2 / 6
第二話 照会の影
その知らせは、静かに届いた。
王城より、公爵家へ。
差出人は――外務局。
内容は簡潔だった。
“ある人物の身元について、正式な照会を行う”
たったそれだけ。
けれど、その一文が持つ重みを、軽く見る者はいない。
「……何かの手違いでしょう」
公爵夫人はそう言って、手紙を閉じた。
声音には余裕がある。
だが、わずかに指先が強張っているのを、見逃す者はいなかった。
「我が家に、そのような問い合わせが来る理由がありませんもの」
言い切るように、微笑む。
周囲もまた、それに同意するように頷いた。
けれど――
視線が、ひとりに集まる。
わたくしへ。
まるで、“心当たりがあるのではないか”とでも言いたげに。
婚約者が、わずかに口を開いた。
「……君は、何か知っているのか」
その問いに、わたくしは一瞬だけ考える。
答えるべきか。
それとも――
(……いいえ、まだ)
首を横に振った。
「存じ上げませんわ」
静かに告げる。
嘘ではない。
ただ、“すべてを知っているわけではない”だけ。
公爵夫人が、ふっと息をついた。
「やはり、関係ないようね」
安心したように微笑む。
その様子に、場の空気がわずかに緩む。
けれど。
その日の午後。
もう一通、王城からの書簡が届いた。
先ほどよりも、格式の高い封蝋で。
そして――
今度は、明確に名指しされていた。
わたくしの、名前が。
王城より、公爵家へ。
差出人は――外務局。
内容は簡潔だった。
“ある人物の身元について、正式な照会を行う”
たったそれだけ。
けれど、その一文が持つ重みを、軽く見る者はいない。
「……何かの手違いでしょう」
公爵夫人はそう言って、手紙を閉じた。
声音には余裕がある。
だが、わずかに指先が強張っているのを、見逃す者はいなかった。
「我が家に、そのような問い合わせが来る理由がありませんもの」
言い切るように、微笑む。
周囲もまた、それに同意するように頷いた。
けれど――
視線が、ひとりに集まる。
わたくしへ。
まるで、“心当たりがあるのではないか”とでも言いたげに。
婚約者が、わずかに口を開いた。
「……君は、何か知っているのか」
その問いに、わたくしは一瞬だけ考える。
答えるべきか。
それとも――
(……いいえ、まだ)
首を横に振った。
「存じ上げませんわ」
静かに告げる。
嘘ではない。
ただ、“すべてを知っているわけではない”だけ。
公爵夫人が、ふっと息をついた。
「やはり、関係ないようね」
安心したように微笑む。
その様子に、場の空気がわずかに緩む。
けれど。
その日の午後。
もう一通、王城からの書簡が届いた。
先ほどよりも、格式の高い封蝋で。
そして――
今度は、明確に名指しされていた。
わたくしの、名前が。
あなたにおすすめの小説
婚約者が私の妹と結婚したいと言い出したら、両親が快く応じた話
しがついつか
恋愛
「リーゼ、僕たちの婚約を解消しよう。僕はリーゼではなく、アルマを愛しているんだ」
「お姉様、ごめんなさい。でも私――私達は愛し合っているの」
父親達が友人であったため婚約を結んだリーゼ・マイヤーとダニエル・ミュラー。
ある日ダニエルに呼び出されたリーゼは、彼の口から婚約の解消と、彼女の妹のアルマと婚約を結び直すことを告げられた。
婚約者の交代は双方の両親から既に了承を得ているという。
両親も妹の味方なのだと暗い気持ちになったリーゼだったが…。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
薔薇は棘ごと咲きほこる ~悪役令嬢は今日、微笑んで終幕する~
白瀬しおん
恋愛
婚約破棄、国外追放——それが“悪役令嬢ヴィオレット”の運命だった。
恋愛小説の世界に転生した詩織は、その結末を知っている。
だから彼女は選んだ。破滅を待つのではなく、自分の手で物語を終わらせることを。
婚約者を奪われる前に、美しく関係を解消し、家業と事業に生きる道へ。
やがて彼女は、貴族社会の中で確かな地位と信頼を築いていく。
——これは、誰かの物語の外側で、自分の人生を選び取った“悪役令嬢”の物語。
いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・
二人は正反対の反応をした。
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です
希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」
卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。
「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」
私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。