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アフター
125 お前の名前は聞いてないっ!
しおりを挟む「どうして……こんなことに……」
ここはカフェの店内。
女性客が多い中、俺は見知らぬイケメンと向かい合っていた。
目の前の相手は、ゆるくパーマがかった黒髪に気だるい雰囲気のイケメン。
タバコとかタトゥーとかピアスとか似合いそうな感じだ。
年は俺よりもちょっと若そう。
20歳くらい? もっと下か?
年は若そうだが、身長は俺より高い。たぶんレンと同じくらいだ。
店員さんが俺とそのイケメンの前にコーヒーを運んでくる。
そして「ごゆっくりどうぞ」とイケメンの方に、声をかけて去って行った。
「あのぅ……」
俺は意を決して、気だるげなイケメンに声をかける。しかし、返事はない。
目の前の人はコーヒーに手を伸ばして、口をつけた。
一口飲んでから、カップをソーサーの上に置くと、俺を見て口を開く。
「ねぇ……アンタって、アキラの彼氏?」
「……は?」
「アイツ、特定の相手なんて作らないって言ってたのに、なんでアンタと手を繋いでたワケ?」
「いやいやいやいや、ちょっと待て」
「俺に見せつけてさぁ……なんなの?」
「落ち着いて、話を聞けって」
イケメンの口から『彼氏』というワードが出てきたせいか、店内が静まり返った。
そして、女性客の耳がこちらに集中している気がする。
(人の話を聞かないこの感じ……この人、アキラさんにそっくりだ!)
見知らぬイケメンは、先ほどアキラさんと言い争っていた相手。
俺はエキストラとしての出番が終わった後、そそくさと帰ろうとした矢先、この人に捉まった。
どうにも、面倒ごとに巻き込まれそうな気配を感じる。
俺は関係ないということだけを伝えて、さっさと立ち去るほうが良いだろう。
「で? アキラの彼氏?」
「違いますっ!」
俺は即答した。なんなら周囲にも聞こえるようにアピールした。
っていうか、アキラさんの関係者なら、芸能関係の人なんじゃないの?
こんなところで、そんな話題を出していいの?
『どこで、誰が聞いてるかも分かんないとこで、リスキーな話をするヤツと誰が話したがると思う?』
数時間前にアキラさんが言っていたセリフを思い出す。
今ならあの人の気持ちが、ちょっとだけ分かるかもしれない。
「ふーん……まぁ、普通は正直に答えないよね」
「いや、正直に答えてますから!」
ちゃんと答えてるのに、信じてくれない。
なんでだよ。
(お前の中で答えを決めつけてるのなら、聞くなっつーの)
若干イラッとしてきた。俺は目の前のコーヒーに手を伸ばし、コクリと飲む。
(そもそも律儀に、この人に付き合う必要もないんだよな)
そのことに気づいた俺は、コーヒーを一気に流し込んだ。
プハッと飲み干して、ガタッと立ち上がる。
「聞きたいことって、それだけですよね? じゃあ、それには答えたんで、俺はもう行きますね」
俺はカフェの外に出た。
そのまま帰ろうとして、後ろから腕を掴まれる。
「……まだなにか?」
「まだ、ちゃんと答え聞いてない」
「ちゃんと答えました」
「それが本当なら、なんでアキラが手を繋ぐのさ」
「俺が知るかっ! もう本人に聞け!」
なんで手を繋いだかなんて知るわけないだろ!
イラッとしてつい言葉が荒くなった。
目の前のイケメンは少し目を見開いて、「確かにそうだね」と呟く。
「君の言う通りにするよ。アキラに聞く」
「最初からそうしろよ……」
俺は本当に関係ないし。
腕を振りほどいて、踵を返す。歩き始めようとして、また腕を取られた。
「おい。今度は、な──」
──ガチャン。
「──に……?」
「アキラは普通に話しかけても、きっと逃げて答えてくれないから。君は人質」
俺の左手首に手錠がかかった。
もう片側の手錠をこのイケメンは自分の手にガチャンとつけると、そのまま歩き出す。
行き交う人がチラチラとこちらを見て来る。
手首に手錠をつけた男が二人。そりゃ気になるわ。
警察?
あの人イケメン。
なにかのプレイ?
捕まった方は……どっち?
などなど、すれ違った人達の話し声が、途切れ途切れに聞こえてくる。
「ちょっと待って。これ外して」
「さっきも言ったでしょ。人質だから、外せない」
「ふざけんな! いいから外せって! 周りを見ろよ!」
「別にどう思われても良くない? 俺の人生に関わらない人達だし……」
「俺だってお前の人生に関わらねぇよ!」
グイッと左腕を思いっきり引っ張った。
手錠で繋がっているイケメンの右手が、後ろに強く引っ張られて、その足が止まる。
「……痛いんだけど」
「だったらこれを外せばいいだろ? そしたら痛くない」
「それはそう。でも、それはダメ」
そう言うとイケメンはグイッと引っ張り返した。
いきなり引っ張られて、俺の身体が前に傾く。
倒れそうになった俺を、コイツは抱きとめる。
「……抱き心地は普通かな? 犬っぽい」
「誰が犬だ、誰が!」
レンと同じくらい身長があるコイツの腕に、すっぽりと収まった自分が憎い。
イケメンは、手錠のついた自分の手と俺の手を、上着のポケットに突っ込んだ。
周囲から手錠が見えないように、気をつかってくれた……らしい。
俺を見て「これなら文句ないでしょ」と言ってくる。
「そうじゃねぇ……! アキラさんとお前のことに、俺を巻き込むなっつーの!」
肝心なところを誤解したまま進めないでくれ!
とにかく、手錠を外せ……!
「……お前じゃない」
「は?」
「俺の名前はイオリ。そういやアンタ、名前は?」
今更ながらの自己紹介。
だけど、俺は別にお前の名前なんて知らないままでも良かったんだが!?
ぐぬぬ……となりつつ、俺は吐き捨てるように「俺はチヒロだよっ」と答えるのだった。
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