姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原守

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48 俺の姫プレイとバグ 3

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『すぐに対処してもらいます。チヒロ君、少しだけ頑張って下さい』

 マサトからの返信に、活路を見出す。
 レンにも内容を伝えた。

(少しだけ頑張る……)

 果たしてそれは、五分? 十分? 
 それとも、数時間?

 それでも、助けが来ることを思えば、耐えられる。耐えてみせる。
 腹にグッと力を入れて、飲み込まれそうになっていた怯えに対抗した。

 俺の気持ちが浮上した事を確認したレンが、反転攻勢に出る。

 それまで大人しく蹴られていたレンだったが、脇腹に飛んできた男の足首を掴んで、捻り上げた。
 足を取られた男は、そのままバランスを崩し、床に転がる。
 レンは立ち上がると、靴先でソイツの左脇腹を抉るように、何度も蹴りを入れた。
 強烈な重みが加わったのか、男はくぐもった声で呻き、腹を抑えている。

「……ここでは『合法』だったな?」

 レンは足を上げると、腹を押さえている男の股間めがけて、踵を落とす。
 蛙が潰されたような声が、部屋に響いた。

「おにーさん……ちょっと、やりすぎじゃねーの?」
「……それをお前達が言うのか?」

 レンの冷えた碧い目が、男達を見据えた。

 ***


 男の膝が落ちる。

 レンは腕に覚えがあるようで、男達を圧倒していた。
 とはいえ、複数の男相手には分が悪いだろう。
 ジリ貧になるのも、時間の問題かもしれない。
 今は表に出していないが、それまでに蓄積されたレンのダメージも気になる。

 俺はレンの邪魔にならないように、コソコソと部屋の中を移動した。
 そして、男達がレンに注目している間に、俺はにゃる美を捕えようと考える。
 正直、気は進まないが、彼女を拘束し、人質にして、マサト兄の『対処』の時間を稼ぎたい。

 実行するには、抵抗がある。
 でも、他に良い方法が思いつかない。

 女は大事にしろ、手を上げるな、と小さな頃から、親にも姉にも口を酸っぱくして言われていた。
 アバターの姿は女でも、俺は男だ。考えるだけで、躊躇する。
 腹の中に罪悪感のようなものが生まれた時、顔を殴られ、膝蹴りを入れられているレンの姿が目に入った。

 これはボス戦でも、通常の戦闘でもない。
 スキルも、武器も、何も使えない。
 俺の少女アバターでは、レンと一緒に戦うことすら出来ないんだ。

(くそっ! これは、レンを守る為でもあるんだぞ……!)

 そう自分に言い聞かせて、前に進もうとした。
 その時、後ろからツインテールの髪を、ガクンッと強く引っ張られる。

「うあっ!!」
「あー……やっぱりそうか~」

 レンと対峙していたはずの男がひとり、俺を捕えた。

「はな……せッ!」
「君、さっきあの男に『チロ』って呼ばれてたよね? ねぇ、俺のこと覚えてる?」

 は? 何を言っているんだ。
 俺はコイツなんか知らない。
 男の股間めがけて、蹴りを入れようとしたが、その足を取られて床に倒された。

「あの時、一瞬だったし……覚えてないか~」

 俺の足首を持ったまま、男が引っ張る。
 俺の頭をズルズルと床に引きずりながら、歩いていく。
 ベッドへ行くと、頭を押し付け、俺をうつ伏せにする。
 男は俺が逃げられないよう、背中に馬乗りになった。

「どっけ! くそっ!」
「ユキに手を出すなって言われてたけど……この状況じゃあ、仕方ないよな?」

 俺は男の支配から、何とか抜け出そうとして、ジタバタと暴れる。
 男が俺のうなじをベロリと舐めた。ぞわっと一瞬で全身に鳥肌が立つ。

「ひぃっ!」
「あのイケメンとユキ……二人に想われてる相手を寝取るとか、やべーな」

 ハァハァと荒い息が、俺の耳にかかる。
 尻にグリグリと何かをあてられた。
 俺はそれがナニかよく知ってる。

 服の下から、ゴツゴツとした手が入ってきた。
 肌を撫でまわし、蛇のように這いまわる。
 耳を舐める舌と生温い吐息が気持ち悪い。
 全身の毛穴から汗が吹き出しそうな感覚になる。

「さわ……ッん……な!」
「設定をちっぱいにしたのか、残念。俺、巨乳派なんだよなー」

 男の撫でまわしていた手が、俺の乳首をぎゅっと強く摘まんだが、小さな胸には興味が無いらしく、そのまま服の外へ出た。
 少しホッとしたのも束の間、シーツと俺の腹の隙間に、男の腕が滑り込んだ。
 俺を後ろから抱えるようにして、持ち上げる。

「おねーさん、ちょっと手伝ってくんない? この子のパンツ、脱がせてくれるー?」
「それくらいなら、お安い御用よ☆」
「へへ……せっかくなら、イケメン兄さんにしっかり見えるように犯ってあげないとね」
「そうね☆それくらいやって貰わないと、RMTリアマネした意味が無いわ☆」

 にゃる美の手が、俺に伸びた時──ブゥウンという音が部屋の中に響いた。
 部屋の中央で、ジジジ……とノイズが走る。

「今の発言、リアルマネートレードをやった……という事ですか?」

 ──ノイズの隙間から、紫色の甲冑姿のアバターが出現した。

「なっ!? 誰!?」
「この部屋の会話ログは保存してあります。その上で、もう一度聞きます。リアルマネートレードを行ったんですか?」
「しっ……知らない」

 にゃる美は、紫色の甲冑アバターを見て、顔色が真っ青になる。
 目をそらし、知らないふりを続けた。

 紫色の甲冑、アバター名は『リンドウ』
 DFOプレイヤーなら、知らない者はいない。
 悪質な行為やプレイヤーを取り締まっている、運営の『ゲームマスター』だ。

「そうですか。分かりました。……はい……はい……そうですね。お願いします。ああ、すみません。えーっと、君と君、あと……そこの三人、君達は別サーバーに移っていただきます。少しお話を聞かせて下さい」

 リンドウがそう言うと、にゃる美と四人の男達は、部屋から消えた。
 俺を拘束していた腕も無くなった。

(助かった……?)

 ヘタリと座った俺は、力が抜けて、立つことが出来ない。
 俺の元へ、レンとリンドウさんが近づいてくる。

「チヒロ君、遅くなってすみません」
「……アンタ、マサトの兄か?」
「あ。えーっと……それは、その、私の口からは、言えないんですけど」
「今、思いっきり『チヒロ』と言ったけどな」
「あー……あははー……」

 困った様子のリンドウさんことマサト兄が、甲冑姿でポリポリと顔をかく仕草をした。

「チヒロ君。この度は、私達のせいで怖い思いをさせて、すみませんでした」
「え……? 別にマサトのお兄さんのせいでは……」
「バグへの対応がもっと早ければ、君にこんな思いをさせなかったし、被害にあったプレイヤーの数も減らせたんですよ。でも、居酒屋で君から話を聞けたおかげで、ようやく出来ました」
「できた……?」


『チリリリリン』

 部屋中にDFOのアナウンス音がこだまする。

『本日23:30より、緊急メンテナンスを開始します。プレイヤーの皆さまは、それまでにゲームを中止し、ログアウトを行って下さい。繰り返します。本日23:30より緊急メンテナンスを開始します……』

「これって……」
「はい。君が考えている通りです。宿屋のバグを中心とした修正になります。まさか、強制ログアウトも出来ないと思わなくて、もう大変で大変で……あーっと……すみません。上司に呼ばれちゃいました。チヒロ君、また後で連絡します。レン君。もし可能なら、今晩チヒロ君に付いてて貰えませんか?」
「……ああ……フラバか?」
「ええ。話が早くて助かります」
「え? 俺……もう大丈夫だけど?」

 助けてもらったし。未遂だったし。男だし。

「ログを見る限り、精神負荷の数字が大きかったので、心配なんです。後日、メンタルケアを受けて欲しいのですが、その詳細はまた連絡しますね。では、レン君。バタバタですみませんが、よろしくお願いします」
「分かった。引き受けよう」
「いや! あの! 本当に大丈夫で……!」

 そう言うや否や、マサト兄は消えて行った。
 メンテもあるし、俺とレンも一旦、ログアウトする事にした。

 ***

 ヘッドギアとリストを外して、俺は体育座りになる。

 スマホにはトモヤからのメッセージが、いくつも届いていた。
 少しすると、レンからもメッセージが届く。

『俺が迎えに行く。場所、教えろ』

「……ええ? これって決定事項?」

 そこまで心配しなくて、いいのになぁ。
 でも、マサト兄がああ言うのなら、従ったほうが良いのかなぁ……。

 俺はノロノロとレンに返事をして、体育座りのままコロンと布団に転がったのだった。
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