僕たちはまだ人間のまま

ヒャク

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第5話「MEI」

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プルルルルル プルルルルル プルルルルル

(出ねえじゃねえか!!)

6回目のコールで切ろうとした。
右手の親指はタッチパネルの赤い終了ボタンの上に移動していく。

(出ない。切ろ)

押そうとした。

ブッ

「っ、」
《もしもし?》

あと2ミリ。
タッチパネルに親指が触れるそのほんの少し手前で、MEIが電話に出た。
口から心臓が出るかと思った鷹夜は、思わず顎を突き出して口を引き締めている。

(やっぱ男だ、、しかもあの時の男だ)

電話越しで少し聞こえ方が違う気もするが、けれどやはりあの日の男の声だった。
途端に忘れかけていた筈の怒りや苛立ちが鷹夜の中でブクブクと沸き立ってきて、彼自身を苦しめ始めた。

《もしもし?、雨宮さん、ですか?》
「、、はい、雨宮です」

低い威嚇したような、冷たい声が出た。
当然だ。こちらは気分が悪い以外に何も思わないのだから。
電話の向こうの声は緊張しているようだった。

「あなたのお話を聞く気はありません。言いたいこと言ったら切ります」
《待って下さい、少しだけ俺、、私の。私の話を聞いて下さい》
「貴方の何の話しを?何を話す事があるんですか?いい加減にしていただけませんか」

子供だ。
鷹夜は話し方や一人称の使い分け、態度から考えて即座にかなり歳下の相手だと認識する。
ドスの効いた声を出し、相手が黙った瞬間に舌を回した。

「君がどんな人か、何がしたくてこう言う事してるのかに興味はない。私のように必死に結婚相手を探している人間が滑稽だったのかもしれない。若い人から見たらそうだろうとも思う。でも君には関係ないよね。私が君に何かした?君の家族でも殺した?君の親戚に嫌がらせでもしましたか?してないよな?もう金輪際関わらないで下さい。私は君のような人が嫌いです。一生関わりたくない。それじゃ、」
《待ってくれ!!》

それで、切ってしまえば良かったのだ。
人の良さなんて見せず、一思いに通話終了のボタンを押せばよかった。
真っ暗な部屋の中、1人きりのそこに、そこにいない人間の必死で掠れた声が響いた。

《あ、謝りたかったんだ!!本当に申し訳なくて、アンタが泣くって思わなくて、どうせロクな奴じゃないからからかってやろうって!!でも、アンタ良い人だったから、、俺が思ってたのと違ったから、謝りたかったんだよ!!》

それは若い彼なりの謝罪で、その咆吼だった。

《悪かった!!本当に、すみませんでした!!》
「っ、、」

完全に電話を切るタイミングを逃した鷹夜は、やはりその声がテレビの向こうの俳優に似ていると気が付いた。
気になって、あれからドラマの特番や番宣のために出演するバラエティ番組を片っ端から録画して見てしまっていて、頭に声が残っていたのだ。
忘れたかったくせに、それだけは気になっていた。

「、、すみません、あの、」
《何で、アンタが謝るの、》
「いや、、た、竹内メイさん、ですか?」
《っ、、、》

その間に、狼狽えたな、と思った。
そして誤魔化されるだろうとも思った。
認めてしまえばそれこそ週刊誌のネタになる。始まるドラマは打ち切りになりかねない。
虚偽の申告をして女性になりすまし、婚活アプリで男を釣って罵倒する。
そんな馬鹿みたいなニュースが流れたら、女性とのスキャンダル以上の痛手になるのだ。
けれど鷹夜は良いと思った。
お前の事を知ってるぞ、と脅せば、もう完全に彼に追われる事がなくなるからだ。
興味本位と脅し。
それを踏まえて、彼はMEIに問うている。

《、、、そうです》
「え、」

どうしてそう答えたのかまったく理解できなかった。
こんな事するくらいだ、余程の馬鹿なのかもしれない。
けれど、電話越しに聞こえた先程とは違う声に、今度は鷹夜が黙り込んだ。
あの日会ったときと同じ、暗くて不機嫌で、そして悲しそうな声が聞こえた気がしたからだ。

「、、あのさ、」
《?》
「何か、やなことあったの?」

別段、可哀想と入れ込んだ訳ではない。
ただ何故か、今田を気遣うときと同じような気分でいた。
歳下の、まだまだ希望のある若い子が、こんなに苦しそうに喋るから気になってしまったのだ。

(歳とったな、俺)

そして相変わらず、お人好しだった。
電話の向こうは無言で、通話が始まったときから思っていたが車の走る音が微かに聞こえてくる。
外にいるのだろうか。
俳優は、こんな時間になっても仕事をしていたのか。
そんな事を考えながら、彼の返事を待った。

《、、仕事が、上手くいかなくて。ドラマ、始まるじゃないですか。あれ、周りの人達の演技力についていけてないんです、俺》

(何で喋っちゃうかな、この子。本当に馬鹿なのか。否定して逃げろよ、、俺が悪い大人だったらどうする気だろう。この携帯番号だって、売ろうと思えば売れるのに)

無論そんな事をする気はないが、鷹夜はバレないように息をついて、もう一度ベッドに横たわった。
暗い天井を見上げ、今、彼がどんな顔で夜の道を歩いているのだろうと思い描く。

(まあ、なりすましかもしれないけどね)

モノマネが上手い人間と言うのはいくらでもいる。
この電話の向こうが、本当に竹内メイかは分からない。
けれどそれでも聞こうと思ったのだ。
彼がそんなに疲れて、人に害を加えないといけなくなった理由を。

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