6 / 21
6
しおりを挟む
食べに行くのはやめよう。
しばらく頭を冷やそう。マキさんを好きになるなんて。
今まで、こんなに癒しをもらって、生きる力をもらったくせに、迷惑はかけられない。
好きな気持ちをちゃんと閉じ込められるまで、行くのはやめよう。
それからは、とにかく仕事をして、頭の中からマキさんを追い出した。
一日中仕事をして、気付いたら寝てる。ふと目覚め、そこからまた仕事をして、いつの間にか寝てる、という生活をどれくらい続けたんだろう。頭がふらふらする。
でもとても仕事が早く進んで、納期のだいぶ前に仕上がった。
引きこもる前に働いていた会社で、僕が担当していた取引先の方が、「これからもぜひ藤森さんにお願いしたい」と言ってくださって、個人で請け負う今の僕に、仕事を依頼してくれ、とても良くしていただいている。
僕は高校卒業後、たまたま就職できた会社が、デザイン系の会社だった。そしてその中のグラフィックデザインの方へ回され、何も解らないので、雑用しか出来ない僕に、手を焼きながらも色々と教えてくれた優しい先輩がいた。
先輩から教わった事は必ずメモして、自分でも本を買って勉強して、根気強く僕に教えてくれる先輩の為に、とにかく早く一人前になれるように頑張った。自分にも仕事が合っていたみたいで、あの頃は楽しかったな。
その先輩が居たから今の僕があると思える。基本を全て教えてもらった。
だが先輩は、大学の友人に誘われたとかで、会社を辞めてしまった。会社を共同設立すると言っていた。
今もきっとスマートに仕事をこなしているんだろうな。とにかく仕事ができる人だったから。
早く仕上がって喜んでもらえたし。嬉しくて、昔の楽しかった思い出をちょっと思い出しちゃった。
今日はドラッグストアに買い物に行かなきゃな。
トイレットペーパーやシャンプーを買いに行かなきゃいけない。
ドラッグストアは駅前にあるから、人が多くてあまり行きたくない。
大通りは街頭が明るいし、夜の遅い時間でも人通りが多いから、僕は裏通りからしか行かない。
店内もすごく明るくて、本当に苦手だ。早く買って帰ろう。
店内の通路を曲がって、奥のトイレットペーパーのコーナーに行こうとして、心臓がバクバクした
あの黒い短髪でがっしりした肩。大きな後ろ姿。マキさんだ……。
ダメだ。ダメだ。
僕は、何も買わずに店内から急いで出た。
まだダメだ。全然蓋ができてない。
こんなんじゃ、まだまだお店には行けないよ。
暗い道を歩きながら、落ち着こうとするが、寝不足の頭が、店内でのマキさんの姿を脳内に何度も再現する。
その度に、心臓がドキドキして、息がちゃんとできない。ふらふらだ。
そんな状態だったから、咄嗟に避けられず、角から急に出てきた自転車と、おもいっきりぶつかって跳ね飛ばされてしまった。
うわぁ。いたたた。あまりの痛さにすぐには起き上がれない。
その間に自転車は走り去ってしまった。
追いかけるどころか、立ち上がるのがやっとだ。
頭は打っていない、脚は、痛いけど歩ける、でも、お尻がすごく痛い。一歩ごとに痛みが走る。
右の手首がジンジン熱い。利き手側だから困ったな。大丈夫かな。
とにかく、一歩ずつよろよろと、少しずつ進んで、どうにかやっと部屋に帰れた。
アパートの階段が一番の難所だった。
ドラッグストアに行ったくせに、何も買えず、自転車に轢かれて帰って来るって……。
何やってるんだろう僕は……。フフッ。
情けなさすぎて、涙が次々に流れ出す。ダメな自分が嫌になる。情けない、どうしようもない奴だ。
お尻が痛くて座れないから、横になるしかない。
そんな僕の目から、止まらない涙が次々溢れ、畳に染みを作る。
身体の痛さと、ダメな自分に、僕は嗚咽を堪えられず、ただただ、そのまま泣いた。
しばらく頭を冷やそう。マキさんを好きになるなんて。
今まで、こんなに癒しをもらって、生きる力をもらったくせに、迷惑はかけられない。
好きな気持ちをちゃんと閉じ込められるまで、行くのはやめよう。
それからは、とにかく仕事をして、頭の中からマキさんを追い出した。
一日中仕事をして、気付いたら寝てる。ふと目覚め、そこからまた仕事をして、いつの間にか寝てる、という生活をどれくらい続けたんだろう。頭がふらふらする。
でもとても仕事が早く進んで、納期のだいぶ前に仕上がった。
引きこもる前に働いていた会社で、僕が担当していた取引先の方が、「これからもぜひ藤森さんにお願いしたい」と言ってくださって、個人で請け負う今の僕に、仕事を依頼してくれ、とても良くしていただいている。
僕は高校卒業後、たまたま就職できた会社が、デザイン系の会社だった。そしてその中のグラフィックデザインの方へ回され、何も解らないので、雑用しか出来ない僕に、手を焼きながらも色々と教えてくれた優しい先輩がいた。
先輩から教わった事は必ずメモして、自分でも本を買って勉強して、根気強く僕に教えてくれる先輩の為に、とにかく早く一人前になれるように頑張った。自分にも仕事が合っていたみたいで、あの頃は楽しかったな。
その先輩が居たから今の僕があると思える。基本を全て教えてもらった。
だが先輩は、大学の友人に誘われたとかで、会社を辞めてしまった。会社を共同設立すると言っていた。
今もきっとスマートに仕事をこなしているんだろうな。とにかく仕事ができる人だったから。
早く仕上がって喜んでもらえたし。嬉しくて、昔の楽しかった思い出をちょっと思い出しちゃった。
今日はドラッグストアに買い物に行かなきゃな。
トイレットペーパーやシャンプーを買いに行かなきゃいけない。
ドラッグストアは駅前にあるから、人が多くてあまり行きたくない。
大通りは街頭が明るいし、夜の遅い時間でも人通りが多いから、僕は裏通りからしか行かない。
店内もすごく明るくて、本当に苦手だ。早く買って帰ろう。
店内の通路を曲がって、奥のトイレットペーパーのコーナーに行こうとして、心臓がバクバクした
あの黒い短髪でがっしりした肩。大きな後ろ姿。マキさんだ……。
ダメだ。ダメだ。
僕は、何も買わずに店内から急いで出た。
まだダメだ。全然蓋ができてない。
こんなんじゃ、まだまだお店には行けないよ。
暗い道を歩きながら、落ち着こうとするが、寝不足の頭が、店内でのマキさんの姿を脳内に何度も再現する。
その度に、心臓がドキドキして、息がちゃんとできない。ふらふらだ。
そんな状態だったから、咄嗟に避けられず、角から急に出てきた自転車と、おもいっきりぶつかって跳ね飛ばされてしまった。
うわぁ。いたたた。あまりの痛さにすぐには起き上がれない。
その間に自転車は走り去ってしまった。
追いかけるどころか、立ち上がるのがやっとだ。
頭は打っていない、脚は、痛いけど歩ける、でも、お尻がすごく痛い。一歩ごとに痛みが走る。
右の手首がジンジン熱い。利き手側だから困ったな。大丈夫かな。
とにかく、一歩ずつよろよろと、少しずつ進んで、どうにかやっと部屋に帰れた。
アパートの階段が一番の難所だった。
ドラッグストアに行ったくせに、何も買えず、自転車に轢かれて帰って来るって……。
何やってるんだろう僕は……。フフッ。
情けなさすぎて、涙が次々に流れ出す。ダメな自分が嫌になる。情けない、どうしようもない奴だ。
お尻が痛くて座れないから、横になるしかない。
そんな僕の目から、止まらない涙が次々溢れ、畳に染みを作る。
身体の痛さと、ダメな自分に、僕は嗚咽を堪えられず、ただただ、そのまま泣いた。
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる