聖女と呼ばれておるが、ワシは剣客じゃよ? 乙女となった御隠居剣豪

若年寄

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カイゼントーヤ王国編

第肆百弍拾壱章 聖女と偽の王子

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「はぁん、権力争いってのはどこも一緒だね。でも、それとゲルダが国王と会うのを渋る事とどんな関係があるのさ?」

「後継者争いには代理母となった船長も巻き込まれておってのぅ。元老院から誰が次期国王にふさわしいか意見を求められていた」

 はらこそ貸したがベアトリクスは妃でもないし王子達の後見人でもなかった。
 しかし支持する王子が国王になるとならないとで今後の進退が変わってくる。
 元老院の追求は凄まじいものがあった。
 聖女の言葉に未来を賭ける思いであったのかも知れない。
 自分の言葉の重みに潰されるようなベアトリクスではなかったが、煩わしい事に変わりはない。

「流石に“勝手にしろ”とも云えないでな。考えあぐねた船長はワシに相談を持ち掛けてきた。ま、ワシも“勝手にすれば良かろう”と返事をしたが“それでは困る”と云うでな。知恵を貸してやったのじゃよ。今にして思えば手土産のビールはズルい。『水の都』では上質なホップが手に入らんからのぅ」

「今後、キミに頼み事をする時はお酒をお土産にするよ」

 王国の後継者問題の相談をビールで引き受ける「飲む」聖女にイシルは呆れを通り越していっそ感心して云ったものだ。

「その話はアタシも聞いているわ。なかなか面白かったわね」

 地図を確認していたイルゼも会話に入ってくる。
 カイゼントーヤ王国の機密に関わる為、聖都スチューデリア在住の聖女には相談できなかった事もあるが、ゲルダとベアトリクスは不良聖女同士であり義兄弟の杯を交わした親友でもあった。
 何より子を産んだ母親同士、子育ての苦労を分かち合っていた為に腹を割って何でも話す事ができたのである。

「ふぅん、それで『亀』の聖女様はどんな知恵を授けたんだい?」

「ワシの弟子にカイゼントーヤ王国出身の若者がいたでな。協力をさせた」

「ほぉん、それで?」

「カイゼントーヤのお城に乗り込んでのぅ。弟子を玉座に座らせて云ったものよ。“この者こそワシと国王の間に設けた正統な王子である。王はこの者に王位を継がせると約束していたのにベアトリクスの子を跡継ぎにするとは如何なる了見であるか。ワシは約束を信じて『水の都』で隠された王子を育てていたのに今更約定を反故にするのか”と一喝してやったわえ」

 いきなり現れた聖女ゲルダとその隠し子に王子達は唖然とした。
 それは一瞬の事で、まず長兄が喰ってかかった。
 しかしゲルダの弟子は容赦なく長兄を打ち据えてしまう。
 なんと投げつけられた網が広がり切らぬ内に左手で掴み取られたのだ。
 しかも片腕で引っ張られただけで長兄は引き摺られてしまい、鞘のままの剣でしたたかに打たれて昏倒した。
 次いで次兄も魔法を放つが、水でも消せぬ魔力の炎を弟子はなんと一喝しただけで吹き飛ばすという荒業で力の差を見せつけたものだ。

「弱いのぅ。これではカイゼントーヤの王位を明け渡す訳には参らぬな。我が息子、否、王子よ。禍根を残しては面倒じゃ。弱き王子共を斬り捨ててしまえ」

 ゲルダの命に弟子は無表情で頷くと、初めて鞘から剣を抜いて近づく。
 実力差もあるが、睥睨するゲルダに臆してしまい兄達は動けない。
 そこへテルセロが割って入り、兄の助命を懇願したのだ。

「お待ちを! 我ら兄弟、束になったところで異母兄あに上様に敵わぬ事は理解し申した! 王位継承権は捨てまする! 命で持ってあがなえと仰せならば私の首を差し出しましょう! なので二人の兄の命だけはお救い頂きますよう、伏してお願い申し上げまするぅ!!」

 その言葉に心を動かされたのか、兄達はなんと逆に自分の命を差し上げるのでテルセロの命だけは助けて欲しい。きっと役に立つと命乞いを始めたではないか。
 王位を巡って争いはしたが実は絆で繋がっていたのである。
 それを見たゲルダは当代の王を見て、心は定まったかと笑って問う。
 死が近い事もあって気が弱くなり決断ができなくなっていた王は漸く腹が定まる。
 真っ先に命を捨てて兄達の命乞いをし、その兄を動かしたテルセロこそ次の国王であると宣言したのであった。
 こうしてカイゼントーヤ王国はテルセロが継ぎ、長兄は軍事方面の最高司令官となり、次兄は内政を司る首相となったのである。
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