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番外編
10 俺達の温泉旅行 03
しおりを挟む「くぅー! うめぇ!」
大きな風呂の後のコーヒー牛乳は最高だぜ!
浴衣の帯の辺りに手を当てて、俺は一気にそれを飲み干した。
ぷはっと息をはいて、そんなセリフを言う俺を見て、トモヤはくすくす笑っている。
「チヒロ。そんな一気に飲んで、お腹の中タプタプにならない?」
「へーきへーき! 大丈夫!」
空になった牛乳瓶を回収箱に入れると、俺達は荷物を持って一旦部屋に戻った。
広い畳の上にゴロンと寝転んで、その心地よさを堪能する。
トモヤはそんな俺の姿を見て、クスッと笑うとリモコンを手に取り、テレビの電源をつけた。
チャンネルを変えても、映るテレビはローカル番組ばかりで、俺達が興味を持ちそうな放送はない。
すると、つけたばかりのテレビを消して、トモヤは自分のバッグの中から文庫本を取り出した。
レンは風呂上りにコーヒー牛乳を飲まなかったので、部屋に置いてあるお茶を淹れて、それを静かに飲んでいる。
俺達はそれぞれ好きなことをやって、まったり、ゆったりと時間を使う。
畳の上を転がった後、俺は座布団を二つ折りの枕にして、寝っ転がったままスマホを触った。
「あれ? DFOの新着告知がきてる」
そう呟くと、ふたりがこちらを向いた。
イケメンのふたりの中身は、俺と同じゲームバカ。
DFOの新着と聞いて、トモヤもレンも自分のスマホを取り出して、同じものを見だす。
「季節イベントのボス……今年は新ボスなんだね」
「……昨年と同じ内容じゃないのか」
「新ボスかぁ~! 一番乗りしてぇな!」
「今回はちょっと変わってるんだね……三人パーティー?」
「……ボス戦の内容がどんなものか分からんが、職業に偏りが出そうだな」
「三人ねぇ~……だったら、俺達はちょうど三人だし、いいか」
そう言うとレンが顔を上げて、こっちを見た。トモヤも俺を見る。
「えっ? なに?」
「……いや」
「チヒロ。サヨとマサトはどうするの?」
「えー? マサトが貢いでる子がいるじゃん! アイツなら多分その子と行くだろ。それに、トモヤとレンと俺なら、ボスが魔法タイプでも物理タイプでも、どっちも対応出来るし、最速攻略できると思わねぇ?」
「うーん、僕とサヨとチヒロじゃダメなの?」
「……それも悪くはないけど、最速攻略は厳しそうじゃないか?」
「攻撃火力って意味なら……まぁ、そうだね」
「三人パーティーってとこが、ほんっとミソだよな!」
俺はもう脳内であれこれとシミュレーションする。
物理攻撃が効くタイプのボスだったら、俺は戦士、レンは魔法剣士で攻撃し、トモヤは回復などサポートに回ってもらう。
魔法攻撃が効くタイプだったら、レンとトモヤが攻撃、俺は聖女で回復、サポートに回る。
ブツブツと考えを口にしていると、そこにレンが加わってきた。
ふたりで『もしこんなボスだったら』を想定して、それにどう対応した戦いをするのか意見を出し合う。
トモヤはそんな俺達を見ながら、ふぅと小さくため息を吐いた。そして、ポツリとこぼす。
「……あとでサヨにハリセンで叩かれても、僕は知らないからね」
「ん? なんか言ったか??」
「ううん。別になにも。気にしないで、ただの独り言」
「そっか? なぁ! トモヤだったら、このときどうする?」
想定するボスだった場合、どうするのか聞いてみると、トモヤもすぐにその話に乗ってきた。
俺達は夕食の時間になるまで、ずっとDFOの話をしているのだった。
**
「……っと、そろそろ夕食の時間だね」
トモヤがそう言って、俺を止める。
レンにギャーギャーと噛みついていた勢いが、「ご飯」のひと声でピタリと止まった。
自分のスマホを見て時間を確認すると、そろそろ18時。
チェックイン時に言われていた夕食時間まであと少しだ。
俺はスマホや貴重品をボディバッグに詰め込んで部屋を出た。
夕飯は部屋じゃなく、別の場所で取ることになっていて、そこへと向かう。
同じ時間に夕食を食べるであろう人達もそちらへと向かっていた。
男性も女性も、俺の隣にいる男達が気になってしょうがないらしい。
チラチラとそっちを見ては、俺を見て、そして首をかしげている。
(それ、さっき風呂行くときやったから、もういいんだって)
コイツらと一緒にいるって事は、これからもこの視線が飛んでくるんだろうなぁと思いつつ、まぁいいかとバッサリ切って、その視線ごと気にしないようにした。
気にしたところで、俺がイケメンになる訳でもないし、コイツらが非イケメンになる訳でもない。
害がないのであれば、気にしないのが一番。
夕食が並べられている広間へ到着。
広い宴会場のような場所で、まずスリッパを脱いでから、段差をあがって、畳の敷き詰められた広間の中を歩いた。俺達は自分達のテーブル番号を見つけて、そこに敷いてある座布団の上に座る。
隣のテーブルグループは女の子達だったようで、こっちを見て「目の保養」「ラッキー」と言っている声が聞こえてきた。
そんな声もいつも聞き慣れているヤツらは、周りを全く気にしないで俺に話しかけてくる。
「チヒロは何飲む? とりあえずビールでいいのかな?」
「そうだなぁ~……うん。ビールでいいかも! レンは?」
「……俺は日本酒にする」
飲み物を決めて、それを注文する。
頼んだ飲み物を仲居さんがテーブルに運んで、それから一人用の小鍋の固形燃料に火をつけていく。
俺達の目の前には刺身の盛り合わせ。
それから季節の野菜の天ぷらに、煮物などの小鉢が並んで、小鍋はどうやら地元和牛のすき焼きらしい。
食べる準備も飲む準備も整った俺達は、飲み物を手に取って乾杯をした。
ビールを一口飲んで、それから刺身に向かって箸を伸ばす。
「う~~~っま!!」
「本当だ。すごく美味しい」
「……ああ」
食べる手も、飲む手も、止まらない。
すぐに飲み物の追加注文をしてグビグビとそれを煽った。
そうして数十分後、真っ赤なゆでだこが一人できあがる。そう……それは、俺。
トモヤが止めるのも聞かず、レンの制止も聞かず、かぱかぱと飲んだら、そうなってしまった。
「ともやぁ~……もう……のめない」
「もう飲もうとしなくていいよ」
「えー……でもぉ……」
もうちょっと飲みたい。
隣に座っているトモヤの脇を人差し指でグリグリと刺してみた。
その手はペチンと叩き落される。
(……むー……)
俺はその場でゴロンと寝転んだ。トモヤの膝を枕にして。
仰向けになって、「ひひっ」と笑って見せると、トモヤが「はぁ」とため息を吐いた。
「……食べにくいんですけど?」
「がんばれぇ! おー……ここから見上げても、イケメンはイケメンなんだなぁ……すげー」
「まったく……なにを言ってるんだか……」
隣のテーブルから「あの二人がくっついてる!?」「正面の彼はちょっと怒ってるように見えない?」「こんな公衆の面前で……さては無自覚天然入ってるのでは!?」とヒソヒソとした喋りが途切れがちに聞こえてきた。
(あー……そうか、人によってはレンとトモヤが付き合ってるように見えるのかな?)
そんなことを思いながら、俺はトモヤの膝の上に頭を乗せたまま、ふたりの食事が終わるのを待ったのだった。
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