姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原守

文字の大きさ
162 / 202
番外編

10 俺達の温泉旅行 03

しおりを挟む

「くぅー! うめぇ!」

 大きな風呂の後のコーヒー牛乳は最高だぜ!
 浴衣の帯の辺りに手を当てて、俺は一気にそれを飲み干した。
 ぷはっと息をはいて、そんなセリフを言う俺を見て、トモヤはくすくす笑っている。

「チヒロ。そんな一気に飲んで、お腹の中タプタプにならない?」
「へーきへーき! 大丈夫!」

 空になった牛乳瓶を回収箱に入れると、俺達は荷物を持って一旦部屋に戻った。
 広い畳の上にゴロンと寝転んで、その心地よさを堪能する。

 トモヤはそんな俺の姿を見て、クスッと笑うとリモコンを手に取り、テレビの電源をつけた。
 チャンネルを変えても、映るテレビはローカル番組ばかりで、俺達が興味を持ちそうな放送はない。

 すると、つけたばかりのテレビを消して、トモヤは自分のバッグの中から文庫本を取り出した。
 レンは風呂上りにコーヒー牛乳を飲まなかったので、部屋に置いてあるお茶を淹れて、それを静かに飲んでいる。

 俺達はそれぞれ好きなことをやって、まったり、ゆったりと時間を使う。
 畳の上を転がった後、俺は座布団を二つ折りの枕にして、寝っ転がったままスマホを触った。

「あれ? DFOの新着告知がきてる」

 そう呟くと、ふたりがこちらを向いた。
 イケメンのふたりの中身は、俺と同じゲームバカ。

 DFOの新着と聞いて、トモヤもレンも自分のスマホを取り出して、同じものを見だす。

「季節イベントのボス……今年は新ボスなんだね」
「……昨年と同じ内容じゃないのか」
「新ボスかぁ~! 一番乗りしてぇな!」
「今回はちょっと変わってるんだね……三人パーティー?」
「……ボス戦の内容がどんなものか分からんが、職業に偏りが出そうだな」
「三人ねぇ~……だったら、俺達はちょうど三人だし、いいか」

 そう言うとレンが顔を上げて、こっちを見た。トモヤも俺を見る。

「えっ? なに?」
「……いや」
「チヒロ。サヨとマサトはどうするの?」
「えー? マサトが貢いでる子がいるじゃん! アイツなら多分その子と行くだろ。それに、トモヤとレンと俺なら、ボスが魔法タイプでも物理タイプでも、どっちも対応出来るし、最速攻略できると思わねぇ?」
「うーん、僕とサヨとチヒロじゃダメなの?」
「……それも悪くはないけど、最速攻略は厳しそうじゃないか?」
「攻撃火力って意味なら……まぁ、そうだね」
「三人パーティーってとこが、ほんっとミソだよな!」

 俺はもう脳内であれこれとシミュレーションする。
 物理攻撃が効くタイプのボスだったら、俺は戦士、レンは魔法剣士で攻撃し、トモヤは回復などサポートに回ってもらう。
 魔法攻撃が効くタイプだったら、レンとトモヤが攻撃、俺は聖女で回復、サポートに回る。

 ブツブツと考えを口にしていると、そこにレンが加わってきた。
 ふたりで『もしこんなボスだったら』を想定して、それにどう対応した戦いをするのか意見を出し合う。

 トモヤはそんな俺達を見ながら、ふぅと小さくため息を吐いた。そして、ポツリとこぼす。

「……あとでサヨにハリセンで叩かれても、僕は知らないからね」
「ん? なんか言ったか??」
「ううん。別になにも。気にしないで、ただの独り言」
「そっか? なぁ! トモヤだったら、このときどうする?」

 想定するボスだった場合、どうするのか聞いてみると、トモヤもすぐにその話に乗ってきた。
 俺達は夕食の時間になるまで、ずっとDFOの話をしているのだった。

 **

「……っと、そろそろ夕食の時間だね」

 トモヤがそう言って、俺を止める。
 レンにギャーギャーと噛みついていた勢いが、「ご飯」のひと声でピタリと止まった。

 自分のスマホを見て時間を確認すると、そろそろ18時。
 チェックイン時に言われていた夕食時間まであと少しだ。

 俺はスマホや貴重品をボディバッグに詰め込んで部屋を出た。
 夕飯は部屋じゃなく、別の場所で取ることになっていて、そこへと向かう。

 同じ時間に夕食を食べるであろう人達もそちらへと向かっていた。
 男性も女性も、俺の隣にいる男達が気になってしょうがないらしい。
 チラチラとそっちを見ては、俺を見て、そして首をかしげている。

(それ、さっき風呂行くときやったから、もういいんだって)

 コイツらと一緒にいるって事は、これからもこの視線が飛んでくるんだろうなぁと思いつつ、まぁいいかとバッサリ切って、その視線ごと気にしないようにした。

 気にしたところで、俺がイケメンになる訳でもないし、コイツらが非イケメンになる訳でもない。
 害がないのであれば、気にしないのが一番。


 夕食が並べられている広間へ到着。
 広い宴会場のような場所で、まずスリッパを脱いでから、段差をあがって、畳の敷き詰められた広間の中を歩いた。俺達は自分達のテーブル番号を見つけて、そこに敷いてある座布団の上に座る。

 隣のテーブルグループは女の子達だったようで、こっちを見て「目の保養」「ラッキー」と言っている声が聞こえてきた。
 そんな声もいつも聞き慣れているヤツらは、周りを全く気にしないで俺に話しかけてくる。

「チヒロは何飲む? とりあえずビールでいいのかな?」
「そうだなぁ~……うん。ビールでいいかも! レンは?」
「……俺は日本酒にする」

 飲み物を決めて、それを注文する。
 頼んだ飲み物を仲居さんがテーブルに運んで、それから一人用の小鍋の固形燃料に火をつけていく。

 俺達の目の前には刺身の盛り合わせ。
 それから季節の野菜の天ぷらに、煮物などの小鉢が並んで、小鍋はどうやら地元和牛のすき焼きらしい。

 食べる準備も飲む準備も整った俺達は、飲み物を手に取って乾杯をした。
 ビールを一口飲んで、それから刺身に向かって箸を伸ばす。

「う~~~っま!!」
「本当だ。すごく美味しい」
「……ああ」

 食べる手も、飲む手も、止まらない。
 すぐに飲み物の追加注文をしてグビグビとそれを煽った。

 そうして数十分後、真っ赤なゆでだこが一人できあがる。そう……それは、俺。
 トモヤが止めるのも聞かず、レンの制止も聞かず、かぱかぱと飲んだら、そうなってしまった。

「ともやぁ~……もう……のめない」
「もう飲もうとしなくていいよ」
「えー……でもぉ……」

 もうちょっと飲みたい。
 隣に座っているトモヤの脇を人差し指でグリグリと刺してみた。
 その手はペチンと叩き落される。

(……むー……)

 俺はその場でゴロンと寝転んだ。トモヤの膝を枕にして。
 仰向けになって、「ひひっ」と笑って見せると、トモヤが「はぁ」とため息を吐いた。

「……食べにくいんですけど?」
「がんばれぇ! おー……ここから見上げても、イケメンはイケメンなんだなぁ……すげー」
「まったく……なにを言ってるんだか……」

 隣のテーブルから「あの二人がくっついてる!?」「正面の彼はちょっと怒ってるように見えない?」「こんな公衆の面前で……さては無自覚天然入ってるのでは!?」とヒソヒソとした喋りが途切れがちに聞こえてきた。

(あー……そうか、人によってはレンとトモヤが付き合ってるように見えるのかな?)

 そんなことを思いながら、俺はトモヤの膝の上に頭を乗せたまま、ふたりの食事が終わるのを待ったのだった。
 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...