姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原守

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87 俺の姫プレイと衝撃

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 <日曜日 10:46>


 俺は自分のマンションへと赴き、片付けを行う。
 トモヤも手伝ってくれると言うので、その言葉に甘えてお願いした。

 ゲロって汚れてしまったものは、思い切って捨てることに決め、タオルやシーツ類を燃えるゴミの袋に入れる。
 明日は月曜日で燃えるゴミの回収日で、ちょうど良かった。
 部屋の換気もしながら、掃除機をかける。
 午前中でなんとか終えることが出来た。

「トモヤ、こんなことに付き合わせてごめんな。ありがとー」
「いいよ。それに手伝うって言いだしたのは僕だし」

 もし、この部屋に一人で来ていたら、あの時のことを思い出して、手も足も動かなかったかもしれない。

 トモヤがそばにいてくれて、本当に助かってる。
 ゲームの中だけじゃなく、現実世界においても、トモヤは本当に心から信頼できる大切な人だ。

「今度なにかお礼させてよ。欲しい物とかある? 食べたいものあるなら奢るし」
「そんなの気にしなくてもいいのに……」
「今すぐじゃなくてもいいからさ、何か考えといて」
「わかった。その時になったら、また言うね」

 そう言って俺達は片付けを終えると、レンのマンションへと戻った。

 ***


 <日曜日 20:01>

 レンとトモヤ、俺の三人で一緒に食事をするのも今日が最後。
 明日、鍵交換が終わるから、俺もここを出る。

 食事をしながら話すことは、三人ともDFOバカだから、そればかり。

 酒を飲んで、少し酔っぱらったところで、二人から俺へストップがかかる。
 ほろ酔いで気持ち良くなって、お開き。
 歯磨きをして布団へ潜り、そのまま寝た。



 「…………ん」

 スマホは深夜二時半を示している。
 俺は起き上がると部屋を出て、廊下の照明をつけ、トイレへ向かった。
 用を足して、手を洗う。

(のど渇いたな……)

 俺はリビングに続くドアをそっと開けた。部屋の明かりはつけない。
 ソファーでトモヤが寝ているからだ。

 廊下の明かりがリビンクに入り込み、なんとなくどこに何があるのか分かる程度には、視界が確保できている。
 俺はトモヤを起こさないように、そっと忍び足で歩いた。

 キッチンへ行き、冷蔵庫を開け、コップにミネラルウォーターを注ぐ。
 ゴクゴクと飲み終わると、またそっと廊下へと戻った。

(……明日には自分のマンションに戻る)

 ほっとするような、寂しいような、不思議な気持ちがグルグルと渦巻く。
 二週間もここにいたから、愛着が湧いているのかもしれない。

「…………」

 気付けば、俺はレンの部屋のドアノブに手をかけていた。
 そっと開いて、身体を滑り込ませる。
 ベッドに近づいて、寝ているレンの顔を覗き込んだ。

(寝てても……イケメンはイケメンなんだな)

 すー……と小さな寝息をたてているレンを見て、俺はため息をついた。


 ***


 ──パタン。

 冷蔵庫の扉が閉まる音がして、僕は目を覚ました。
 廊下の照明がついている。その明かりのおかげで、リビング内も少し分かるようになっていた。

 キッチンのほうから、ゴクゴクと喉を鳴らす音が聞こえる。
 そちらのほうを見ると、暗闇の中で人が動いている気配がした。

 水を飲み干したその人物は、「ふぅ」と小さな息を吐きだし、ここから去って行く。

(……チヒロかな?)

 目が覚めたら、僕も水が欲しくなったので、起き上がる。
 その前に先にトイレへ行こう思い、その足を廊下へ向けた。
 柔らかな昼白色の光に照らされた廊下を歩くと、レンの部屋のドアが少し開いていることに気づく。

(あれ? さっきのはチヒロじゃなくてレン?)

 レンがドアを閉めないなんて珍しい。
 もう寝てしまったのなら、閉めてあげようと思い、僕はドアノブに手を伸ばす。
 伸ばしたその手が止まる。レンの部屋に誰かがいる。

(あれは……チヒロ?)

 寝ているレンのそばに立ち、寝顔をじっと見ているチヒロがいる。
 廊下の照明の明かりが、レンの部屋に少しだけ射しこんでいる状態だ。
 チヒロがどんな表情をしているのかまでは、ハッキリと分からない。

 チヒロは微動だにせず、ただレンを見つめている。
 と思ったら、



 ──身をかがめて、



 ──キスをした。



 ヨロリと足が半歩後ろに下がった。

 僕は今……なにを……見た……?

 そのまま後ずさり、ヨロヨロとリビングに戻る。
 少しして廊下から慌てたような足音と、部屋のドアが閉まった音が聞こえた。

 僕はリビンングのドアを背にして、ずるずるとしゃがみ込む。
 両手で頭を抱え、髪をぐしゃりと掴んだ。

「……うそ……だ」

 目にしたものが信じられない。
 心臓がドッドッと大きな音をたてている。

 チヒロは……もしかして、レンが……好きなのか?
 


 ──うそだ……嘘だ嘘だ嘘だ!!



 ショックのあまり、手が震える。
 心が痛い。胸が苦しい。

 そんな……いつ?
 今までそんな素振り無かったじゃないか……!

 ギリギリと奥歯を噛みしめたまま、僕はそこから動けなかった。



 もうどれくらいその場に座り込んでいたのだろう?
 外が薄っすらと明るくなってきた。

 ようやくそこから立ち上がると、僕はチヒロの部屋の前に行き、ドアを開けた。
 中に入って、すやすやと眠るチヒロを眺める。

 やんちゃで元気なワンコみたいな君。
 見ると幸せな気持ちになるその笑顔。

 大好き、大好き、大好きなんだ。
 僕は君がいい。君じゃなきゃ嫌だ。

 布団に手をついて、僕はチヒロとの距離をつめる。

 僕の大切な、大切な宝物。
 この想いが届けと唇を重ねる。


「チヒロ……大好き、だよ。愛してる。レンにも誰にも渡さない」


 寝ている君にキスをするのは、これで二度目。

 なんでかな……? 

 チヒロとの二度目のキスは、

 ──少ししょっぱかった。
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