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アフター
124 また会うなんて聞いてないっ!
しおりを挟む「はぁ……はぁ……」
いつもよりちょっと遠い公園にたどり着く。
自販機で水を買って、木陰になっている芝生の上に寝転んだ。
「あー……風が気持ちいいー」
ポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し、耳に着ける。
スマホから音楽を流しながら、俺は目を瞑った。
**
「……ん」
周囲がなにやらザワザワしている。
いつの間にか寝ていた俺は、そのざわめきで目を覚ました。
「寝てたぁ~……」
身体を起こして、ぐっと腕を伸ばす。二時間以上経過しているだろうか?
スマホの音楽を止めて、イヤホンをポケットに入れると、俺はペットボトルを持って立ち上がった。
公園の一角に人だかりができている。
女の人が多く、人と人の隙間から機材のようなものが見え隠れしていた。
(……なんかの撮影か?)
そう思った俺はそちらへは行かないように、反対の方向へ足を向けた。
歩いてる途中で、手元のペットボトルの存在を思い出す。
「トイレついでに、これも捨てるか……」
俺は公園のトイレに行き、用を足すと、手を洗った。
そのついでに、ペットボトルに残っていた水を捨てていたら、誰かの話声が聞こえてくる。
(……この裏か?)
ケンカとまではいかないが、あまり雲行きがよろしくなさそうだ。つい気になって覗いてみる。
するとそこには、アキラさんともう一人のイケメンが言い争っていた。
「ここでその話をするなってオレ言ってるよね?」
「そうでもしないと、お前ちっとも話をしてくれないじゃないか」
「どこで、誰が聞いてるかも分かんないとこで、リスキーな話をするヤツと誰が話したがると思う?」
「……なぁ、いいだろ? お前がいいって言ってくれれば、もう言わないからさ」
(……げっ)
昨日の今日。
しかも今日は既にゲーム内で会っているアキラさんと、まさか公園で再会するとは……最悪だ。
俺はそっと見つからないように後ずさる。
そのとき、手に持っていた空のペットボトルが、ペコッと音を立てた。
その音に気づいた二人がこちらを見る。
俺はアキラさんと目が合った。
アキラさんは目を少し見開いたと思ったら、ニッコリ笑って俺を見る。
その笑顔に、俺は嫌な予感しかしない。
「あっれー? どうしたのー? もしかして、オレを見に来てくれた?」
アキラさんは言い争っていたイケメンから離れて、俺の方へとやって来る。
俺の手を取って恋人つなぎにすると、その手をイケメンに見せつけるように掲げた。
「ごっめーん! こういうことだから。お前とは無理なんだっ!」
「えっ……え?」
「…………」
「来れないって言ってたのに、撮影見に来てくれたの? ありがとね~!」
「ええっ?」
ぐいぐいと俺を引っ張って行くアキラさん。
俺は人だかりの出来ている中心に向かって、歩くことになったのだった。
**
「なんでこんなことに……」
「あーえっと、ごめんね~?」
絶対に悪いと思ってない謝罪が隣から聞こえる。
俺はザワザワの中心になぜかいた。
「アキラさん……モデルじゃなかったんですか?」
「もちろんモデルだよ? でも、チャンスとスケジュールが空いてるなら、なんでもやるよ」
ザワザワの正体はドラマの撮影。
アキラさんと、なぜか俺までエキストラ役として、そこにいた。
アキラさんに引きずられザワつく中心に来たけど、俺は特に用もないし、そのまま帰ろうとしたのだが、人手が足りないとかでスタッフさんに足止めされてしまった。
エキストラなら、周りに人がいっぱいいるじゃないかと訴えたのだが、周囲にいる皆は誰かのファンで集まった人達ばかり。
アキラさんクラスのイケメン達を前にしても、普通にしている俺がいいんだと拝み倒された。
いまはドラマのメインとなる俳優さんの立ち位置の確認や、メイクの直しが行われており、俺とアキラさんはその脇で控えている。
「……俺、演技とかできないんだけど。いいのかなぁ」
「いいんじゃない? 周りの子達だとメインの二人をチラチラ見ちゃうだろうからさ」
「あれっ? あの人さっきの……」
視界の端に先ほどアキラさんと言い争っていた人が映る。
イケメンだったし、やっぱりあの人も関係者だったのか。
俺がその人を見ると、向こうもこっちを見てきた。
アキラさんはその人と目を合わせたくないのか、明後日の方向を見ている。
「さっきは、ごめんね。でも、チヒロ君がいてくれて、ちょっと助かったよ」
「……はぁ」
「実はさ──」
「ストップ! それ以上言わなくていいです。俺アキラさんに興味ないし、聞いたら余計に面倒になりそうなんで」
俺のその言葉を聞いて、アキラさんがプハッと噴き出す。
横でヒーヒー笑いだしたので、俺は目を白黒させる。
「あー……おっかしい! オレ、興味ないとか言われたの、どれくらいぶりだろ」
「……はぁ」
イケメンの笑いのポイントって、いまいちよく分からない。
まだ、くくくっと笑っている。
「君って面白いね! レンにはもうチヒロ君にちょっかい出すなって、言われてるんだけどさぁ。オレちょっと君のこと気になるなぁ~」
「……はぁ」
アキラさんはそう言って、右手を差し出してきた。
「ねぇ、オレと友達になってくれない?」
「げっ! やだ!!」
俺はその手を見て、顔をしかめる。
なんで俺がレンの元セフレで、しかも目の前でレンとキスかましたヤツと、友達にならなきゃならないんだ!
絶対、イ、ヤ、だ!!
アキラさんは、きょとんとした顔で首をかしげた。
「……ん? あれ? デジャヴ?」
あれあれ? となっているアキラさんに、スタッフさんが声をかける。
どうやら出番が近いようだ。
俺とアキラさんは、通行人AとB。
普通に喋りながら歩いて、撮影自体は無事終了したのだった。
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