526 / 542
カイゼントーヤ王国編
第肆百壱拾玖章 『嫉妬』の斯波右衛門
しおりを挟む
「虱潰しってまさか手下の海賊を片っ端からやっつけるって話じゃないだろうね? カイゼントーヤ王国が世界に誇る海軍が既に百隻以上の海賊船を沈めても一向に勢いが止まらないんだよ? ボク達が闇雲に動いてどうにかなる話じゃないと思うんだけど、そこんところはどうなのさ?」
虱潰しと聞いてイシルの顔に渋いものが浮かぶがゲルダは笑ったままだ。
むしろ、善くぞ訊いてくれたと云わんばかりに笑みを深めたではないか。
「海賊なんぞ相手にせんわえ。そやつらは双斧提督殿にお任せしようよ」
海賊退治には干渉しないと云い切るゲルダにイシルはジト目になる。
所詮は他国の問題とはいえ聖女の云う事であろうか。
「じゃあ、何から当たるというんだい?」
「終点の記憶によれば上忍『嫉妬』は芝居小屋を興行しておるそうでな。攫った子供を間者に仕立て上げて各地に送り込んでいるようじゃ。芝居小屋なら子供をどのように仕込もうと怪しまれる事はないからのぅ。立派な騎士に育てて跡取りのいない騎士の家に養子にしたり、商人の心得を叩き込んで商家に潜り込ませたりと色々悪さをしておるようじゃ。つまりワシらが今する事は芝居小屋の探索よ。船を借りて海賊を片っ端からやっつけるより余程現実みのある話であろう?」
「いやまあ……うん、海に出るよりは遙かにマシだけど、カイゼントーヤ王国で興行している芝居小屋ってどれだけあるか分かっているのかい? 国に届けているだけでも相当な数だろうし、モグリも含めたらどれだけの数になる事か」
芝居小屋といっても実際は旅回りが殆どで一処に留まって興行している一座なんてほんの一握りでしかないだろう。
それらを追いかけて確認して、違ったら別の一座を追いかける。
イタチごっこどころではない。終わりの見えない旅をするようなものだ。
聖女であったイルゼ、今も現役の聖女であるゲルダ、ハーフエルフのイシル、長命という意味では時間はたっぷりあるといえるが、カイゼントーヤ王国の方が先に保たなくなっているに違いない。
海賊騒動で海路による流通が滞っている現状を打破する事が目的なのに、ちんたらと芝居小屋探索をしていたせいで海賊の横行を止められずに海の市場が止まってしまいましたでは話にならない。
するとゲルダは呵々と大笑いを始めたではないか。
イシルを安心させるつもりなのか、莫迦にしているのか、分からないがゲルダも闇雲に上忍『嫉妬』の芝居小屋を探す訳ではないらしい。
「安心せい。『嫉妬』の芝居小屋そのものは国に届けを出している真っ当な一座であるわえ。でなければ怪しまれて、それこそ忍び働きもできまいよ」
「云われてみれば道理ね。ではゲルダにはその一座の見当はついているのね?」
イルゼの問いにゲルダは、当然じゃと返した。
それなら早く云ってくれても良いじゃないか。
気を揉んでいた自分が莫迦みたいだろう。
イシルの不満げな様子を察したゲルダは鼻を鳴らしたものだ。
「ワシが説明する前にアレコレ矢継ぎ早に不満をぶつけてきたのはどこのどいつじゃ。慌てるナントカは貰いが少ないと云うぞ。もう少し泰然としてみせい。スエズンで戦った時のお主はもっとどっしりと構えておったぞ」
「う…それは悪かったね。じゃあ、聖女様の秘策をご教授願おうか」
気が急いていた事を謝罪して言葉の続きを待つ事にする。
敬愛する天魔大僧正にゲルダの同行を命じられていたイシルは、つつがなく任務を遂行せんと気ばかり焦っていたようだ。
羞恥か、やや頬が赤くなっているがゲルダは見ぬふりをして続けた。
「良いか。上忍『嫉妬』の名は斯波右衛門という。芝居小屋の座頭である事から人からは“芝居屋さん”と呼ばれ、特に子供から好かれておるそうじゃ」
「斯波右衛門……芝居屋さん、か」
「うむ、一座の名は報謝一座、報謝とは恩に報いて感謝するという意味じゃ。また神仏からの恩に報いる為に慈善を施すという意味合いもあるな。僧侶や巡礼に金品を与える事で僧侶の念仏や実際に巡礼したと同じ功徳を得ると云われておるが、それも報謝という。『嫉妬』とは真逆の美徳を一座の名前とするなど片腹痛いではないか」
ゲルダ一行の方針は決まった。
まずはカイゼントーヤ王国を巡る旅回りの一座、報謝一座の捜索である。
その時、ゲルダはまだ知る由もなかった。
『嫉妬』との出会い、否、再会がゲルダの運命を大きく変えるという事を……
虱潰しと聞いてイシルの顔に渋いものが浮かぶがゲルダは笑ったままだ。
むしろ、善くぞ訊いてくれたと云わんばかりに笑みを深めたではないか。
「海賊なんぞ相手にせんわえ。そやつらは双斧提督殿にお任せしようよ」
海賊退治には干渉しないと云い切るゲルダにイシルはジト目になる。
所詮は他国の問題とはいえ聖女の云う事であろうか。
「じゃあ、何から当たるというんだい?」
「終点の記憶によれば上忍『嫉妬』は芝居小屋を興行しておるそうでな。攫った子供を間者に仕立て上げて各地に送り込んでいるようじゃ。芝居小屋なら子供をどのように仕込もうと怪しまれる事はないからのぅ。立派な騎士に育てて跡取りのいない騎士の家に養子にしたり、商人の心得を叩き込んで商家に潜り込ませたりと色々悪さをしておるようじゃ。つまりワシらが今する事は芝居小屋の探索よ。船を借りて海賊を片っ端からやっつけるより余程現実みのある話であろう?」
「いやまあ……うん、海に出るよりは遙かにマシだけど、カイゼントーヤ王国で興行している芝居小屋ってどれだけあるか分かっているのかい? 国に届けているだけでも相当な数だろうし、モグリも含めたらどれだけの数になる事か」
芝居小屋といっても実際は旅回りが殆どで一処に留まって興行している一座なんてほんの一握りでしかないだろう。
それらを追いかけて確認して、違ったら別の一座を追いかける。
イタチごっこどころではない。終わりの見えない旅をするようなものだ。
聖女であったイルゼ、今も現役の聖女であるゲルダ、ハーフエルフのイシル、長命という意味では時間はたっぷりあるといえるが、カイゼントーヤ王国の方が先に保たなくなっているに違いない。
海賊騒動で海路による流通が滞っている現状を打破する事が目的なのに、ちんたらと芝居小屋探索をしていたせいで海賊の横行を止められずに海の市場が止まってしまいましたでは話にならない。
するとゲルダは呵々と大笑いを始めたではないか。
イシルを安心させるつもりなのか、莫迦にしているのか、分からないがゲルダも闇雲に上忍『嫉妬』の芝居小屋を探す訳ではないらしい。
「安心せい。『嫉妬』の芝居小屋そのものは国に届けを出している真っ当な一座であるわえ。でなければ怪しまれて、それこそ忍び働きもできまいよ」
「云われてみれば道理ね。ではゲルダにはその一座の見当はついているのね?」
イルゼの問いにゲルダは、当然じゃと返した。
それなら早く云ってくれても良いじゃないか。
気を揉んでいた自分が莫迦みたいだろう。
イシルの不満げな様子を察したゲルダは鼻を鳴らしたものだ。
「ワシが説明する前にアレコレ矢継ぎ早に不満をぶつけてきたのはどこのどいつじゃ。慌てるナントカは貰いが少ないと云うぞ。もう少し泰然としてみせい。スエズンで戦った時のお主はもっとどっしりと構えておったぞ」
「う…それは悪かったね。じゃあ、聖女様の秘策をご教授願おうか」
気が急いていた事を謝罪して言葉の続きを待つ事にする。
敬愛する天魔大僧正にゲルダの同行を命じられていたイシルは、つつがなく任務を遂行せんと気ばかり焦っていたようだ。
羞恥か、やや頬が赤くなっているがゲルダは見ぬふりをして続けた。
「良いか。上忍『嫉妬』の名は斯波右衛門という。芝居小屋の座頭である事から人からは“芝居屋さん”と呼ばれ、特に子供から好かれておるそうじゃ」
「斯波右衛門……芝居屋さん、か」
「うむ、一座の名は報謝一座、報謝とは恩に報いて感謝するという意味じゃ。また神仏からの恩に報いる為に慈善を施すという意味合いもあるな。僧侶や巡礼に金品を与える事で僧侶の念仏や実際に巡礼したと同じ功徳を得ると云われておるが、それも報謝という。『嫉妬』とは真逆の美徳を一座の名前とするなど片腹痛いではないか」
ゲルダ一行の方針は決まった。
まずはカイゼントーヤ王国を巡る旅回りの一座、報謝一座の捜索である。
その時、ゲルダはまだ知る由もなかった。
『嫉妬』との出会い、否、再会がゲルダの運命を大きく変えるという事を……
10
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる