優しくしないで

やのつばさ

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 次の日、面会の時間になったらすぐに槙斗さんが来てくれた。

 退院が嬉しくて、ソワソワしている僕を見るなり槙斗さんが吹き出した。

 「プフッ青葉分かりやすっ!遠足前日の小学生かアッハッハかっわいーなぁ」

 え?そんなに分かりやすいのかな?確かに少しソワソワしちゃってたかもしれないけど……。

 「あ、の、そんなに。…僕。分か…り…やす……いです、か……」

 「ん?悪い事じゃねーだろ?ただかわいいっつーだけだ」

 可愛いって槙斗さんはさっきから言うけど、僕?

 そんな事親にも誰にも言われたことなんて無い。槙斗さんの可愛いの基準はよく分からないな、挨拶がわり?なのかも。こんなちんちくりんの男の僕なんか可愛いなんて思うはずが無い。

 槙斗さんはおもしろい人だな。そして僕を退院させてくれちゃうすごい人だ。

 やっぱり退院が嬉しくてソワソワしちゃう。

 「じゃ、着替えような。服も持って来てるから」

 そうだな、着替えだよな。着替えは大変ですごく時間がかかるから、急がなきゃ待たせちゃうな……

 なんて考えてる間に、槙斗さんがベッドに更に近づいて来て、僕のパジャマのボタンを外し始めた。

 「あ。の……」

 「いーからいーから。任せておきなさいって。あんまり無理して動くと治りが悪くなるんだぞぉ。青葉は無理すんな」

 何も言えないまま、されるがままあっという間に着替えが終わった。

 槙斗さんは僕の着替えも上手だった。脱がせ慣れてる?のかな。僕はとっても恥ずかしかったんだけど。



 今僕は、槙斗さんが運転する車の助手席に座っている。お尻の下にはちゃんと丸いクッションを敷いてくれた。そして僕は少し現実逃避している。

 今の僕には車に乗る動作がとっても難しい。いや、出来ないと思う。槙斗さんが助手席のドアを開けてくれたので、近づこうとゆっくり歩きだそうとしたら「頭、気をつけろよ」
 と言った矢先、僕を軽々とお姫様抱っこして助手席に納めてしまった。

 一瞬の出来事だった、槙斗さんの腕の力強さ、胸板の逞しさ、そして顔の近さにドキドキして、バクバクして。僕はちょっとまだ現実に戻れそうに無い。

 槙斗さんの顔のアップは……僕の心臓に非常に悪い。鼻筋が通っていてとてもかっこよかった。

 なんて思い出したりしているから今だに隣の運転している槙斗さんを見ることができない。

 ふぅ。落ち着け落ち着け。ただ怪我人に手助けしてくれただけだ。そんなに意識してたら変に思われちゃうぞ。

 そうだ、退院の手続きも代わりに済ませてくれていたから、お礼をいわなきゃ、あと入院費がいくらだったのか聞かなきゃな。

 頑張って落ち着こうと努力をして、お礼を言おうと隣の槙斗さんの方を向いたら、端正な横顔が目に入り、ハンドルを握る見たことのない槙斗さんの姿に、見惚れてしまって何も言葉が出てこない。心臓がまた痛いほどに高鳴ってしまっている。

 そんな僕の視線に気づいたのか

 「尾骨平気か?痛くねぇ?もうちょっとで着くからな」

 と僕の方を向いて笑いかけられた。

 運転席の槙斗さんがカッコ良すぎて、僕のやっと出てきた声はただ息を吐いただけの様なか細いものにしかならなかった。

 返事くらいしっかりしろよ。どうしようもない自分に本当に情けなくなる。


 
 

 


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