姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原守

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アフター

115 押しが強いとは聞いてないっ!

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「ああ。コイツは俺の──『恋人』だ」

 突然のレンの恋人宣言に、イケメンことアキラさんは固まっている。

「……は? こいびと?」
「ばっ!!」

 俺はレンの後ろから蹴りを入れる。レンは振り返り、眉を寄せて俺を見た。

「おい。痛いぞ」
「おまっ……! いきなりなんてこと言うんだ! アキラさん……だっけ? ビックリしてんじゃん!」
「は? え? なに? レンを蹴った……?」

 アキラさんは目を白黒させて俺を見る。
 レンは蹴り続ける俺の首根っこを掴んで、やめろと言った。

「そういう訳だから、お前と一緒に宅飲みは出来ない。じゃあな。チヒロ、行くぞ」
「あ、ちょっ! レン、引っ張んな!」

 レンに連れられ、会計を済ませ、俺達はスーパーを後にする。
 そして駐車場に止めていた車に乗り込もうとしたとき、俺は腕をグイッと誰かに引っ張られた。

「アキ……ラさん?」
「ちょっと待って! レンの恋人って、そんな余計に気になること言われて、ホイホイ逃がすと思う?」

 アキラさんは俺を押しやると、車の後部座席に乗り込む。

「おい。アキラ、降りろ」
「嫌だねっ! 今日はレンの家で、オレも一緒に呑むから!」

 レンは、はぁっと深いため息を吐いた。
 俺はこのまま車に乗っていいのか迷っていると、レンが乗れと言う。

「……言い出したら、コイツは聞かない。アキラ、俺の家には行かない。外で一時間だけ呑む。それでいいな?」
「オッケーオッケー! 大丈夫! チヒロ君だっけ、よろしくね~!」
「は、はぁ……?」

 少しだけ押しの強いアキラさんを乗せて、レンの車が走り出す。
 レンの家ではなく、近場の居酒を目指したのだった。

 ***

 「それで……なんで僕がここに呼ばれたわけ?」

 スマホを握りしめたトモヤが居酒屋の個室のドアを開けて立っている。
 
 「あ! トモヤぁ~! 来たぁ!」

 酒の入った俺はトモヤを手招きした。
 
「チヒロ。至急来てって言うから、慌てて来たけど、お酒……? お酒を呑むのに呼ばれたの?」
「ちょっと聞いてくれよぉ。アキラさんが『レン並みにカッコイイ男は早々いない』って言うからさぁ! トモヤもカッコイイんだぞって言うけど、信じてくれなくてぇ。もう、これは実物を見てもらった方が早いと思って……」
「アキラ? よく分からないけど、それで呼んだんだね」

 トモヤがおでこに手を当てて、頭が痛いと言わんばかりの仕草をしていた。

 今、この個室にはトモヤと俺だけで、アキラさんとレンはトイレに行っている。
 気持ちが悪くなったアキラさんに、レンが付き添っている感じだ。

「うー……吐いた吐いた……」

 個室のドアがガラリと開いて、アキラさんが姿を現す。
 トモヤが後ろを振り返ると、アキラさんは目を見開いた。

「うえっ!? もしかして……君が、チヒロ君が言ってたトモヤ君!?」
「どうも。初めまして」

 アキラさんはトモヤに近づいて、頭のてっぺんから足のつま先までジロジロと見ている。
 後から入ってきたレンも、トモヤの存在に気づいた。

「……トモヤ、どうしてここに?」
「『至急』ってチヒロに呼ばれたんだ」
「えっ! レンもトモヤ君を知ってるんだ?」

 アキラさんは一度レンに顔を向けたものの、その視線をまたトモヤに戻して、ジロジロと観察している。

「確かに……チヒロ君の言う通り、イケメンだね。口元のホクロも色っぽいし」
「……それは、どうも」
「ね! ほらぁ~言ったでしょ」

 エッヘン! と俺はドヤ顔する。

 アキラさんはレンの隣に座り、トモヤは俺の隣に座った。
 せっかく来たのだからと、トモヤの分の飲み物も追加で注文する。俺達は改めて乾杯をした。 

「なるほどねぇ……レンとトモヤ君、そりゃこの二人を知ってるのなら、俺の顔が通じないわけだ」

 アキラさんが、はーっと深いため息をつく。
 俺はふふんっとしたり顔で、クピクピと酒を煽った。

「アキラ。コイツは、最初から俺達の顔は通じてなかったぞ」
「ああ。そうだね。チヒロは僕達の顔を全く気にしてなかったよね」
「えっ!? マジ!?」
「んー……?」

 三人の注目を集める俺。
 ぷはっとグラスから口を離して、レンとトモヤに初めて会った時のことを思い出していた。

「いや~気にしなかったわけじゃないぞ? あー、なんかイケメンだなぁって思ったよ」
「チヒロのことだから、それで終わりでしょ?」
「えっ? 他になにかあるのか?」

 きょとんとする俺。
 アキラさんは「ありえない……」と何度もつぶやいている。
 え? え? なんで??
 
「もっと、近づきたいとか、あわよくばとか、絶対に離れないとか、欲はなかったの!?」
「えー? だって、そういうのやられると嫌じゃない?」
「そ……れは、そうなんだけど」
「俺、そういう押しつけって嫌いなんだよなぁ」

 俺の返答を聞いたレンとトモヤが、クスッと笑う。
 そして、二人して「チヒロらしい」と言った。

 俺らしいってなんだろう?
 二人とも笑ってるし、まぁ褒められてるんだろう。
 へへっとちょっと気持ち良くなり、またくぴっと飲む。

 気をよくした俺は、店員さんに追加のお酒を注文しようとする。

 ──だが、レンとトモヤに全力で阻止されるのだった。何故だ。解せぬ。
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