姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原守

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アフター

114 新たなイケメンとは聞いてないっ!

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『──あなたは彼氏のどんなところが好きですか?』

 夕飯を食べながら見ていたテレビ番組で、街中のカップルがそうインタビューされていた。
 テレビに映る女の子は照れながらも「優しいところが……」と答えている。

 俺はコンビニで買ったサラダに、家の非常食として置いていたカップ焼きそばを食べながら、先ほどの質問をもう一度思い返す。

(……彼氏の好きなところ……レンの好きなところ?)

 もぐもぐと咀嚼しながら、考えて、考えて、考える。

「……好きなところ?」

 顔がいい? 声もいい?
 身体も鍛えててかっこいい?
 セックスが上手い?

「や、家に行けばご飯作ってくれるし……車で迎えも来てくれるし、優しいか」

 ただ、それが好きなところかって聞かれたら、なんか違う気がする。

「っていうか、レンも俺のどんなところが好きなわけ?」

『好きだ』と言われたことはあるが、どんなところが好きだとか、いつから好きだとか、そういう話を改めてしたことは無かったな。

 テレビに映るカップルは美男美女。どちらもお似合いだ。
 それに比べて俺達は、レンは超絶イケメン、俺はそこら辺にいるフツメン。
 お似合いとは正直言えない。でも──

「俺はそういうの気にしないしなぁ。うーん、でも本当にレンは、なんで俺なんだ? アイツならもっと選び放題だろうに」

 あ。ダメだ。気になる。気になったらもう聞かずにいられなくなるヤツだ。

 俺は壁に貼ってあるカレンダーを見る。
 金曜日まであと二日。次にレンに会うときに聞いてみることにしよう。


 ***


「……お前の好きなところ?」

 金曜日。仕事を終えた俺を迎えに来たレンといまスーパーにいる。
 週末の食材の買い出しだ。レンが持っているカゴの中に、俺は酒をポイポイ入れる。

「そう! この前、ちょうどテレビでそんなインタビューやっててさ。そういや、どんなところが好きとか詳しく聞いたことなかったなと思って」
「…………」
「あ! サラミ食べたい。これも買っていこうぜー……あれ? レン?」

 カゴの中にサラミを入れようと思ったら、レンが隣にいない。
 振り返ると後ろで立ち止まっていた。
 俺はそこまで戻ると、カゴにサラミを入れる。

「おい。止まってどうしたんだよ?」
「チヒロ、お前……俺にそういうことを聞く前に──」
「えっ! うそっ!? レンじゃん! なんでここにいるの!?」

 レンが俺に話しかけてる途中で、誰かがレンに話しかけてきた。

 俺は声のした方へ顔を向けると、黒いキャスケットを被った、白いワイシャツが似合う男の人が立っている。
 左目の下にはホクロがあって、ピアスを左右合わせて五つほど付けていた。
 レンとは系統の違う華やかなイケメンが、どうやらその声の主らしい。

「……アキラか。久しぶりだな」
「ほんっと偶然。うーわ……なんか前よりも更にカッコ良くなってない?」

 その人はレンに近づいて、レンの顔や身体をジロジロと見ている。
 イケメンが二人並んだことによる効果なのか、店内のお客さんや店員さんの視線が俺達に集中している気がする。
 レンと一緒にいることで少し慣れたとはいえ、イケメン二人分ともなると、圧がやっぱり凄い。

「こんなところで再会するなんて、すごいなぁ。今日はどうしたの?」
「……見たらわかるだろう。買い物だ」

 レンの買い物かごに目線をやるイケメン。
 かごの中身は酒とサラミが入っている。

「もしかして……今から宅飲み? いいなぁ~楽しそう。ねぇ、オレも混ぜてよ!」
「……ダメだ」
「ええ~? なんで? ねぇ、君もいいよね?」

 それまで全く視界にも入っていなかっただろう俺に向かって、そのイケメンは話しかけて来る。
 己の顔面偏差値を分かっているのか、キラキラ全開で輝いていた。

「んー……レンがダメなら、ダメじゃないですかね」
「……えっ?」

 俺はへらっと笑って答える。
 イケメンは目をぱちくりとさせて、思惑が外れたって顔をしていた。

「えっ? えっ? あれ……?」
「……ああ、そうか。残念だったなアキラ。コイツにお前の顔は効かないぞ」
「うそぉ!? 本当に?」

 イケメンは俺の顔をじーっと見つめる。
 俺は、やっぱ整った顔だなぁと思って、見つめ返した。

「ほ……本当だ……目も逸らさないし、顔も赤くならない」
「?? えっ?」
「それはそれで、ちょっと腹立つなぁ……君ってどこまで大丈夫なの?」
「どこまで……?」

 肩をがしっと掴まれて、イケメンが顔を近づけてくる。
 俺とイケメンのおでこ同士が当たりそうになったとき、レンがイケメンの肩をグイッと引っ張った。

「やめろ。それくらいにしとけ」
「だって! オレの商売道具が効かないなんて」
「商売道具……?」
「そっ! まだ駆け出しだけどね。モデルをやってるんだ」

 そう言われて俺は納得する。そうか、モデルだから顔は良いし、スタイルもいいんだな。

「ねぇ、レン。やっぱりオレも混ぜてよ。オレもこの子とお友達になりたいんだけど」

 イケメンは、新しいオモチャを見つけた子どものように、はしゃいで見える。

「さっきも言ったが、ダメだ」
「なんでだよー! いいじゃん! ねぇ、レンのお友達君もいいでしょ?」

 俺の手をぎゅっと握って、首をかしげる。
 可愛いとかっこいいが混在した表情としぐさに、思わず「うっ」となった。
 レンはすかさず、俺の腕を引っ張る。そして俺をその背に隠した。

「……アキラ。コイツは『友達』じゃない」
「ん? 友達じゃない?」

「ああ。コイツは俺の──『恋人』だ」
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