姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原守

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アフター

137 気持ち悪いなんて聞いてないっ!

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 トモヤのメッセージを確認して、俺はアキラさんを見た。
 続けてイオリさんがどこにいるのか探す。

 彼はまだベランダのようだ。
 二本目でも吸っているのかもしれない。

 ドキドキしながら、トモヤの指示通りSNSのメッセージ画面の下のボタンを押す。
 位置情報を立ち上げ、送信ボタンをそっと押した。
 それから通話ボタンを押し、スマホをポケットに戻す。

(レンの電話はカモフラージュ。トモヤのメッセージが本命)

 アキラさんの注意を俺から逸らせるために、レンは会話を引き延ばしているようだ。

 ふたりは、どこで俺のピンチに気づいたんだろう?
 分からないけど、嬉しい。
 じわりと涙が浮かびそうになった。

 ベランダの窓がカラカラと音を立てて開く。
 タバコを吸い終わったイオリさんが戻って来たようだ。

「アキ……」
「は? 今から会う? レン、どういう風の吹きまわし? オレのこと避けてたくせに」

 イオリさんは、アキラさんの言葉を聞いて、眉を寄せた。
 電話相手に嫉妬しているように見える。

 今の会話で、アキラさんがレンに会いたがっていたこと。
 レンはアキラさんを避けていたけど、急に会いたいと言い出したことが、彼に伝わったようだ。

 イオリさんはズカズカと歩いて、アキラさんの手からスマホを取り上げると、強制的に電話を切った。

「イオリ、なにするんだよ!?」
「……頼まれた通りに、チヒロをここに連れて来たのに、ご褒美がない」

 イオリさんは褒美を所望し、アキラさんは、はーっと深いため息をつく。

「だったら、タバコ吸う前に言ってよ……ヤニ臭いの嫌いなんだけど」
「…………」
「仕方ない……連れて来てくれたのは、本当だしね」

 アキラさんは、くっと首を動かしイオリさんを見上げた。
 イオリさんは、アキラさんの頬に手を添えると唇を近づける。
 俺は、これから起こることに気づいて、慌てて下を向いた。

「んっ……んぅ……」
「はっ……アキラ……」

 はぁって二人の吐息と、ぬちゅっ、くちゅっと舌が絡まる音がする。
 俺は足を抱えるように丸まったまま、目をつぶって、両手で耳を塞いだ。
 ドクドクと自分の脈音だけが聞こえる。


「……っ!?」

 足に突然、冷やりとした感覚があって、ビックリして目を開ける。
 イオリさんとのキスを終えたアキラさんが、いつの間にか俺の足元に跪いていた。

 アキラさんが、俺の足を濡れタオルで拭いている。
 なぜそんなことをしているのか分からなくて、後ろに下がった──が、ソファーの背もたれがあって下がれなかった。
 彼の瞳には、少し欲情したような色が浮かび上がっている。

「チヒロ様……ちょっと、口直しさせて?」

 そう言うと、アキラさんは俺の足を手に取り、親指を舐める。
 いい、悪い、と言う前に、ペロペロと舐めはじめた。

「はぁ……この右足が……はっ、んむ」

 俺の癖のことを思い出しているのか?
 親指と人差し指の間にも、ぬるりと舌を這わせてくる。
 背中にゾクリとしたものが走った。
 それは快感なんかじゃない。

(──気持ち悪いっ……!)

 気持ち悪い。
 気持ち悪い。

 アキラさんのうごめく舌が、雪森が重なる。
 ぬるぬるとしたそれが這いまわる度に、嫌悪感が増した。

 ──穢される。

「嫌、だっ!!」

 身体がビクッと跳ねたとき、その反動でアキラさんの顔を蹴ってしまった。
 その勢いで彼は尻もちをつき、鼻血が出ている。

 俺といえば、そこでようやく、自分の手足は、拘束されている訳ではないということに気づく。
 さっきも自由な手で、トモヤの指示に従ってスマホを動かしていたのに、頭から抜け落ちていた。

 どうも、アキラさんに雪森を重ね過ぎていたようだ。
 そのせいで、勝手に手も拘束されている、動けないと思い込んでいたらしい。
 
 自由な手足を認識した俺は、ソファーを降りて、玄関を目指す。
 そこに辿り着く前に、後ろから伸びてきたイオリさんの手が、俺の肩を掴んで引き留めた。
 肩を動かし、腕を振り回したが、手首を掴まれ動けなくなる。

「……離せよ」
「駄目」
「なんでだよ。お前は俺なんかいない方がいいんだろ?」
「そうだけど。でも、チヒロがアキラに怪我させたのは許せない」
 
 ポケットに手を入れて、なにかを取り出す。
 バチバチと音がした。
 その手にあったのはスタンガン。

 ビクッとして、身体が竦んだ。
 あの痺れのような痛みを思い出して、怯んでしまう。
 一歩後ろに下がった。

 すると、トンッと背中になにかが当たる。

「ひどいなぁ……チヒロ様。オレの顔は、商売道具なんだよ? 前に教えたじゃん」

 俺の背後にアキラさん。
 彼の腕が伸びてきて、俺を抱きしめてくる。

「お仕置き、が必要なのかな?」
『悪い子にはちゃーんとお仕置きしないとね?』

「──ひっ!!」

 過去に囚われる。
 嫌だ。駄目だ。
 動け、動け、動けよ。

 ああ、ダメだ。
 また俺はあっちに落ちていく。

 その前に、『届け!』とポケットに入っているスマホに向かって叫んだ。

「嫌だっ……!! 助けてっ! レンッ! トモヤッ!」
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