優しくしないで

やのつばさ

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 青葉のアパートに行けて良かったよ。迷いが無くなった。

 ドアを開けたら一目出来る小さな部屋だった。

 
 小さい冷蔵庫が、ポツンと流しの横に置いてある。

 備え付けの、一つ口のコンロの上にはヤカン。
 
 あまり見ちゃ悪いとは思ったが、冷蔵庫を開けてみた。綺麗だ。バターしか入ってねー。
 
 他に食材を置いていそうな場所は見当たらない。

 食器も、皿、箸、マグカップが流しの上の棚にひとつずつ。その棚にはインスタントコーヒーとカップ麺が1つ。

 自炊はして無さそうだな。

 部屋の隅っこには畳まれた布団。小さなテーブルにはノートパソコンが一台だけ。その前に一つのクッション。

 あとは、ユニットバスと押入れ。これが青葉の住んでいる部屋だ。

 押入れにはプラスチックの洋服収納があるだけ、TVは見当たらない。

 他には何も無い。何も無い部屋だった。

 青葉に頼まれたパソコンをまずバッグに入れた。次にパジャマを収納の引き出しから出した、衣類用のバッグに、パジャマと引き出しの中にあるだけの服を全部入れた。

 この寂しい部屋に青葉を1人にさせたく無い。

 たとえケガが完治してもここに一人で居させたく無い。

 携帯も持たず、仕事も請け負いで、世間から距離を置いて1人暮らす青葉を想像して、病院で泣きべそかいて飯を食ってた青葉の姿と重なっちまった。

 どれだけ心細い思いをしてるんだ……。

 たった一人きりで。いつから一人なんだ。もっと早く声をかけていれば……。

 だが、今だからこうして強引に入り込めているんだな。何でも無い時だったら、強引に声をかけてたら店にも来てくれなくなっていたかも知れねー。

 ここから先は、俺が側に居る。

 退院させて、俺の部屋で看病する。青葉の全部の面倒を俺が見みてやる。

 部屋に連れて来ちまえば、後は俺に頼る様に、俺だけを頼る様に、甘やかして閉じ込めりゃいいな。

 何も分からない位に俺に甘やかされて、俺から離れられなくなっちまえば良い。



 幸い青葉の怪我の治りがいい様だし、点滴も明日までだと聞いた。だから明後日退院させる事にした。先生も服薬と栄養のある食事が出来て、誰かが付いていられるなら病院じゃ無い方が、患者が休まるだろうと考えていた様だったから、もう病院にいる必要はねーって事だよな。

 青葉きっと喜ぶぜ!

 病院側にとっちゃ毎日来る度に、俺から色々、青葉についてのいちゃもんみたいな事言われんだから、面倒な相手だったろうが、その甲斐あってちゃんと考えて貰えていたみてーだ。



 良し!明日青葉をびっくりさせてやろう。


 そんで、明後日から、俺の手厚い看病をお見舞いしてやるぜ!



 





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