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聖都スチューデリア編
第弍百肆拾捌章 地獄巡り
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「えー、右手に見えやすのが当ヴァルプスギス家の現当主ジルベスター様の肖像画で御座ンす。グレゴール卿のおとっつぁんに当たりやす」
グレゴール=ユルゲン=ヴァイアーシュトラス公爵の母親の実家は屋敷というより城と呼ぶ方が相応しい構造であった。
ゲルダら聖女達とローデリヒ皇子、そして美しい少女の姿をしているが実は転生武芸者と呼ばれる異形と化したグレゴールの八人は『錫杖』のおシンと名乗る小悪党に案内されて城の中を進んでいる。
おシンは戯けながら回廊を先導して飾られた芸術品や肖像画を解説したものだ。
「随分とお若いお父様なのですね」
「そりゃあ、お若い頃の肖像画で御座ンすからねェ」
騎士装束を纏う凜々しい当主の絵にイルメラがどこか外れた感想を述べ、おシンが苦笑して返した。
「ふん! アレは幼い頃から重度の肥満であったと聞く。画家も高名であったそうだが、この美化のされようでは随分と握らされたのであろうよ。カネだけはあり余っておったからな」
「これこれ、故人を悪く云うものではないわえ。ワシも若い頃に会った事があるがな。確かにやや肥えてはおったが肖像画と比べてもそうは変わらなんだぞ。子供の頃から剣の修行に明け暮れておったから腹は兎も角、顔自体はそれほど非道くは膨れておらんかったわ。むしろ"肌は瑞々しくて乙女のようだ”と女からは人気があった程であるぞ」
ジルベスターを賞賛するゲルダにグレゴールは面白くなさげにしている。
それもそのはずだ。父は愛する母の仇なのだから。
「今も目を瞑れば鮮明に思い出せる。否、思い出してしまうとでも云うべきか。忘れたくても忘れる事など出来ぬ。母に凶刃を振り下ろす悪鬼のような男の…すが…た…は……?」
何だ? 何かがおかしい。
破綻している。決定的に何か致命的な齟齬があった。
シャラン。
涼やかな錫杖の音にいつの間にか深く沈考して立ち止まっていたグレゴールは弾かれたように顔を上げた。
目の前ににんまりと笑うおシンの顔があった。
「お気付きになられやしたか?」
「き、気付く? な、何にだ?」
声が上擦っている。
今まで自覚できていなかったのが不思議なまでに喉が乾いていた。
「あなた様が父と思い、母君の仇と今もなお憎んでおられる御方が先代様ではない。そうお気付きになられたので御座いましょう?」
ああ、そうだ。自覚してしまった以上は誤魔化す事など出来はしない。
ヴァイアーシュトラス家の先代当主とは似ても似つかぬ肖像画の男の事を父親であるとはっきり認識したが、それは母親の父、つまりは祖父であった。
「ば、莫迦な! お祖父様と父を混同するなどあってたまるか! そ、それでは私が殺したのは……?」
「ええ、それは間違いなく先代のヴァイアーシュトラス家、ご当主様で御座ンすよ」
おシンは深い奈落のような真っ暗な瞳でグレゴールの目を覗き込むのであった。
グレゴール=ユルゲン=ヴァイアーシュトラス公爵の母親の実家は屋敷というより城と呼ぶ方が相応しい構造であった。
ゲルダら聖女達とローデリヒ皇子、そして美しい少女の姿をしているが実は転生武芸者と呼ばれる異形と化したグレゴールの八人は『錫杖』のおシンと名乗る小悪党に案内されて城の中を進んでいる。
おシンは戯けながら回廊を先導して飾られた芸術品や肖像画を解説したものだ。
「随分とお若いお父様なのですね」
「そりゃあ、お若い頃の肖像画で御座ンすからねェ」
騎士装束を纏う凜々しい当主の絵にイルメラがどこか外れた感想を述べ、おシンが苦笑して返した。
「ふん! アレは幼い頃から重度の肥満であったと聞く。画家も高名であったそうだが、この美化のされようでは随分と握らされたのであろうよ。カネだけはあり余っておったからな」
「これこれ、故人を悪く云うものではないわえ。ワシも若い頃に会った事があるがな。確かにやや肥えてはおったが肖像画と比べてもそうは変わらなんだぞ。子供の頃から剣の修行に明け暮れておったから腹は兎も角、顔自体はそれほど非道くは膨れておらんかったわ。むしろ"肌は瑞々しくて乙女のようだ”と女からは人気があった程であるぞ」
ジルベスターを賞賛するゲルダにグレゴールは面白くなさげにしている。
それもそのはずだ。父は愛する母の仇なのだから。
「今も目を瞑れば鮮明に思い出せる。否、思い出してしまうとでも云うべきか。忘れたくても忘れる事など出来ぬ。母に凶刃を振り下ろす悪鬼のような男の…すが…た…は……?」
何だ? 何かがおかしい。
破綻している。決定的に何か致命的な齟齬があった。
シャラン。
涼やかな錫杖の音にいつの間にか深く沈考して立ち止まっていたグレゴールは弾かれたように顔を上げた。
目の前ににんまりと笑うおシンの顔があった。
「お気付きになられやしたか?」
「き、気付く? な、何にだ?」
声が上擦っている。
今まで自覚できていなかったのが不思議なまでに喉が乾いていた。
「あなた様が父と思い、母君の仇と今もなお憎んでおられる御方が先代様ではない。そうお気付きになられたので御座いましょう?」
ああ、そうだ。自覚してしまった以上は誤魔化す事など出来はしない。
ヴァイアーシュトラス家の先代当主とは似ても似つかぬ肖像画の男の事を父親であるとはっきり認識したが、それは母親の父、つまりは祖父であった。
「ば、莫迦な! お祖父様と父を混同するなどあってたまるか! そ、それでは私が殺したのは……?」
「ええ、それは間違いなく先代のヴァイアーシュトラス家、ご当主様で御座ンすよ」
おシンは深い奈落のような真っ暗な瞳でグレゴールの目を覗き込むのであった。
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