聖女と呼ばれておるが、ワシは剣客じゃよ? 乙女となった御隠居剣豪

若年寄

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カイゼントーヤ王国編

第肆百弍拾章 かつての後継者争い

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「キミってカイゼントーヤ王国国王と面識は無いのかい?」

「ん? 薮から棒に何じゃ?」

 焼けるような灼熱の日差しを浴びながら馬で街道を行くゲルダ達であったが、唐突にイシルが国王と知己であるかと訊いてくればゲルダも首を傾げるだろう。
 カイゼントーヤ王国のどこかで興行を打っている竹槍衆・上忍『嫉妬』こと斯波右衛門しばえもんを捜す旅と国王とどう繋がるというのか。

「いやあ、ふと思い付いたんだけどね。無闇に捜すより国王に頼んでさ。ええと…報謝ほうしゃ一座だっけ? その芝居小屋を召し出して貰った方が手っ取り早いんじゃないかと思ったンだ。届けを出しているなら今の居場所を知ってるだろうしね」

 イシルの提案にゲルダは顎に手を当てて考える。
 確かに名案ではあるし、ゲルダもカイゼントーヤ王とは面識はあった。

「なら話は早いじゃないか。なら早速街に戻って馬を返したら馬車を借りようよ」

「名案ではあるがのぅ。残念ながら却下じゃ」

「な、何で?」

「現国王のテルセロはである」

 先代国王には正室、側室合わせて十人の妃がいたが子宝には恵まれなかった。
 そこで『不死鳥』の聖女ベアトリクスがはらを貸して代理母を務めたそうな。
 結果、テルセロをはじめ三人の王子を設けることができたそうな。
 ベアトリクスが産んだ王子達は才覚に恵まれ、文武に秀でていた。
 長兄は特に武において国内外に敵がいないと云われる程であり、投網で動きを封じ、矛で止めを刺す。その戦法で長兄は恐れられている。
 カイゼントーヤ王国では、古くから投網と矛の組み合わせが最も効率的な戦法とされてきた。
 この国では矛は武の象徴とされてきたのである。
 長兄はその戦法を極め、敵国でもその名を知らぬ者はいなかった。
 読者諸兄諸姉の中には投網で動きを封じる戦法を卑怯と思う向きもあるかも知れない。
 しかし、これは古代ギリシャやローマで実際に使われた正統な戦法でもあった。
 特に古代ギリシャでは戦争だけでなく闘技場の試合でも、網を武器として使用するレティアリウスという戦士が存在していた。
 こうした戦法は、戦術として理にかなったものであり、卑怯とは云うまい。
 次兄は魔法に明るく、彼の操る炎は水で消すことは不可能と云われており、敵は為す術無く焼き尽くされるのみだという。
 また政治にも明るく、文官達の支持も多いというのも強みであった。
 そして末弟のテルセロは才覚では兄達に劣るものの人を惹きつける魅力があり、戦場でも精悍な顔に赤い髪は善く映え、騎士や兵を鼓舞した。
 三人とも優れている事そのものは歓迎すべきではあったが、それゆえに先代国王は次期後継者に誰がふさわしいか悩むハメになってしまう。
 その上、子に恵まれなかった王は第一子を得た頃には既に初老であり、天寿が迫りつつある時点で王子達はまだ元服を迎えてすらいなかったのである。
 精神が成熟していなかった王子達のは強く、長兄に至っては自分が王位を継ぐものと決めつけており、弟達に服従を迫る始末であった。
 当然ながら次兄は武一辺倒の兄よりも自分にこそ国王がふさわしいと考えていた為に兄に反発する事態となってしまう。
 テルセロは戦場に立つ事を厭わない豪の者であったが、兄弟で争う事を好むタチではない人物でもあり、我からは手を挙げずに経緯を見守ると決めていた。
 しかし二人の兄は中立を許さず、双方共に自分の陣営に引き入れようとする。
 二人ともテルセロの民官問わず人を惹きつける魅力を欲しかったからだ。
 しかも悪い事に、それぞれの王子を支持する者達で家臣が割れてしまう。
 つまりはテルセロ自身も御輿みこしとする者が少なくなかったのである。
 泥沼の後継者争いが起ころうとしていた。
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