いレンは高揚した。興奮した。
目的地の森へ辿り着くまでの間、アレクとか言う男がレンに話しかけてきた。
何時もなら煩わしく思うその会話も、近くにチヒロがいるのであれば、レンは何とも思わなかった。
レイドが始まり、雑魚モンスターを狩り、大型モンスターを狩る。
チヒロは後衛で回復職の聖女ではあったが、ゲームの上手さは健在だった。
そして、超大型モンスターが現れた時「ふんふん~♪」と歌うチヒロの鼻歌が、うっすらとレンの耳に聞こえてきた。
チヒロ信者であれば誰でも知っている。
チヒロの癖だ。
(生で聴いたのは……初めてだな)
レンは自分のスキルセットを見直し、MP回復薬を飲む。
飲み終えて、ふーっと吐き出す息。
一気に飲みすぎたせいだろう。少し顔が火照った気がした。決して生鼻歌のせいでは……無い。多分。
そうしてパーティーメンバーと拳を突き合わせると、一斉に森の中を駆け出した。
***
(何かがおかしい……)
そう気がついたのはレンが先か、チヒロが先か。
戦闘不能になるプレイヤーの人数が多すぎる気がするとレンは感じていた。
レイドとはそもそも大人数で敵を狩る戦闘である。
いくら強敵なモンスターでも時間をかければ、それなりに倒せるものだった。
超大型モンスターボスが現れて一時間半。
その終着地点が見えてこない。
『ピロン』
レンの元へチャット通知が届く。
チヒロから戻ってこいとの連絡だった。レンはアレクに声をかけ、一度引いた。
その時、運悪くボスの爪がアレクを引っ掛けた。瀕死状態に陥ったアレクを抱え、一旦範囲攻撃外まで下がり、アレクを木の影に隠した。
「すみません……レンさん。俺もう……回復薬が ……」
「わかった。チロを連れてくる」
戻った時にアレクの事を伝え、チヒロに回復魔法をかけてもらおう。
そう思って、レンはチヒロの元へと向かった。
チヒロとタナカの元へ行くと、今回のレイドボスがバーサーク化していることを知らされた。
レンがどうするのかと問えば、チヒロは突然ジョブチェンジした。
小さな体に大きな剣を構えている。<戦士>だ。
チヒロが戦士で闘うと言う。
「レン。お前も魔法剣士で出ろ」
(まさか……戦士のチヒロと共闘する日が来るとは……)
レンはゴクリと生唾を飲んだ。
(これは夢では無いのか?)
レンは今残っているプレイヤー達を纏めあげ、指示をする事を頼まれた。
大所帯のチームリーダーであるレンはその役に適任だった。
一緒にパーティーを組んでいたタナカがジョブチェンジし、<暁>のトモヤと変わった。
チヒロが戦士になった事も想定外であったが、こちらも驚いた。
レンが他プレイヤー達を纏めあげる間、超大型モンスターはこの二人が引き受ける。
はっきり言って無茶だ。
思った言葉がレンの口から滑り落ちる。
「お前……その間、耐えれるのか?」
「俺を誰だと思ってんの?」
いくらトップランカーチーム<暁>の二人とはいえ、物には限度がある。
「……分かった。死ぬなよ」
その限度を超える前に、何としてでもパーティー編成を終わらせる。
レンは踵を返すと全速力で走った。
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