僕たちはまだ人間のまま

ヒャク

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第60話「一方その頃」

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「、、俺も好き!!」

気がついたときにはそうこぼしていた。

「え、自分のこと?」
「ちげーわ!!鷹夜くんのこと」
「ぐわッ!!」

勢い良く抱きついて来た芽依に押し倒され、鷹夜はドサッとソファに仰向けに倒れ込む。
いくら柔らかいソファとは言え、背中が少し痛んだ。

「キャー!!やめてっ!私には夫と3歳になったばかりの娘がっ!」

そしていつも通りのおふざけが始まった。

「ぐっへっへっ、いいじゃねえか。旦那の小せえちんこより若くてぶっといのくれてやるからよお」
「あー、確かに大きかったよね、芽依くんの」
「あッ!?鷹夜くんやっぱり風呂場で俺のちんこ見たな!?」
「一瞬だけね、一瞬」

芽依は鷹夜に抱きついたまま、脚で支えて浮かせていた体重を一気に彼の身体に落とす。

「グェッ」

途端に苦しげな、カエルが潰れたような声が聞こえた。

「うそだろ、竹内メイ重過ぎる、嘘だろ」
「鷹夜くんてなんでこう言う距離感慣れてるの?」
「ええっ?」

抱きついたりパーソナルスペースを攻めても動じなかったり、芽依から見た鷹夜は男同士だからと言っていささかガードが緩いように思えていたのだ。
先程まで悪夢を見たと言って震えていた青年はどこへ行ったのか、あっけらかんと立ち直って鷹夜に覆い被さった状態で、芽依はずっと疑問に思っていた事を聞いた。

「ああ、、俺、男子校でさ。それに会社の駒井と、羽瀬って先輩も男子校出でよくチューされたりするからかな」
「えっ、ちゅーされんの!?」

ガバッと少し身体を離し、芽依は真上から鷹夜を見下ろす。

(鷹夜くんてまつ毛長いな)

拳1個分離れたすぐそこにお互いの顔があった。

「される。よく日和に怒られた。男同士だしどうでもいいじゃんな」
「え、うーーん。嫌じゃない?男同士でも女同士でも自分以外とされるの」
「え、そう?」

芽依は少しモヤっとしながら「どうでも良いと思うけどなあ」と言い続ける鷹夜を見つめる。

(大丈夫かなこの人、、いや、確か駒井さんも羽瀬さんも既婚者だって言ってたな)

だからと言ってしていいのかと言うとそうでもないように思える。
鷹夜の元恋人、山田日和が鷹夜の何が嫌で離れていったのかをうっすらと察した瞬間だった。

「まあ日和はあれかな。男子校に偏見あったから男同士でもそういうことされるかもしれないってずっと思ってたんだろうな」
「あれ。元カノさんと出会ったのって高校じゃなかった?男子校なのに?」
「そうだよ。ナンパしたの」
「鷹夜くんが、ナンパ、、!?」

あまりにも意外過ぎる返答に目を丸くする。
このドが付くほどにピュアで騙されやすい人間に限って結婚しようとしていた女性とのなれそめがナンパだとは芽依も想像していなかった。

「友達がナンパするって言い出して、ほぼ道連れ。声かけたらそのまま合コンやることになって巻き込まれた」
「で、自分はちゃっかりお持ち帰り?」
「持ち帰ってはねえよ。何なのそのすぐに身体の関係持ち出す感じ」

やっぱり芸能人てすぐにそうなるのか、と鷹夜は一応自分の胸を両手で隠した。

「何で胸を隠す」

芽依はジト、と鷹夜の行動を睨んだ。

「いやん。あたし、一回のデートで身体を許すような女じゃないの」
「はあ~?そんなもので天下の竹内メイを拒めるとでも?」

悪ノリした芽依は鷹夜に顔を近づけ、鼻先が触れ合う距離で大きな瞳を見つめ、片手で胸の上の彼の手を握った。

「鷹夜。見せたくない?恥ずかしいの?」
「ッッ、!!」

悪ノリが悪かった。
急に出してきた俳優・竹内メイの表情は堪らなく扇情的で、視線の動かし方すらいやらしい。
演技だと分かっていても、鷹夜はごきゅっと喉を鳴らして唾を飲む。
一瞬、唇を見つめられて彼がむっと口を閉じると、すぐさま瞬きをした芽依と目が合った。

(え、なに、え、キス?まさか、え、しないよな?しないよなあ!?)
「め、芽依くんごめんて、ごめんごめん、離して、ってか退いて、」

あまりの色気に目が回りそうだ。
心臓と股間に悪い。
そう思いながら何とか芽依の下から抜け出そうと鷹夜が身体をズラす。

「鷹夜」
「ちょ、嘘だろ待って?!ねえ待って、無理無理無理無理無理、やめて!?」

鷹夜の左手に芽依の指が絡み付く。
抵抗虚しく恋人のように指と指が絡められると、脚の間に芽依の膝が割って入った。

「っ、」

襲われるとはこんな感じなのだろうか。
男であり、セックスは誘う側、襲う側だった筈の鷹夜は「女の子の気持ち」を今味わっている。
不安と興奮と期待。
そんなものが入り混じって、芽依を直視できない。

「芽依くん!?」
「名前で呼んでくれないの?」

わざと鷹夜の耳元に唇を近づけ、吐息たっぷりでつぶやく。
鷹夜の全身がブルッと震えて、耳の後ろから首筋に掛けてこそばゆい感覚がぞわぞわと抜けていった。

「うっ、、、嘘だろッッ、竹内メイカッコよ過ぎッ、待って、心臓が持たない、めっちゃときめく!!すごい、これが竹内メイなのッ!?ぐぁあっ、顔が良いッ!!」

耐え切れなかった鷹夜は早口で叫んだ。

「、、、ブハッ!っふ、はははは!やめて本当に、ねえ!雰囲気とか大事にしてくれない?!」
「喋んないでえッ!!イケメン過ぎる妊娠するやめてえッ!!」
「ねえ!本当にっ、やめて!!あはははっやめて!」
「いやぁあッ!耳が孕むうう!」
「んはははははははッ!!」

思わず漏れ出た鷹夜の心の声を聞いて、芽依は満足したのか彼の上から退きながら大笑いし始める。
更にふざけが混じった鷹夜も笑いながら耳を押さえてソファの上をグルグルと寝返りを打ちまくって暴れた。

「ふっ、ふふっ、、いやあ、すごい良いもの見た、、はあ。おっさん勃つかと思ったわ」

実際問題、少し腰の奥がドクンドクン言っている。
顔面の破壊力と低い声での誘い方。
何より熱っぽい吐息を耳元に当てられたのが最高にドキドキした鷹夜は、ふう、と胸を撫で下ろした。
笑い過ぎて腹筋にきている。

「本当!?やべえな、、売れなくなったらAV行くかあ」
「やめなさいよ」

それはその業界の人にも失礼だろ、と頭を叩くと、芽依は「いたーい」と言いながら洗濯物を干しに風呂場へ消えていく。

(いやあ、堪らんかった。VRで出したら売れそうなイメージプレイ、、あ、飯どうしよう)

悪質な悪ふざけをしていたくせに、それが終わっても変にドギマギする事なく、鷹夜はヒョイと立ち上がってキッチンにある冷蔵庫の中身を見に行った。
彼の中ではこんな事も全て「おふざけ」に収まってしまう。
高校時代に散々やっていたせいだ。

「、、、ぷはあっ」

一方で、脱衣所の洗濯機から洗い物を取り出しハンガーに掛けながら、芽依は途中から止めていた息を吐き出した。
顔が熱くて、強張った手が小さく震えている。

「何で俺がドキドキしてんの」

堪らなくなってしゃがみ込み、持っていたハンガーを床に落として頭を抱える。
バチン、と両手で頬を叩くと、顔の熱さが良く分かった。
想いが溢れて抱きついてしまったあたりから、心臓の音が鷹夜に聞こえてしまうのではないかと恐ろしかったのだ。

(何かおかしい。本当に俺、近くにいてくれるなら誰でも良くなってんのかも。鷹夜くんにドキドキすんのおかしくない?そりゃ優しいし格好いいし顔は可愛いめだけど三十路だし歳上だし男!!あれ、男の子!!)

ドタ、と脱衣所の床に尻をついた。

(ダメだ、そろそろ彼女作らないと鷹夜くんのこと襲いそう。それはマジで事故だ。絶対ダメだ)

芽依は久々に泰清に連絡しようと心に決めた。
ここ1年程、芽依は恋人がいない。
正確には作らないようにしてきた面もあり、また、作ろうにも女の子が苦手になっているところがあり避けてきた。
そのせいか、変化が起きていたのだ。
あまりにも真剣に優しく鷹夜が自分に話す姿を見て、どうにも胸が疼き、苦しくなった。

こんなに自分を見てくれる。
こんなに優しくしてくれる。
無理すんな、と肩の力を抜かせてくれる。

鷹夜の持つしっかりとした考えと言葉。そしてこんな自分でも好きだと真っ直ぐ伝えてくれて、言葉だけでなく行動でもそれを教えてくれるところ。
芽依は先日からずっと、鷹夜のそんなところにドキドキしてしまっていた。

(鷹夜くんに迷惑かけるのだけはダメだ!!何とか彼女作るか、せめてこうやってお互い安心できる女の子を見つけよう)

フッ、と強く息を吐いてから立ち上がり、また洗濯物をハンガーに通して浴室の金属の竿に干していった。
これで浴室乾燥機を掛ければ、明日には全部乾いているだろう。

(だってさっき、、俺、本当にキスしそうになっちゃってたよなあ)

もんもんと、想いが揺れる。

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